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ドナルド・ダック・ダンの圧倒的グルーヴ:1967年のStaxレヴューでのMG's

ふだんは録音が忙しくて、スタジオから出ないMG'sが、ヨーロッパくんだりまで出かけた、1967年のスタックス・レヴューを見た。

ちょっとアル・ジャクソンのドラミングでも見てみるか、ぐらいの気楽な気分だったのだが、ダック・ダンのプレイがすごくて唖然とした。

◎パッケージ・ショウ

1968年、たぶん、六月だったと思うが、新宿厚生年金で、モータウン・パッケージ・ショウというのを見た。予定ではスティーヴィー・ワンダー、マーサ&ザ・ヴァンデラーズ、テンプテーションズが来ることになっていた。

しかし、エディー・ケンドリクスか誰かが風邪かなんかで旅をできず、テンプス抜きになり、前売りは買い戻し、当日券のみ、全席一律千円となった。

前売りを買わずに、行き当たりばったりで厚生年金に行ったわれわれ子供三人組は、三分の一の値段でチケットを買え、しかも、前から三列目ぐらいの真ん中附近の席が確保できて、大喜びした。


新宿厚生年金のショウはライヴ盤にもなったが、日本盤LPが出たきりだったようで、米盤はなく、CD化もされず、いまだに聴いたことがない。しかし、アメリカからはドラム、ベース、ピアノ、ギターというリズム・セクションが来ただけ、それもスタジオ・エースではなく、ツアー要員だから、いま、大人の耳で聴けば、たいしたことはないんじゃないだろうか。


あの時代、モータウンがそういうパッケージ・ツアーをやっていたように、スタックスも一座を組んで旅をしたのは、当時もライヴ盤を見てわかっていたが、モータウンとは違って、日本には来なかったので、見ることはかなわなかった。

その67年の欧州ツアーの際の、テレビ放送用のステージを記録したのが、今回見た、ダック・ダンが圧倒的なプレイをしているヴィデオ。チューブにもあがっているようなので、あれこれゴタクを並べてもしようがない。じつに興味深いパフォーマンスだった。

◎アル・ジャクソンとダック・ダンの比率

はじめて買ったMG'sの盤は、1968年のサム&デイヴの「ダブル・ダイナマイト」だった。

Sam & Dave - Double Dynamite, 1968 国内盤LPフロント・カヴァー
デザインとタイトルは米盤と同じだが、収録曲は大きく異なっていた。


60年代のスタックスの盤(当時、スタックスはアトランティックの傘下に入っていたので、盤にはアトランティックのロゴがついていた)はほぼすべてMG'sがプレイしたので、クレジットがなくても、たいていはドラムズはアル・ジャクソン、ベースはダック・ダン、ギターはスティーヴ・クロパー、キーボードはブッカー・T ・ジョーンズ、ピアノがデイヴ・ポーター、管はマーキー・ホーンと想定してよい。

じっさい、あのサム&デイヴのLPは、ドラムはどの曲もすべて同じ人のプレイに思われた。世間でヒットしていたのはHold On (I'm Comin')だったが、わたしは同じヒット曲でも、Soul Manのほうがはるかに好きだった。それはドラムとベースのコンビネーションによるグルーヴが素晴らしかったからだ。

いま引っ張り出してSoul Manを聴き直したが、記憶にあるよりすごいグルーヴで唸った。うちにはステレオとモノの両方のSoul Manがあるのだが、この曲に関する限り、アル・ジャクソンのキック・ドラムとダック・ダンのベースが一体化して聴こえるモノ・ミックスのほうがいい。ステレオ盤も悪くないマスタリングなのだが、ドラムとベースが左右に泣き別れなので、グルーヴが弱く感じられる。


MG'sのプレイ中の写真を探したが、ほんの一握りしかなかった。スタジオにこもりきりで、ツアーに出ることなどめったになかったせいだろう。しかし、そのおかげで、オーティス・レディングが死んだ飛行機事故の犠牲にならずにすんだわけだが。


子供の時、スピーカーの前に寝転がったり、起き上がってドラム・スティックを手にしたりしながら、えんえんとこの盤を聴きつづけたのが思いだされ、なんとも懐かしいが、しかし、LPではこんな広いDRではなく、低音は明瞭には聴こえなかった。

そのせいもあると思うが、MG'sの強力なグルーヴを支えているのは、まず第一にアル・ジャクソンのドラムであり、ダック・ダンのベースがそれを補佐している、と考えた。四分六で、重みはジャクソンのほうにあり、とくにキックのビートが、MG'sのグルーヴの根幹だと思っていた。

◎ライヴ・パフォーマンス

しかし、今回、67年のツアーでのプレイを聴いて、同じ四分六でも、六はダック・ダンだと感じた。ダンのベースが根幹であり、ジャクソンがそれを補助する、という印象なのだ。


