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エキゾティカとマナクーラズ:左右のスピーカーの中間に存在すると云う、架空の南洋に浮かぶ謎の島の音楽について
マナクーラズというバンドの音をはじめて聴いた。ほぼバンド名から想像した通りの音楽で、笑いながら楽しんだ。
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◎エキゾティカへの転換
マナクーラズというバンド名を見れば、どういうタイプの音楽をやっているのか、たちまち想像がつく。
マナクーラというのは、ジョン・フォードのThe Hurricane(1937年)に登場する南洋の架空の島であり、この映画のテーマ曲、アルフレッド・ニューマン作The Moon of Manakooraは、主演女優のドロシー・ラマー(昔はラムーアと表記していた)が唄ってヒットし、多数のカヴァーが生まれてスタンダードとなった。マナクーラはこの映画と曲の中にしか存在せず、ほかのものを指しているはずがない。
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かつて、「エキゾティカ」というラウンジ・ミュージックのサブ・ジャンルがあった。レス・バクスターのQuiet Village(1951年)に端を発するジャンルで、60年代はじめぐらいまでは、ハリウッド音楽の一部として「生産」がつづけられた。
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1951年ではまだ12インチLPは存在しないのではないかと思って調べたのだが、どうもこれがQuiet Villageの初出らしい。ということは、ごく初期の12インチ盤ということになりそうな……。
誰がはじめたことか把握していないのだが、このエキゾティカというジャンルが成立してのち、1937年に書かれた古い古い曲であるMoon of Manakooraが、バクスターのQuiet VillageやSimbaと同じようなテイストを持つ曲として、いわば「遡って」この群に算入されてしまった。
SecondHandSongsのMoon of Manakooraエントリーを見る限りでは、バクスターのQuiet Village登場、すなわちエキゾティカ成立後、最初にMoon of Manakooraをカヴァーしたのはハリー・オーウェンズなので、このハワイアン・ミュージック界の大立者(かのSweet Leilaniの作者だから、モダーン・ハワイアン・ミュージック発明者のひとりと云える)が、この曲のエキゾティカ転換の犯人なのかもしれない。
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◎ネオ・ギター・エキゾティカ
そのエキゾティカの古典曲を名前としてもらったバンドの盤は、想像通りのギター・エキゾティカで、想定していなかったのは、ノーマルな六弦ギターのみならず、スティール・ギターも使われていることだけだった。
いや、エキゾティカはハワイアンを含むポリニージャン・ミュージックに隣接する(四次元的に接合されている、と見るべきかもしれないが!)ものなので、スティール・ギターの採用はいたって自然なことだ。
編成を見ると、スティール・ギター、ギター二人、ベース、ドラムズの五人、ヴェンチャーズやシャドウズのようなオーソドクスなギター・バンドに、スティール・ギターを加えた形だ。
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これだけで音は想像がつく。当然、「ハワイアン風味のギター・インスト」ができあがる。昔のギター・インスト・バンドに、スティール・ギターを加えて録音したハワイアン/エキゾティカLP、てな企画盤を思い浮かべてくれればよろしい。
◎楽園の冒険者たち
というように、わたしが生まれる前の古いスタイルやら、子供のころによく聴いた音楽の要素を混ぜ合わせたものなので、目を瞠るような新しさ、革新性などはない。わたしらの世代にとっては、どれも見慣れた馴染みの顔の、同窓会のような音楽だ。
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それゆえに、もちろん、現代的な尖鋭性などないから、顔をしかめたり、眉をひそめたりすることなく、安心してイージー・チェアに深く身を沈め、いろいろな昔の音楽を思いだしては、笑みを泛べて聴くことができる。
考えてみると、ペダル・スティールは使っていないものの、ギター・インスト・バンドによるエキゾティカ、というアイディアには、すでに小学生の時に遭遇している。オーストラリアのサーフ・インスト・バンド、アトランティックスのAdventures in Paradiseという曲だ。
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CBSの国内配給会社が日本コロムビアだった時代の45回転盤。中袋の模様もよく覚えている。
Adventures in Paradiseは、同題のテレビ・ドラマの主題曲で、Moon of Manakooraを書いたアルフレッド・ニューマンの弟、ライオネル・ニューマンが1959年に書いた(この二人の甥っ子がランディー・ニューマンであり、アルフレッドの息子、すなわちランディーの従弟が、デイヴィッド・ニューマン。大音楽一家なのだ。アルフレッドとライオネルの中間にはエミールという兄弟もいて、やはりフォクス音楽部に勤めた)。
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南太平洋を舞台にした、ロマンス&探偵ドラマだそうで、はじめからエキゾティカ的味わいのある曲だから、そちら方面(アーサー・ライマン、ジーン・レインズ、テッド・オーレータ)やラウンジ、オーケストラ音楽方面(ヘンリー・マンシーニ、ジョニー・ギブス、ファランテ&タイシャー、ウェルナー・ミューラーなど、さらにビング・クロスビーのヴォーカル・カヴァーもここに算入しておく)、ギター・インスト方面(ヴェンチャーズ、サント&ジョニー、ジェリー・バード)で、スタンダードとなった。
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アトランティックスのAdventures in Paradiseは、BomboraというWipe Outを高速にしたようなサーフ・インストのB面に収録されたもので、A面に飽きてからはときおりかけていたし、大人になってから久しぶりに聴いたら、ストレートなエキゾティカだったので、ちょっと愕いた。
Adventures in Paradiseはエキゾティカ・クラシクスの中では好きな曲のひとつで、マナクーラズのコンセプトはこの曲から生まれたのじゃないかと感じる。サーフ・インストとエキゾティカの合体である。
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◎エキゾティカ転生
50年代から60年代はじめにかけてのブームが終わって以降、あまりつくられていないので、エキゾティカおよびその種のムードを持つ音楽は稀少になってしまった。
知る範囲で云うと、ブーム終息後、エキゾティカに算入できそうなのは、東宝特撮映画のOST(たとえば『ガス人間第一号』『マタンゴ』『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』『ゴジラ対メカゴジラ』など)の中に散見するのと、『泰安洋行』などの細野晴臣によるネオ・エキゾティカ、ティキヤキ・オーケストラの諸作、そして、21世紀になって突然復帰して愕かせてくれた、ロバート・ドラスニンのVoodooのIIとIIIという二枚の続篇、おもだったものはこれくらいではないか。
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エキゾティカ中興の祖、といいたくなるくらい楽しいアルバムだった。
じつにさびしい。もともと小さなジャンルだったので、オリジナル・エキゾティカのアルバムはせいぜい数百枚しかなく、以後の半世紀以上のあいだ、あまり顧みられることはなかったから、もう聴くものは残っていない。
マナクーラズはそうした長い渇きを癒す稀少なグループで、楽しませてくれた。願わくば、さらにこの種の音楽が生まれますように。
@tenko11.bsky.social
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加山雄三の「夕陽は赤く」のカヴァー。アレンジ及びタイトルは、ヴェンチャーズによるカヴァーを踏襲している。加山雄三もついにエキゾティカ扱いかよ、と苦笑した。