ドブス短編 「惑星ヤゴナ」
惑星ヤゴナは、114514星雲の第七惑星である。
地表は砂で覆われ、地下には豊富な資源を蓄えていた。
私は惑星連邦局からの探査指令を得て、この星へと舞い降りた。
私の名は ルードウィヒ・ヴァン・アチーハ。
父であるトーマス・ヴァン・アチーワの行方を捜している。
父はおよそ24年前の今日、この場所で消息を絶った。
惑星ヤゴナは私自身にとって、非常に因縁深い地なのである。
さて、いま私が目指しているのはヤゴナ第40基地。私が今いるこの場所から約100kmほど離れている。この星では、主に現地に住む動物であるドゥーブスに乗って移動をするのだが、私のドゥーブスはこの暑さに耐え切ることができず、いま先程死んでしまった。昨日の夜、しっかり休ませずに進み続けたのが間違いだったのかもしれない。とにかく、今の私はこの広大な砂漠の上で、一人ぼっちになってしまったのだ。誰も私のことを助ける者はいない。惑星の内部から強力な磁場が発するこの星では、救難信号を発することができないからだ。そうするうちに、私はあまりの暑さに気を失い、そのまま砂の中へと倒れ込んでしまった...
*
しばらくしてから、私はヤゴナ星人がナイフを研ぐ音を耳にして、やっと目を覚ました。そこはヤゴナ星人の調理場だった。私は体を縄で縛られ、ヤゴナ星人達の食料として捧げられることとなっていた。私は必死で縄を解こうとしたが、解くことはできなかった。向こうの部屋には、バラバラにされた他の連邦局員の姿があり、それをヤゴナ星人が美味しそうに食していた。その光景を見て、私は思わず自らの死を覚悟し、こう思った。
「父さんも、きっとこうやって奴らに喰われたんだね。俺も一緒に逝けるよ。父さんと同じ死に方で死ねるなんて、なんて光栄なんだッ!」
すると、突如として私の目の前に一人の男が現れた。私と同じ地球人だった。私はその姿にどこか懐かしさを感じた。髭で分かりづらくなっていたが、その声を聴いて私は即座にこの男の正体に気付いた。それもそのはずだ、その男の正体は、私がずっと探していた、私の実の父だったのだから...
「息子よ... 散々待たせすぎたなぁ、すまん!」
「い、いやぁ、いいんだよ、そんなことはさ!今こうやって会うことができただけで、お、俺はもう十分幸せだよッ!!」
私は瞳に涙を浮かべ、震える声でこう言った。
「で、でさぁ、父さんはどうやって俺のこと見つけ出したのさ。」
「見つけ出したのもなにも、ワシはただここで食料を喰いに来ただけじゃよ。まぁ、その喰う相手というのがたまたまお前じゃったというだけのことなんじゃがな...」
「え、何言ってんだよ、父さん。喰うって、どういう意味だよ、ねぇ!!」
「お前を食べるという事じゃ。捕まえられたものは必ず食べられる。ここの掟じゃ。地球でもそうじゃろう。そこに親子かどうかは関係ないわい。」
私はこの爺のいう事をよく理解することができなかった。私は自分の目を疑った。これは本当に現実なのかと、何かの嘘なのかと思い始めた。
「ねぇ、あんた俺の父さんじゃないだろ? ふざけるはいい加減にして、とにかくこの縄を解いてくれ!!!!」
「はぁん?何を言っとるんじゃ! ワシは正真正銘お前さんの父親じゃ!! この写真を見ろぉい!! 映ってるのはワシとお前。この写真の男はワシだ!! 誰が見てもそうじゃろう。」
たしかに写真に写っているのは私の父で、あの爺の顔にそっくりだった。
それでも、私はこの爺が自分の父だと受け入れることができなかった。
「ううううう、違う!! こんなのは嘘だ!!! でまかせだ!!!」
「ほぉぉん... いくらでも叫ぶとよい。叫べば叫ぶほどメシは美味くなるからのぉ。ハッハハハハ!!」
「このド畜生がぁあああああああああ!!!!!!!」
ガツッ、と音を立て
私は父に石で頭を殴られ、再び気を失った。
*
そして、
しばらくすると、ヤゴナ星人は私の体を解体し始めた。
もちろん、麻酔なしだ。奴らは何の容赦もせずに、私の体を切り刻んだ。
ああああああああああああああああああ!!!!!
とてつもなく痛かった。何も話せなかった。叫ぶ以外には。
筋肉は引きはがされ、骨は削られ、目玉はくり抜かれた。
この地獄のような痛みの中、私は必死の思いで一つの言葉を叫んだ。
文字通り、命を懸けて、私は叫んだ。