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Bumble Bee Twistとリムスキー=コルサコフのThe Flight of the Bumble Bee棚卸 その1 ポップ篇

(これは「サーチャーズとラヴァーン・ベイカーのBumble Bee、ついでにリムスキー=コルサコフのThe Flight of the Bumble Bee」という記事の続篇、ないしは枝分かれなので、気になる方はそちらのほうもご参照あれ。)

Everythingで検索して転がりだしたBumble Bee Twist=The Flight of the Bumble BeeをただFB2Kにドラッグして、聴きくらべ、それを書くだけの簡単なこと、のはずだった。

ところがどっこい、またしてもひどい当て外れで、ヴェンチャーズの各ヴァージョンを比較したら、怪しげなヤツが複数あり、どこから出現したヴァージョンなのかを調べるだけで、滅法界に時間がかかってしまった。


ヴェンチャーズのBumble Bee Twistのライヴはたくさんあるのだが、改めて検討すると、いったい、いつ、どこで録ったのよ、と首を傾げるものがある。このThe Ventures On Stageのヴァージョンも考え込んでしまった。なあにがAround The World - In Japan, England & The U.S.だ!


そっちが面倒なので、他のヴァージョンからはじめようと思ったのだが、こっちの橋にもやっぱり悪鬼が待ちかまえて通せんぼをしていた。しかたない。怪しいところなど何もないトラックを先に片づけ、最後に怪しげなブートで手に入れたヴァージョンについて、その捜査過程を含めて書く。

◎ペレス・プラード盤

いうまでもなくペレス・プラードはマンボの人だが、速すぎて、彼のThe Flight of the Bumble Beeをマンボ・アレンジと云うべきか否かは判断不能。いつもの「ウッ!!」という掛け声が入っているから、マンボに分類しちまえ! という見方もあるとは思う……。

リード楽器はトランペット、このチャレンジングなフレーズをごまかさずにプレイしていて、いや、お見事、立派哉立派哉。ピッチも盤石の安定ぶりで、すばらしく上手いプレイヤーだ。


The Real Perez Pradoというペレス・プラードの3枚組編集盤。いかにも「我こそはマンボ・キングなり!」という写真、デザインで、思わず笑ってしまう。


ペレス・プラードの盤ではすさまじいドラマーに遭遇したことがあるが、このヴァージョンは問題なし、というか、そもそもトラップ・ドラムは聞こえず、ボンゴやカウベルやクラッシュ・シンバルなどのパーカッションばかりが聞こえてくる。よって、リズム楽器も問題なし。結論、悪くないヴァージョンなり。

◎オリー・ミッチェル登場!

ということで済ませようとしたが、よせばいいのに、このペレス・プラード盤The Flight of the Bumble Beの初出アルバムを調べてしまった。

わかってビックリ。1957年の"Perez!"というアルバムのために録音されたもので、各曲のソリストのクレジットがあり、ほかの曲のトランペットはペレス・プラード楽団のメンバーらしいのだが、The Flight of the Bumble Beだけは、オリー・ミッチェルとあって、えええええ! であった。


Perez Prado - Perez, 1957 モノクロ写真に着色したのだろう。土産物の絵葉書みたいな味があってよろしい。マンボ自体にも土産物のようなキッチュな味があった。


オリー(オリヴァー)・ミッチェルはペレス・プラード楽団のメンバーではない。ハリウッドの有名なスタジオ・プレイヤーで、膨大な数のセッションでプレイした。ビリー・ストレンジは「世界一のトランぺッター」と激賞し、自分のセッションではまずオリーに声をかけたと語っている。

ミッチェルの写真を入れようと検索したら、おっと、というものにぶつかってしまった。まったく犬も歩けば棒に当たる、検索するたびに、ありゃりゃの連続。それが以下の写真。


ハーブ・アルパート、オリー・ミッチェル共著「Know Before You Blow: A Contemporary Trumpet Manual」とある。トランペットの教則本だろう。


ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスの録音では、アルパート自身はプロデュースに専念し、かわりにオリー・ミッチェルがトランペットをやった、という説を四半世紀ほど前に、たぶんA&Mファン・サイトで読んだ。ミッチェルはハリウッドの大エース、第一人者だったから、べつに不思議な話ではない。しかし、証拠はなく、あくまで「噂」「推測」だった。


ティファナ・ブラスは架空のバンド、スタジオ・プロジェクトにすぎず、ツアー・バンドが組まれたのはずっと後年のこと。このデビュー盤ではアール・パーマーがドラム・ストゥールに坐り、ハル・ブレインはティンパニーをプレイした。のちに、ハルがストゥールに坐り、彼のアイディアによるキック・ドラムの4分の連打で有名なA Taste of Honeyがヒットする。


そして、このミッチェルとアルパートとの2ショットを表紙にしたトランペット教則本を見て、これはもう、TJBのリード・トランぺッターはオリー・ミッチェルで確定。

ただ、TJBのトランペットはたいてい2本のハーモニーやユニゾンで、その片方がアルパートであった可能性は残る(いや、わたし自身は、もうひとりも誰かスタジオ・プレイヤーだったと考えている。そちらの手掛かりもいずれ見つかると期待しよう)。

◎ホセ・フェリシアーノのスタジオ録音とライヴ盤

フェリシアーノのThe Flight of the Bumble Beeは、スタジオ、ライヴともに、むろん、ヴォーカル・カヴァーではなく、フェリシアーノのスパニシュ・ギター一本のインストだ。



さすがはフェリシアーノ、という高速プレイで、スタジオ盤はミス僅少、かなり精確にあのメロディー・ラインを弾いている。フラット・ピッキングのアップ&ダウンで、この速度の16分音符(だと思うのだが、カウントしたわけではない!)を弾くのは無理そうだし、たしか、フェリシアーノはフィンガリングの人、フラット・ピックもサム・ピックも使わないはず、よって、たぶん、人差し指と中指で交互に弾いているのだと推測する。たいしたものだわ。

ライヴ盤はスタジオ録音よりラフなプレイで、ミスタッチが多く、精度は高くないが、これは意図的なのだろう。ライヴでは、委細かまわず、豪快に弾き倒したほうが客をエクサイトさせるに違いない。しかし、そういうのは趣味ではないので、わが好みは精度の高いスタジオ盤のほうだ。


ホセ・フェリシアーノのThe Flight of the Bumble Beeのライヴ・ヴァージョンを収録したオムニバス盤VA - Bob Dylan's Greenwich Village。ディランと同時期にグリニッジ・ヴィレッジで活動していた人たちの曲を集めたものらしい。


◎スパイク・ジョーンズ&ヒズ・シティー・スリッカーズ盤

スパイク・ジョーンズについては、「スパイク・ジョーンズとフランキー堺:米日コミック音楽のこと その1」「その2」に書いたので、なんなら、そちらもどうぞ。

その記事にも書いたが、シティー・スリッカーズのプレイヤーはみな手練れだし、どの曲もアレンジが滅法複雑なので、バンドとしての練度もきわめて高い。



スパイク・ジョーンズ盤The Flight of the Bumble Beeのリード楽器はトロンボーンだが、しっかり、誤魔化しなしに、あのメロディーをプレイしているのは立派。

たぶんバルブ・トロンボーンを使ったのだろうが、スライドでやったのだとしたらすごい。ピッチがとんでもないところにジャンプせず、近傍を高速で移動するメロディー・ラインだから、かろうじて演奏可能であり、スライドでやった可能性もゼロとは云えない。

(後日の訂正。あとで聴き直したが、スラーを使っている箇所があり、バルブではなく、スライドだとわかった。ホント、上手いプレイヤーだわ!)

