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「ビビデバ」だけではなかった星街すいせいの2024年(2)

 前記事では、星街すいせい名義でのオリジナル曲やソロライブに関して振り返った。この記事では、それ以外の音楽活動について振り返っていきたい。


『デレステ』コラボ

 2/20に豊洲PITでTAKU INOUEとの音楽プロジェクトMidnight Grand Orchestraによる初の有観客ライブ『Midnight Mission』が開催された。

 個人的にはあらゆる点で2024年最高のライブだったが、予想外だったのはライブ終了後に星街すいせいと音楽ゲームアプリ『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』とのコラボレーションが発表されたことだった。単に配信でゲームをプレイしたり星街の楽曲がゲームに追加されるといった以上に力の入ったコラボで、何よりも星街すいせいが育成可能なアイドルとしてゲームに登場したことが異例だった。
 また、3/22の6周年記念ライブ『Sheenderella Day』では星街すいせいがアイマスプロデューサー(プレイヤー)として担当してきた高垣楓が登場し、「こいかぜ」と二人のコラボ曲「ジュビリー」を披露して大きな話題となった。

 このコラボの意義についてはリアルサウンドで取り上げられていたので詳しくはそちらに譲りたい。

 「アイドルマスター」シリーズは、星街にとって数ある好きな作品の一つではない。星街がVTuberの中でも二次元であることにこだわり、生身の姿を見せないどころかそもそも自分は二次元の存在に他ならないと断言していることは前にも述べたが、そんな星街にとって「アイドル」とは何よりも「アイドルマスター」に登場するアイドルたちであり、彼女がホロライブに入る前からアイドルVTuberを名乗っていた背景には、「アイマスのアイドルのようになりたい」「アイマスの世界に入りたい」という夢があった。

私、『アイドルマスター』シリーズがすごく好きで、『アイドルマスター』のアイドルたちみたいになりたくて、『アイドルVTuber』って言っていたんですよね。

CUT12月号より

「アイドルマスターシンデレラガールズ」の3属性を参照して自分は「クール」タイプのアイドルだと何度か述べており、他のホロライブメンバーを属性分けする配信を行ったこともある。

 ファーストアルバムのリード曲「Stellar Stellar」の制作をTAKU INOUEに依頼したことにも「アイマス」が深く関わっている。

私が最初にイノタクさんの曲を認知したのは「デレマス」(ゲーム「アイドルマスター シンデレラガールズ」の略称)の「Radio Happy」だったかな。めちゃくちゃいい曲で、作曲者のクレジットを見たら「TAKU INOUE」と書いてあって。それでちょっと掘ってみたら、イノタクさんが作っている曲が全部私の好きな曲だったんですよ。私の好みのツボを押さえた人がいる!と思って(笑)。それ以降、「アイマス」シリーズで新曲がイノタクさんだという情報が出ると「うわー! これは勝ちだ!」みたいに思うようになって、好きな作家さんの1人としてずっと敬愛してました。
(中略)実は私がアルバムを作るにあたって、スタッフさんに「イノタクさんが書くような曲を歌いたい!」と要望を投げていたんです。イノタクさんはお忙しい方ですし、まさか本人に書いてもらえることにはならないだろうと思っていたんですけど、ダメ元でオファーしてもらったら、さらにもう1曲書いてもらえることになって(笑)。お返事いただいたときは本当にうれしかったです。

https://natalie.mu/music/pp/takuinoue

 見ようによっては、ミドグラとは星街すいせいがTAKU INOUEをプロデューサーとして現実世界で展開しているアイマスなのだと考えることもできる。そんなミドグラのライブという場でアイマスとのコラボが発表されたのは単なるタイミングの問題ではなかっただろう。さまざまな議論を引き起こしたものの、星街にとっては疑いなく夢の一つが実現した瞬間だった。