欧州ツアーのショット。アンプがマーシャルなのでビックリした。フレーム・アウトしているが、ブッカー・ジョーンズのオルガンもマーシャルにつながっている。


むろん、昔のライヴではドラム、とりわけキックの音はきれいに拾えなかったので、そのせいもあると思う。ベースのほうが拾いやすいから、そちらが耳につくのかもしれない。

スタジオでは誰しも冷静なもので、音もそれほど暴れさせないものだが、ライヴでは気合が入り、プレイも躍動する傾向がある。とくに、MG'sがバッキングしたようなタイプの音楽は、ライヴでは客を煽ろうと派手なノリになる。

それがドナルド・ダック・ダンというプレイヤーの気性に合ったのだろう。スタジオより強い音を出し、激しいプレイをしている。体や腕、指の動きも派手で強い。これほど運指が強いベース・プレイヤーはめずらしい。たぶん、強い音を出すために、右手のプラッキングも力いっぱいやっているため、それに応じて、左手もきつく弦を押さえる必要があるからなのだろう。


これは別のツアーの写真。アンプはマーシャルではないし、ドラムもこちらはグレッチではない。つまり、欧州ツアーに持って行ったのはベースとギターだけで、アンプ、オルガン、ドラム・セットはすべて現地調達で済ませた、ということなのか?


◎日本盤Double Dynamiteのコンパイリング

買ったときは知らなかったのだが、1968年、子供のわたしが手にした日本グラモフォン製のサム&デイヴDouble Dynamiteは、米アトランティックがリリースした同題のLPとは異なるものだった。

オリジナル・アルバムではなく、Double Dynamiteから六曲、残りは他のアルバムからとった編集盤だった。日本グラモフォン/ポリドールは米英の盤の収録曲やデザインを改変するので悪名が高く、ずいぶん腹を立てたものだが、このサム&デイヴのDouble Dynamite改だけは、よくこれだけの選曲をした、とただただ感心する。嫌いな曲はゼロ。素晴らしい選択である。

国内盤Double Dynamiteのトラック・リスティングは以下の通り。

01 Hold On! I'm A Comin'
02 I Take What I Want
03 Just Me
04 It's A Wonder
05 When Something Is Wrong With My Baby
06 You Got Me Hummin'
07 Soul Man
08 Sweet Pains
09 I'm Your Puppet
10 I Don't Need Nobody (To Tell Me 'bout My Baby)
11 I Got Everything I Need
12 Use Me

こちらはどこか不明の国のCDフロント・カヴァー。国内盤LPと違って、左肩にマトリクスが書かれていない。


ヒット曲は誰でも選べる。よくまあ、それに目を付けたものだ、と感心するのは、Just Meだ。もとはHold On, I'm Comin'に収録されたもので、その後、この曲を収録した編集盤はないと思う。

Just Meに代表されるように、じつに目配りが行き届いていて、いったい誰がコンパイルしたのか、気になって仕方ない。ポリドール、グラモフォンは、盤質も悪く、デザインも無神経に変更するので、当時は日本最悪のレコード会社と思っていた。しかし、このDouble Dynamiteが国内編集なのだとしたら、まんざらボンヤリ者ばかりではなかったことになる。

◎ダック・ダン、メンフィスをはるか遠く離れ、極東に死す

ドナルド・ダック・ダンは、2012年5月、仕事で訪れた東京のホテルで、朝、死んでいるのを発見された。前夜、ブルーノート東京でプレイし、宿舎に戻り、就眠中に亡くなったらしい。


ダック・ダンとフェンダー・プレシジョン、そしてマーシャル・アンプ


死因は公表されていないようだが、心臓か脳の発作なのではないだろうか。前夜まで五日連続で二ステージずつプレイしたそうだが、齢七十にして、ハイ・テンションのプレイをつづけたら、何が起きても不思議ではない。

しかし、没する直前まで、ばりばり弾いていた、というのは、ダック・ダンらしい、と感じる。メンフィスから遠く離れた東京のホテルだったのは、いくぶんかお気の毒と感じるものの、ミュージシャンなのだ、旅に斃れたのは本望だろうと思う。

おかしなことになった。スタックス・レヴューを見たのは、二週間前の一月十日に没したサム&デイヴの片割れ、サム・ムーアの追悼、線香がわり、というつもりだった。


サム&デイヴとダック・ダン。向かって右がサム・ムーア


ところが、ヴィデオを見たら、サム&デイヴどころの段ではなく、ダック・ダンのプレイがすごくて、ほかのことに頭が廻らなくなってしまった。

いや、サム&デイヴもきっちりやっていて、よろしかったのだが。昔から、スタックスのロースターではこのデュオがいちばん好きで、そのつぎがエディー・フロイドだった。オーティス・レディングはあまり興味がなかったし、はやり、この欧州ツアーを見ても、その考えは変わらなかった。よって、かつての国内盤と同じ構成のDouble Dynamiteを自家醸造し、供養のつもりで三回聴いた。

@tenko11.bsky.social

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