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古き良き(とは限らない)クリスマス・デコレーションLPデザイン その3

◎犬、猫、ロバ

当然ながら、クリスマス盤のカヴァーを飾る主役は、前々回前回で見たように、サンタ、トゥリー、クリスマス・ボール、そしてトナカイと馬なのだが、ほかにも生き物を使ったものはある。



まずは猫。買ったら高そうだけど、こういうのは当然、動物仕出し屋から借りるはず。猫は段ボール箱が大好きななので、こういう設定ならおとなしくしてくれるよな、てなあたりで通り過ぎようとしたのだが、よく見たら前肢を組んでいる! そういう特技があるのかねえ。しかし、クリスマス・プレゼントに猫をもらっても困るんじゃないだろうか。



これは馬の部のつもりでフォルダーに入れておいたのだが、落ち着いて見れば、馬じゃなくて、ロバ。積み荷は樅の木らしい。いや、赤が点々と見えるので、柊か。これから近くの町で売るために山から下りてきた、ぐらいの思い入れなのだろうが、ロバを牽いているのが子供というのがなんだかねえ。クリスマス→ディケンズ『クリスマス・キャロル』→貧民街の子供、という連想が働いてしまう。

車輪の脇にいるのは犬なのだろうけれど、あまり犬っぽくなくて、ラクーンかな、などとよけいなことを考えさせられた。今回、IAでいただいたアルバム・カヴァーの絵の中で、これがいちばんタッチが古めかしい。開拓時代、といっては古すぎだが、そういう遥か昔のセンスを感じる。

もうひとつ、鳥というのがあるのだが、これは長くなるので後述。

◎スターたち

まずは、フィル・スペクター、アル・カイオラのクリスマス盤と並ぶわが年来の大フェイヴ、毎年聴いているディーン・マーティンのキャピトル時代の代表作であるA Winter Romance。



音も素晴らしい出来だが、ディノのプレイボーイ・ペルソナを精一杯生かしたデザインが、またなんとも魅力的だ。複数の写真を合成し、盛大にレタッチをかけているのだと考える。PSのようなディジタル・トゥールなど存在しない時代の産物だということをお忘れなく。

タイトル曲、A Winter Romanceはアルバム・オープナーで、そのファースト・ヴァースは"I never will forget the station where we met, you dropped your skies, a happy circumstance, no one would have guessed we had started a winter romance"となっていて、どこかリゾート地に向かう列車の出発駅で、女性がスキーを落としたのをきっかけにロマンスがはじまった、というストーリー。

アルバム・カヴァーはこの設定に基づく。目的地に着いて、アツアツの二人はロッジの手前で抱き合っているのだが、ディノは天下のプレイボーイ、ほかの女が放っておかない、彼女の隙を見てディノに色目を使う、ディノももちろん、いまはアレなんで、またあとでね、という気持で横目で見返す、という、じつに愉快な映画的デザインである。さてお立会い、50年代ハリウッド・ロマンティック・コメディーのはじまりはじまりい、である。

音も素晴らしい出来で、シンガーとしてのディノの代表作である。とくに、無数のヴァージョンがあるLet It Snow, Let It Snow, Let It SnowとBaby, It's Cold Outsideは、それぞれの曲のベスト・レンディションと考える。



クリスマスと云えば、ビング・クロスビーということになっている。これはビングのキャリア・アンソロジー・ボックスのフロント・カヴァー。いまでは箱なんか掃いて捨てるほどあるが、LPの時代には、ポップ分野ではそう多くはなく、ビングは特別なスターであったからこういうものがリリースされたのだろう。好ましいデザイン。

スターによるクリスマス・アルバムというのは、ネーム・ヴァリューに依存してしまうのか、デザインがお留守になる傾向がある。そういうのをいくつか並べる。






ということで、先にあげたディノとビングのものは例外的に手間のかかったデザインだったのだ。

◎We Are Caroling:ハードコアなクリスマス・ソング

「クリスマス・ソング」というとヒット・チャートに登場するようなポップ・ソングまで含まれるのだが、「クリスマス・キャロル」はそういうものを含まず、純粋にクリスマス、すなわちキリストの生誕をことほぐ聖歌のみを指す。宗教行事のための歌だ。




日本はキリスト教国ではないので見かけないが、クリスマス・シーズンには、敬虔なキリスト教徒がキャロリングということをする。クリスマス・キャロルを唄って、貧しい人への喜捨を募るのだ。近ごろはめったに見なくなってしまったが、以前は歳末によく見かけた救世軍の社会鍋、あれにクリスマス聖歌をプラスしたようなものである。



このフロント・カヴァーになぜ四角いグリッドが描かれているのかと云うと、これは窓枠で、窓辺でキャロリングする人たちを、家の中から見ている設定なのだ。日本でもお坊さんが戸口で鈴を鳴らして喜捨を求めることがあるが、あれと同じようなことをクリスマスにするので、このカヴァーはそれを題材にしている。昔のニューヨーカー誌のひとコマ漫画を思わせるようなタッチの絵で、非常に好ましい。

◎バード・ウォッチング・ソング

ここからは落穂拾い。一見で意味がとれず、考え込み、調べるはめになったデザインを少々。



これは、動物部をつくり、そこに馬や猫と一緒に収めようかと思った一枚なのだが、なぜ鳥の絵なの、どうして洋梨が描きこんであるの、どういう背景なの、と疑問を持ったのが運の尽き、好奇心は九つの命を持つ猫をも殺すほど危険なものと古来云われる、例によって、解読にひどく手間取った。

