【ビールの本棚】つなぐビール
ビールファンにはお馴染みもお馴染みなベアレン醸造所。傑作「クラシック」をはじめとしてドイツ式の作品を生み出す、岩手県は盛岡のブルワリーです。そのベアレン醸造所の専務取締役嶌田洋一氏が創業以来の秘話を語るのが本書。
公式webサイトによればベアレン醸造所の設立は2001年。日本のクラフトビール史を振り返れば、1994年の税制改正に端を発した地ビールブームが下火になりブルワリーの廃業も多く見られた逆風の時期に当たります。そんな中でいかにして醸造所が立ち上がり、いかにして地元の人々に愛されコミュニティを形成し、ビールファンにはその名を知らぬ者のいない名ブルワリーになっていったのか、創業者ご自身が語るわけです。面白くないわけがありません。
遅々として進まない工場建設、ムラっ気のある醸造家、ファンとの交流、工場での事故、震災と復興。全体を通して、ベアレン醸造所そのものが主語となって書かれている印象を持ちます。筆者の自分語りに終始していない感覚。成功したベンチャー企業の施策を学ぶビジネス書的な面もありながら、ベアレンにまつわる人々の情緒的側面もふんだんに盛り込まれ、バランスした一冊になっています。読みながら何度となく目頭が熱くなる場面も。
本書を知ったきっかけは、新宿の名店HighburyがSNSで紹介していた「酒の席での取り決めは有効」という言葉でした。他にも素敵な言葉の数々が本書を彩ります。たとえば、ベアレンのビールは「中間球」なのだそうです。ぜひ本書を手にとってその意味を確かめてください。それでは。
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