連続短編小説「阿知波」
第六回 「宇宙世紀」
航海日誌:0655
我々の乗る戦艦アストロペル号は、7年間の航海に出て約半年が経とうとしている。船員は10万5千。冷凍された受精卵を含むと、その数は500億にも及ぶ。我々の目的地であるサルバトーレ星までは、あと5千光年と8か月といったところだ。
さて、我々人類が住処としての地球を捨てたのは、今から約60年前のことである。深刻な環境汚染と飢餓に見舞われた我々人類は、今まで千の惑星を転々とし、新たな住処となる場所を探している。私はその重要な任務を任されている船員の一人であり、船の指揮官でもある男である。
私の名は、アチハーヌ・ロドリゲス 3世。必ずや、その名を歴史に刻む男である。人類を絶滅の危機から救い、新たな新世界を見つけた男と、私の名声はきっと後世にまで語り継がれてゆくこととなるだろう。
さて、今私がこうやって航海日誌を記録している間に、船内には侵入者が表れたようだ。どうやら、ダストシュートから入り込んできたらしい。そんな不届き者は直ちに抹殺せねばならぬ。
私は何人かのクルーと共に侵入者の駆除へ向かった。侵入者は貯蔵室の中にいた。奴は冷凍された受精卵や胎児を美味しそうに食べていた。奴の口から滴る唾液は異臭を放ち、その姿は非常に気味が悪かった。
奴の正体はヒューマノイドではなく、不気味な虫型エイリアンであった。奴は我々が以前住んでいた惑星を滅ぼした、憎きバーナム星人の末裔である。私達は奴目掛けてレーザーブラスターを打ち込んだ。奴を蜂の巣にする勢いで、何発も打ち込んだのだが奴にはそんなものは効かなかった。
我々を見るなり怒り狂った奴は、瞬く間に駆除班の人間を捕食した。つまりは、その場にいた人間が私以外皆死んだという訳だ。私は奴との1対1の真剣勝負を申し込んだ。奴がそれを承諾したかは分からないが、私は一切の武器無しで奴の前へと向かっていった。
勝負の結果はと言うと、もちろん私の勝ちだ。
奴の下半身にぶら下がっている生殖器を私は引き抜いたのだ。
虫は外殻さえ壊してしまえば、あとは柔らかい肉の塊である。
奴の体から内臓を引き剥がすのは案外簡単だった。
しかし、私が侵入者を撃退した頃には、他の船員たちは皆脱出ポッドで船からは抜け出していた。今、船にいるのは私一人だけである。
抑えきれない悲壮感に襲われた私は、静かに船の自爆ボタンを押した...