画面上にある文字情報を読んでみよう。鳥の頭に「クリスマスの初日、わたしの愛する人は洋梨の木に止まる鶉を送ってくれた」と書いてある。これで鳥は鶉とわかった。一歩前進。

そもそも、飾り文字なので面倒くさくてタイトルを読んでいなかった。読んでみた。「RCA Victor Presents Music For "The Twelve Days of Christmas"」とある。The Twelve Days of Christmasという古い民謡をフィーチャーしたアルバムと知れた。


Roger McGuinns - The Folk Den Project フォーク・ソング大百科とでもいうアルバムで、数年かけて録音、リリースしたものをひとつの箱に集大成した。


このアルバムは聴けないが、The Twelve Days of Christmasという曲は持っている。十種類以上あったので、その中からロジャー・マギンのヴァージョンを聴いてみた。長い曲で聞き取りは面倒、歌詞サイトのお世話になった。

日本では、クリスマスは前夜祭である24日と当日の25日でおしまいだが、クリスマス・カードにMerry Christmas and a Happy New Yearと書くように、クリスマス・ホリデイはその翌日、26日にはじまり、エピファニー(顕現祭)の1月6日まで、12日間つづく。われわれが正月七日あたりに松飾をとるように、彼らはクリスマスの最終日、エピファニーの6日にトゥリーやリース、その他のクリスマス飾りを片づける。

この歌はそのホリデイ・シーズン(聖なる祝日期)のすべての日の出来事を語っている。その初日、すなわち26日には、彼女は洋梨の木と鶉を一羽受け取った。さらに、

27日 キジバト2羽
28日 フレンチ・ヘン(フランス産の鶏の種らしい。和訳語なし)3羽
29日 クロウタドリ4羽
30日 金の指輪五つ

というぐあいにエピファニーまでの12日間に12種類のプレゼントを受け取るという、求愛がテーマの古民謡で、ものすごく長くて草臥れるから列挙は五日間で打ち止めにする(29日はcalling birdとあるが、これはcolly birdの訛りだそうで、colly birdとは何かというとcommon blackbirdを意味するとやら、これでようやくクロウタドリという日本語に辿り着けた。好奇心は猫をも殺すのだ)。

なぜ鶉で、なぜ洋梨なのかということは調べなかったが、推測はした。鶉は一度に数個から12個ほど卵を産むそうで、これが多産のイメージを伴い、求愛の贈り物にふさわしいからではないか?

洋梨はpearと書き、ペアと発音する。二つひと組のpairに通じ、これまた求愛の儀式にふさわしい縁起物とみなされたのだろうと思う。

鳥尽くしになっているのは、鳥類の求愛行動が広く知られていたからではないかと考える。いや、あるいは何かのフォークロアに源があるのかもしれないが。


RCA Victor Presents Music For "The Twelve Days of Christmas"のバックカヴァー。12月26日から1月6日のエピファニーまでのクリスマス・ホリデイ全12日分、すべての贈り物の絵が描いてある。だんだん数が増えていき、最後は12人のドラマーになる。


ふつう、唄というのは、形式を持っているもので、たとえば、ヴァースは4行1連が多く、あいだにコーラスやブリッジをはさみつつ、それを3回繰り返したりするなんてパターンが一般的だ。ところが、The Twelve Days of Christmasにはそういう規則性はなく、贈り物の数が増えていくのに合わせて、連あたりの行数も増大していく。こんな歌はほかにない。好奇心のおかげで半日ほどの時間を食われる羽目になったが、こういう歌が存在することを認識できたので、使った時間分の知見は得た、ということにしておく!

◎音と香りのハーモニー?

つぎは、アロマ・ディスクという面妖なもののクリスマス・アルバム。フロント・カヴァーには、なんだか疲れたようすのサンタクロースが描かれ、その手前に機械があり、そこから煙か何かが立ちのぼっている。左肩に惹句があり、「音と香りのハーモニーをことほぎたまえ」と云っている。



はあ? 香りの出るLPかよ、と思ったのだが、そこまで奇矯なものではなかった。アロマ・ディスク自体は、たんに香りを発する電子香炉とでもいうようなもので、音楽とは関係ないらしい。いまでもあるアロマ・ディフューザーという現代的香炉のようなものの初期ヴァリエーションだった。

このクリップを見ると、ディスクもプレイヤーも小さいし、音も記録されていないことがわかる。それなのにLP(アンディー・ウィリアムズ、トニー・ベネット、パーシー・フェイス、メル・トーメなどとアーティストの名前と曲名がフロントに書かれている)だということは、つまり、ノーマルなLPにアロマ・ディスクの小さな香り記録メディアがセットになっているということだろう。

まったくもう、人騒がせなものをつくるなよ! であった。しかし、クリスマスの香りというのはどういうものなのか、ちょっと気になる。♪Chestnut roastin' on an open fireというんで、栗が焼けるにおい、なんてことはないねえ。

◎見えるコーダ

画像加工を済ませ、準備はしてあったのに使わなかったものがたくさんあるので、最後に、そういうものをずらずらと並べておく。











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