◎ジャン=ジャク・ペレエ盤

ペレエはフランスのミュージシャンで、主として電子音楽の分野で活躍した。このThe Flight of the Bumble Beeを収録したアルバムMoog Indigoからのシングル・カットである、Passport to the Futureがマイナー・ヒットになり、当時、ラジオで聴いたのをかすかに記憶している。あの時代にはめずらしいモーグ・シンセサイザーが使用されていたし、楽曲もキャッチーだったからだ。

Jean Jaques Perry - Moog Indigo, 1970
タイトルはもちろん、デューク・エリントンのMood Indigoのもじり。


左右のチャンネルに振り分けられたダブル・ドラムは両方とも本物のトラップ・ドラムだろうし、ボンゴやピアノなども同じく、それにシンセサイザーも、あの当時はシークェンサーはまだ普及していなかったはずで、マニュアルで弾いているのだろう。ピアノだと大変だが、タッチの軽いキーボードなら、これくらいのプレイはできて不思議はない。わたしでも半日ばかり練習すれば――いや、やっぱり無理か!

いまになると、電子音などどうこういうほどのものではないが、でも、アナログ・シンセサイザーの音には、ちょっとだけノスタルジックな響きを感じる。

◎スキップ・マーティン盤の完璧なアンサンブル、スケール感あるサウンド

このヴァージョンがいちばんすごかった。そうじゃなければ、この記事からはオミットしたかった。その理由は七面倒なので(詳細に!)後述する。このヴァージョンはキラーだ、オーケストラのプレイ、アンサンブルも完璧だし、録音、マスタリングもハイ・レベル。


何がタイトルで、どれがアーティスト名なのかもわからない面妖な盤。


それもそのはず、録音はかの「現代サウンド・レコーディングの父」ユナイティッド・ウェスタン・スタジオ&ユニヴァーサル・オーディオ両社の創立社長ビル・パトナムその人、ドラムズは「シナトラのドラマー」アーヴ・コトラー、ベースはラルフ・ペーニャ、ギターのひとりはルネ・ホール、アコーディオンはわが愛するピート・ジョリー、大活躍するパーカッションはミルト・ホランドとラリー・バンカーという名手二人、いい音には十分な理由があったのだ。ということだけお読みいただければ、それでよろし。

クラシック関係とヴェンチャーズの各種ヴァージョンはべつの記事にすることにしたので、今回はここでさようなら。以下の七面倒な調査過程報告はバイパスされたし。あくまでも、自己満足のために書いた。


ビル・パトナムとナット・キング・コール。はじめはシカゴにスタジオを開いたが(パティー・ペイジのテネシー・ワルツのダブル・トラック録音はパトナムの仕事)、シカゴは不便なので、ナット・コールらのアーティストからの懇望があり、のちにハリウッドにスタジオを移転して、60年代ハリウッドのサウンドをつくりだした。それがブライアン・ウィルソンやフランク・シナトラのホーム・グラウンド、サンセット6000番地のユナイティッド・ウェスタン・リコーダーである。


◎ほぼ「よくある中国製パチモン」

さて、数年前に手に入れ、その時もアーティスト名がわからず、タグ入れできなかった謎の盤の正体をなんとか突き止め、犯人はスキップ・マーティンだと結論した一件である。あくまでもお暇な方だけどうぞ。いや、この盤をお持ちで、わたしと同じように何年も悩んでいた方にも朗報で御座る。discogsを見ても、Music Brainzを見ても、まったく書いていない情報を提供する。

Everythingを使ってわが家のHDDのThe Flight of the Bumble Beeを検索したら、Dynamic Percussion - Dynamic Stereophonic Sound!という盤がリストアップされた。開いたとたん、あちゃあ、これ、アーティストが不明だった謎の盤じゃないか、とかつて痛い目に遭ったことを思いだした。


Dynamic Percussionのたすき表裏。真空管機材によるオリジナル録音の忠実な再現である、てなことが書かれている。左側の小さな文字の説明もサウンド技術についての能書きにすぎず、やはりアーティスト名はない。スキップ・マーティンのスの字もない!