『トラペジウム』主題歌

 2/9、映画『トラペジウム』主題歌「なんもない」のボーカルを星街すいせいが担当することが発表された。

 星街すいせい名義ではなく、楽曲ごとに歌い手と作り手を変える音楽プロジェクトである「MAISONdes」に参加するという形だった。

 アニメの主題歌も星街が掲げてきた夢の一つだったが、メジャーレーベルに所属していないため実現困難にも見えていた。今回はソニーミュージックに所属するMAISONdesに起用されるという特殊な形で実現したが、それだけ星街の評価が高まってきているとも言えるだろう。MAISONdesのプロデューサーは星街を起用した理由について次のように述べている。

今回はアイドルを目指して青春を謳歌する物語で、そこには悔しい思いや達成感なども含まれます。さらにアイドルの不合理性と、“十代の青春の美しさ”をエッセンシャルした楽曲を表現しようとした結果、VTuberの星街すいせいさんに辿り着きました。そもそもバーチャルはとても不合理な世界で、本来的には人間が生きるうえで必要ないものなのに、そこに強烈に憧れてしまう人がいて、自分の姿、形を変えてまで表現活動を行っています。『トラペジウム』で描かれている感情の揺れ動きは、VTuberの方々がなりたいと思う自分になろうとして活動していることに通じる部分があり、煮詰めていった先の感情の種類は一緒なんじゃないかと考え、星街さんにお声掛けしました。

https://moviewalker.jp/news/article/1194322/p2

 「クール」なアイドルとしてVTuberとしての苦悩や揺れ動きも歌に昇華してきたがゆえの起用だったと言えるだろう。
 6/22にはMAISONdesとしてNHK総合「Venue101」に出演し、「なんもない」を披露した。


スキマスイッチトリビュートアルバム参加

 4月にはスキマスイッチ初のトリビュートアルバム「みんなのスキマスイッチ」に「ゴールデンタイムラバー」のカバーで参加することが発表された。

「ゴールデンタイムラバー」は星街が愛してやまない『鋼の錬金術師』のアニメ主題歌であり、歌枠でも歌っていた曲である。Aimerやいきものがかりといったアーティストと並んでの参加であり、VTuber界だけでなく音楽シーン一般でも評価されつつあることを感じられる出来事だった。


GQ JAPAN「10 Essentials」

 5月にはGQ JAPANの「各界で活躍するアーティストやアスリートなど著名人たちが絶対に「無くてはならない10のもの」を紹介するシリーズ」である「10 Essentials」に登場した。

雑誌『GQ JAPAN』には2023年5月号の特集「J-POPシーンを変えるZ世代アーティスト11組」ですでに登場しており、「ほかのアーティストと同じように、私がお茶の間に出ているのが当たり前になったら面白いですね。VTuber界を引っ張っていきたいです」と述べていた。

VTuberとして初めての登場であり、イヤモニのようなシンガーらしいものからイラストを描く際に使っている板タブ、多くの配信者が愛用している京都念慈菴のびわシロップ、インフルエンサーとしてのプラットフォームであるTwitterまで、活動の多面性を感じさせるインタビューだった。
 なお、ここで好きなものとして挙げた(前々から挙げている)カナヘイのうさぎ、ふくやの明太子とは今年コラボが実現した。


THE MUSIC DAY 2024、オールナイトニッポン0など

 7/6には日本テレビ「THE MUSIC DAY 2024」に出演し、AKB48とのスペシャルコラボで「ソワレ」を披露した。

  9/9にはニッポン放送開局70周縁記念の「オールナイトニッポン MUSIC WEEK」の一環として「オールナイトニッポン0」のパーソナリティを務めた。自身の曲だけでなく、VTuberをよく知らないリスナーに向けて「星街すいせい的VTuberソング入門プレイリスト」も紹介した。

 遡って3/4にはJ-WAVE「SONAR MUSIC」にも出演し、ホロライブを初心者向けに紹介していた。もう一人のゲストDaokoのホロリスとしての語りも相まってとても良い回だった。

 特に音楽方面で代表的なVTuberとして、自分自身だけでなくホロライブメンバーや他のVTuberを紹介する機会の多い一年だったと言える。5月には昨年に引き続いてホロスターズの律可主催の「Vtuber歌唱王」のMCを務め、出場者が歌うオリジナル曲にも参加した。

