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Chapter 2 「夢魔」 前編


痛ッ。

私は、下腹部に耐えがたい激痛を感じ、目を覚ました。

失禁していた。

気が付くと、そこは病室だった。

いつ、ここに来たのかは思い出せないが、昨夜のことはよく覚えている。

多分一生忘れないだろう。

はぁ… 頼むからあの出来事は夢であってほしい... 

そう願った。


昨日、つまりは2019年の7月10日。私は、強姦され、全身に打撲傷を負った。

あの日、あの夜、自分があんなことになるなんて思いもしなかった。

しかも、相手が例のアイツだなんて、尚更だ。


あの夜、私は学校帰りに新しくできたイタリア料理店で、フクミと一緒に仲良くお茶をしていた。新しいクラスはどんな感じか、期末テストはどうするか、コイバナ、進路、いろいろ話した。

多分時間にして、4時間くらいブッ続けで話していたと思う。

お互い、話したいことが色々あると時間を忘れて話してしまうものだ。

特に、久しぶりに会った相手とは、特にね。

そんなこんなで、話しているうちにフクミの方から、こんな話を切り出された。

「さっきから誰かの視線を感じる。気のせいかもしれないけど、この前ユミと学校であった時にも感じた視線、なんだか不気味。ホント感じるのよ、何かを。」

一瞬、もしやド・ブーズ?と思ったが、もう随分と昔の話だから、多分関係無いなと、その選択肢は切り捨てた。

しかし、そのときの私は、それまで自分が付けられてるなんて考えもしていなかったし、感じてもいなかった。だからこそ、ふいにそんなことを言われると、正直言って心底怖かったし、いきなりそんなことを言い出すフクミのことを少し嫌いになった。

それに、フクミの方は何故だかやけに冷や汗をかいていて、なんだか挙動不審だった。

そして、そんなフクミの唐突な言動に私は何かの違和感を感じ、私は何も言わず静かにフクミと別れ、店を出た。

ただ、今思えば、フクミはいたってマトモだったし、正しかった。

なぜ、彼女の下からは離れてしまったのだろうと、今は後悔の念で一杯だ。

いきなりフクミとは別れてしまった。あの時の、私は少し冷静さというものを失っていた。

ちゃんとした別れを告げず、いきなり帰ってしまったこと。

自分のその自分勝手さに、モヤモヤとした罪悪感を感じていた。

さらに、帰り道の途中、私はいつの間にか財布を無くしていた。

どうやら、どこかで落としたらしい。

もしやフクミが?

と思い、フクミにLINEをしてみたが、返事は無い。

あぁ、もう、私たちの仲は、もう終わりなんだな...

そう思い、絶望感に浸りながらも、トボトボ夜道を歩いていた。

行く当てもなく、ただ真っすぐと。

そんな中、一台の大きな黒塗りの高級車が、私の前に現れた。

車の中からは、まだ若く、肌はヤケにツルンとした、黒スーツのが現れた。

大きな二重の目、清潔感のある美しく整った髪の毛、そして、その上品な身嗜み。

すべてが、私好みだった。

「キミ、乗ってかない?」

と、に誘われてしまった私は、自分の寂しさを紛らわすためにも、よく考えずに、その場の勢いで、思わず、

はい!

と、答えてしまった。

やってしまった。なんてことだ。

思えば、あそこで気付けばよかった。

逃げればよかった。

ただ、やはりあの状況から、私はあのの正体に気付くことはできなかった。

顔にばかり見惚れて、真実から目を逸らしてしまっていたのだから。

正直、私はあの時あの男に対して、少し違和感を感じていた。

しかし、それを気にすることができなかった。いや、注意している暇も無かった。そんな余裕は、私の心に無かったのだ。

そう、の正体に気付くヒントは、そこら中に在ったのだ。

特に、あのの発する独特のダミ声と、あのツンとくる獣臭

あの匂いを嗅いだ時、なぜか不思議と何かの懐かしさを感じ、

そして、そこに何かの居心地の良さを感じてしまっている自分がいた...



つづく→



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