これは香港製ブートのようで(ウェブサイトのアドレスは表示されているが、会社の所在地表示もないひどさ)、アーティスト名すら書かれておらず、ウェブで検索しても、間違った記述しか見つからなかったのだ。

discogsエントリーはあるが、アーティスト名は不記載。しかも、日本製などというインチキが書いてある。日本製じゃねーよ、香港製だってば! 漢字があれば日本、などと考えていると、中国人が怒るぞ。
https://www.discogs.com/ja/release/26776421-Audiophile-Classic-Dynamic-Percussion-Dynamic-Stereophonic-Sound
Music Brainzもどうやらdiscogsの孫引きらしく、各トラックのアーティスト名の欄には作曲者名が書かれていた。話にならない!
https://musicbrainz.org/release/52cd6ef1-a744-43c3-bc6e-5daca27c1bed

◎見込み捜査の失敗

これですごすご引っ込んでは名折れ。前回の失敗調査から一歩も進んでいない。角度を変えて調べてつづけた。そして、某サイトで、スキップ・マーティンのThe Flight of the Bumble Beeというものに遭遇した。カヴァー絵の類似から、これが正解かもしれないと考えた。

ただし、某商売サイトの配信ページにすぎず、データの質としては最低、到底信頼できない。じっさい、そのアルバム、Skip Martin - Perspectives In Percussion Volume 2, 1961の、discogsにリストアップされた15種類のエディションを上から3、4種、開いてトラック・リスティングを確認したが、The Flight of the Bumble Beeは見当たらなかった。


Skip Martin - Perspectives In Percussion Volume 2 こちらもフロント・カヴァーにはアーティスト名はないが、バック・カヴァーにスキップ・マーティンの名前がある。


ただし、問題の香港製パチモンに収録されているものと重なるトラックも多く、たんにThe Flight of the Bumble Beeが存在しないだけなので、まったくの空振りではない。タイミングはドンピシャリなのに、ボールの下を叩いてしまい、真後ろに飛んだファウル・ボールである。

◎「もちろん、犯人はあなたですよ! はじめからわかっていました!」

目もチカチカしてきて、こんな手作業はダメだ、と一歩引き、discogsの検索機能は貧弱の極みで使えないので、DuckDuckGoに戻り、「Skip Martin Perspectives In Percussion The Flight of the Bumble Bee」と、必要な要素をすべて含むキーで検索した。


やっと正解に辿り着いた。


当たり! なんのことはない、またdiscogsに逆戻りした。やっぱりSkip Martin - Perspectives In Percussion Volume 2, 1961で合っていたのだ。たんに15種類もあるエディションの中に、収録トラックが異なる別エディションが埋没していただけだった。

ポオの名探偵オーギュスト・デュパン云うところの「木を隠すなら森の中」、手紙を隠すなら状差、LPを隠すならLP棚、同じタイトルの、似たようなデザインの、15種類のLPの中に隠されていたため、見落としてしまっただけだった。


正解はこのエディション群の中に埋没していた。


◎正体露見、ただし管轄外、逮捕には及ばず

さて、香港製パチモンに戻る。これは何かというと、数種類あるスキップ・マーティンのPerspectives In Percussionのトラックをシャッフルして、テキトーにでっちあげたコンピレーションだろう。スキップ・マーティンの名前を略してしまうという暴挙のせいで、謎の盤になってしまっただけだ。

いやはや、呆れたというしかないが、でもまあ、生来の二枚腰を発揮し、ついに数年来の疑問を解消できて、胸のもたれ、腹の膨れが消える快感もいくぶんかはあった。

以上、手間暇かけたので、書かずにはいられなかった。呵々。いや、よけいなことを書いたおかげで、クラシック関係とヴェンチャーズの各種ヴァージョンまで書くことは能わず、先送りになってしまったが……。

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