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七福神とテレポートしたお不動さん

大晦日と元日は「ガロ」に掲載された、林静一の初期作品を数十年ぶりに読み返し、その勢いで長井勝一『ガロ編集長』を読んだので、2025年最初のnoteは長井勝一と貸本漫画のことを書こうかと思った。

しかし、わたしは貸本屋で本を借りた経験のある最後の世代だろう、滅法界に古い話なものだから、記憶を手繰っているうちに、なんだかマルセル・プルーストのマドレーヌのような長旅になってしまい、すぐには書けそうもなく、とりあえず棚上げ仕り候。


長井勝一『「ガロ」編集長』表紙


◎七福神の波乗り船

初夢は元日か、二日か、なんて論議があるのだが、寄る年波で、そういうことはもうどうでもよくなった。元日の夢は覚えていないし、二日の夢は、目覚めて思わず笑ってしまうようなコメディー、しかもちょっとエロ、とても書けたものではない!

いや、ドリス・デイの50年代の映画みたいなシットカム=シテュエイション・コメディーで、エロと云っても、そういう文脈での「お色気」であり、添え物のシャワー・シーンみたいな、ごく穏やかなエロティシズムなのだが、それにしても、馬鹿馬鹿しいドラマでな! よくまあ、こんなバカげた夢を見るもんだ、とわれながら呆れた。

トニー・カーティスかロック・ハドソンあたりに振られるような役をやるはめになるのだが、自分は自分だという自覚があるものだから、それはいくらなんでも無理、俺の柄じゃない、と必死に逃げようとする――ありゃ? これはこれで50年代のコメディーにありそうな状況設定だなあ。自己言及的、再帰的な、メタ・コメディーを夢の中でこしらえてしまったか!


林静一「花散る港」より


◎初物尽くし

初夢は以上のような50年代ハリウッド映画のパロディー。
初読みは林静一の「まっかっかロック」「花散る港」などの初期作品数作
初聴きはVince Guaraldi & Bola Sete - From All Sides, 1964
正月初席は、例年通り、昔、エアチェックした四代目三遊亭円遊の「七福神」
初見は古沢憲吾監督、植木等、ハナ肇、谷啓主演『クレージー黄金作戦』(1967)

と来て、初詣はどうかというと、あれは生来苦手、めったに行かない。今年もご免こうむった。子供の時はどこかに連れていかれたが、大人になってからは、片手で勘定できる程度。

二十年ぐらい前に泉鏡花の処女作『冠弥左衛門』開巻の舞台となった、鎌倉は長谷の源五郎神社に行ったのと、十年ほど前、近所の氷川神社に行った。あとは記憶になし。


泉鏡花『冠彌左衛門』初版。国会図書館。


◎飛んで帰ったお不動さん

かわりに、というわけでもないが、林静一の写真を探していて、ふと目についた下谷のお寺の写真でヴァーチャル初詣。


参道の両側を売ってしまったのか、ウナギの寝床じみたほそーい参道の奥にある。


東京は下谷、龍光山正寶院というお寺があり、その通称が飛不動。さっき、その写真を見たら、「下谷恵比寿」という幟が立っていて、七福神巡りのコースになっていることを知った。



飛不動というのは妙な名前だ。そのせいで、十数年前、通りかかったときにお詣りし、縁起を読んで、うひゃあ、半村良『産霊山秘録』じゃん、と愕いた。

写真の縁起は読みにくいかもしれないので書き写す。

当寺は龍光山三高寺正寶院と称し、享禄三年(一五三〇)正山律師により聖護院派の祈祷道場として開基された。その後、滋賀県園城寺の末寺となったが、現在は修験の流れをくむ天台系の一派をなしている寺である。本尊は不動明王で、古くより江戸名尊不動の一に数えられ、特に飛不動と呼ばれている。
この名はむかし故あって当時の住職が奈良県大峰山に本尊を安置し、修行をしていたところ、一夜にして本尊がこの地に飛び帰り、御利益を授けられたことより発している。
(以下略)


飛不動の由緒


ということで、奈良まで持って行った御本尊が、一夜、ホームシックのあまり、かどうかは知らないが、下谷までテレポートしてしまったのが、「飛不動」の由来だそうな。やっぱり、『産霊山秘録』の「わたり」そのまま。

ご存命なら、作者・半村良に、このお不動さんのことをきいてみるところだが、すでに故人。しようがないから、『産霊山秘録』を読み直すとするか。

@tenko11.bsky.social



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