 10月にはパーソナリティを務めるラジオ番組「ぶいあーる!」がNHK FMからNHKラジオ第一に引越しとなり、時間帯も21:05からと早まった。

番組の人気を感じさせる出来事だった一方で、ゲストが声優やアーティストなどやや豪華になり、かつてあった個人勢VTuberのお悩み相談のような企画はもしかしたら難しくなったのかもしれない。そうした中で自分のチャンネルで相談企画を行ったのはバランス調整もあっただろうか。

 元個人勢という背景を活かしつつ、持ち前の傾聴力・観察眼とサバサバした性格が発揮された配信だった。

パルコ「SPECIAL IN YOU.」

 11月にはパルコのコーポレートメッセージ「SPECIAL IN YOU.」の10周年記念広告に起用された。バーチャルの世界で新たな才能を発揮する存在として、VTuberとして初めての起用となった。全国のPARCOでポスター掲出が行われ、交通広告やTVCMも展開された。星街が実際に衣装を着用した映像を後からアニメーションにするという斬新な方法が採られている。

 「SPECIAL IN YOU.」ウェブサイトにインタビューが掲載されたほか、CMが撮影された場所でもあるDOMMUNEの特別番組にも登場した。いわゆる「クリエイティブ」な世界に星街が現れた瞬間で、興味深い異文化交流だった(皮肉ではなく、普通に面白かった)。

これを受けてファッション業界専門紙「WWD JAPAN」では特集「今最も熱量のあるカルチャーシーン VTuberの影響力を探る」が組まれ、星街が表紙を飾った。


COUNTDOWN JAPAN 24/25、CUT

 年末には幕張メッセで行われたCOUNTDOWN JAPAN 24/25に出演し、GALAXY STAGEで8曲を披露した。

これに合わせて主催のロッキング・オンの雑誌『CUT』12月号の表紙を星街が飾り、一万字超のインタビューが掲載された。

古川晋によるリード文では「星街すいせいは、今がどんな時代なのかを、その音楽と存在で体現するアーティストのひとりである」と書かれており、PARCOのCM起用とも重なって「時代のアイコンとしての星街すいせい」というイメージがいっそう強まる出来事だった。
 CUTのインタビューはロッキング・オンらしく一歩踏み込んだ内容になっており、そこでしか読めないことも多かった。印象的だった箇所を引用して(いったん)終わりにする。

私の中のキーワードとして「乗り越えなくてもいい」っていうのがあって。乗り越えられないし、割り切れない。でもそれは今後の活動にもついてくるものだから共に生きていくしかないよねっていう考え方で――ライブの終わり方もそういう感じにしようって決めて。

p.15

私自身が女の子なので女の子の話をするならば、誰かのためにかわいくなるんじゃなくて、自分がかわいくなりたいから、かわいくなろうと頑張ってるっていうのが、今の時代の子たちなのかなと思ってて。バーチャルの姿に対してもそうだし、TikTokとかで女の子たちが加工盛り盛りでかわいい顔になってたりすると、やいのやいの言われたりするじゃないですか。でも別に、そのやいのやいの言う人のためにかわいくあろうとしてるわけじゃなくて。私は私のためにかわいくあるんだ、みたいなことって、Z世代に共感してもらえるんじゃないかなと思ったんですよね。

p.17

私、近未来SFが好きで、中でも『電脳コイル』っていうアニメが好きなんですけど、あの世界が早く来てほしいなって思ってるんです。メガネをかけたらみんなの目の前に現れて、バーチャルのタレントがテレビのバラエティのパネラーとして普通に出てたり、たとえば『逃走中』で、バーチャルな人が逃走してたりとか(笑)。そういう時代って、私が思い描いてる近未来だなって思うんですよね。だから、バーチャルのタレントをもっとみんなに受け入れてもらって、浸透させて、そういう未来を作りたいです。次の目標はそこかな。

p.19


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