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スパイク・ジョーンズとフランキー堺:米日コミック音楽のこと その1

スパイク・ジョーンズは一度ちゃんと聴かなければ、と思いつつ、いままではシングル数曲(All I Want For Christmas (Is My Two Front Teeth)、Cocktails For Two、Never Hit Your Grandma With A Shovelなど)とクリスマス・アルバムやラジオ・トランスクリプションぐらいしか聴いたことのなかったのだが、やっとスタンダード・トランスクリプション(要するに、ラジオ放送音源ではない、通常のレコード音源)をまとめたキャリア箱を聴くことができた。


Spike Jones Presents A Xmas Spectacular 聖なる祝日だからなのか、さすがのスパイク・ジョーンズもひどい馬鹿騒ぎはしておらず、破壊力はほどほど。


◎超絶的なハイ・レベル

シティー・スリッカーズの箱を一聴、まず思ったのは高い技術と練度、そしてプレイヤーたちの献身だ。フランキー堺が、コミック音楽は技術がしっかりしているプレイヤーにしかできない、と云ったそうだが、スパイク・ジョーンズ&ザ・シティー・スリッカーズはまさにその通り、上手い人ばかりだし、練度もきわめて、きわめて、きわめて高く、完璧なアンサンブルを聴かせる。1940年代のアメリカにあっては、技術的に最高峰のグループのひとつだったに違いない。

つぎに、その最高の技術を要求するアレンジの複雑さに目がくらんだ。芝居に譬えると「割台詞」のように、ひとつのパッセージを数人がプレイする数種の「楽器のようなもの」に分解し、これを連続した一連のフレーズとして聴かせるのだから、アレンジも面倒なら、それをプレイするほうの困難も想像の外だ。



20人近いメンバーに音を割り振るのだから、ヘッド・アレンジとはいかず、ノーマルな五線紙に書かれるものではないにせよ、なんらかの譜面は絶対に必要で、残っているのならぜひ見てみたい。脚本と一体化された不思議な譜面だろうと想像する。

なにしろ、ピストル、ドアベル、車のホーン、鍋、フライパン、郭公時計、玩具のピストル、玩具の大砲、洗濯板(ジャグバンド・ミュージックでは当たり前のパーカッションとして使われるが)、ラバー・ラザー(ブーとおならのような音が出る笛)、スライディング・ウィスル、その他楽器ではないものを音楽に組み込むのだから、譜面を書かないわけにはいかないし、それはノーマルなものにはならないはずだ。


Spike Jones & His City Slickers - Radio Days タイトル通り、ラジオ放送音源を集めたもの。これはこれで面白い。マイクが一本しか立っていないのが……。演じるのは大変だったろう。


◎コンサート・カウベルの破壊力

じつにさまざまな「楽器(のようなもの)」の音が鳴っているのだが、やはりいちばん目立つのは、スパイク・ジョーンズ自身がプレイするコンサート・カウベル、音階を鳴らせるように音を整えられたカウベル群だ。じつになんとも強烈な支配力を持つサウンドで、フランキー堺が真似してつくったのもうなずける。わたしだって叩いてみたい!

フランキー堺とシティ・スリッカーズのCDは持っていたのだが、十数年前に手離して以来、聴いておらず、記憶しているかぎりでは、スパイク・ジョーンズのカウベルのほうがピッチが精確のような気がするし、サウンド自体も鮮やかな音色のような気がして、たしかめずにはいられず、友人の好意でなんとか再聴することができた。


フランキー堺 「スパイク・ジョーンズ・スタイル」
スパイク・ジョーンズ同様、ドラム・ストゥールは他のメンバーに譲り、指揮に専念したらしい。


やはり記憶に頼らなくてよかった。たしかに、しいてピッチを比較すればスパイク・ジョーンズのほうに多少の分がありそうだが、たいした差ではない。

ライナーノートでフランキー堺自身が、カウベルを切ってピッチを合わせていったのだが、あまり精確すぎるのも面白くないからと、多少外れたままでオーケイにした、と云っている。そういえば、スパイク・ジョーンズのものも、どの音だったか、明らかに外れているものがある。わかっていながら、そのままにしてあるに違いない。

両者の差はサウンドの鮮やかさのほうにある。しかし、これもカウベルそのものの差というより、マイク・セッティングの違い(つまりはコンソールのインプット数の差)のような気がする。フランキー堺のものもあの時代の録音としては悪くないのだが、やはりアメリカの録音技術は頭抜けていた、それだけのことだと思う。


フランキー堺とシティ・スリッカーズ リハーサルだろう。左端、ピアノのところに桜井センリ、その手前に立っているのは植木等、その右、タクトを握るのはフランキー堺、ずっと右、立ってトロンボーンを吹いているのは谷啓。右端にカウベル・ラックが見える。

◎カウベル・ラック

ただ、スパイク・ジョーンズのほうはすごく速いパッセージを叩いていて、どういう風に並べていたのかが気になり、調べた。都合のいい写真は見当たらず、チューブ・クリップを漁ってみたら、なるほど、そういうことか、だった。


コンサート・カウベル・ラック。大昔のTV番組のクリップのキャプチャーのため、不鮮明だが、手前が低く、奥に向かって高音になっていく。叩いているのはスパイク・ジョーンズ自身。


ラックはサイズも形もヴァイブラフォーンに似ている。ここにカウベルが2段で並べてある。なぜ2段かというと、ピアノの白鍵と黒鍵と同じようにしたからだと推測する。たまにグリサンドのような叩き方をするので、その場合、よけいな音(半音)を鳴らさないようにするには、そういう風に分けないとまずいし、慣れてもいるのだから、叩きやすくて合理的だ。

フランキー堺のカウベルはどうなっていたかというと、不明瞭な写真が一枚あるだけだが、2段ではないように見えるし、半音もあり、2オクターヴ以上の音域をカヴァーしているスパイク・ジョーンズのものと比べると、カウベル自体も少なく、半音はないのではないだろうか。この差が、スパイク・ジョーンズのカウベルのド派手な印象を生んだのだろう。


日本製コンサート・カウベル。上掲のリハーサル写真を拡大した。


◎先祖と子孫、冗談音楽の系譜

という見出しで、マルクス兄弟(とくにチコ)、三木トリロー、クレイジー・キャッツのことを書こうと思ったのだが、簡単に片づくと思ったスパイク・ジョーンズの調べものにひどく時間を食われてしまったし、それに、いずれのアーティストも大物、一筆書きは無理そうなので、今回も延長戦ということに。



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