連続短編小説「阿知波」
第九回 「電車」
私がどこかへ移動する際には、大抵電車を使う。ほとんどの場合、バスやタクシーに乗ることは無い。私は電車が好きだからだ。それに、電車は安い。私のような人間にとっては電車は生活に不可欠な必需品なのだ。
自撮り写真は電車で撮ることが多い。外よりも、電車の車内の方が明るく感じるからだ。やはり顔写真と言うものはきちんとした照明があった方が、見栄えが良くなる。私にとって、電車はプライベートスペースであり、絶対に侵されたくない神聖な空間である。それ故、私は満員電車が嫌いなのだ。
さて、有難いことに電車には優先席と言うものが存在する。私はこれをとてもよく利用させてもらっている。私は障害者である故に、優先席に座る権利を十分に満たしているからだ。しかし、それでも満員の場合は優先席にすらなかなか座ることができない。これは実に悲しいことだ。だからこそ、私は電車に乗る時間だけは絶対に守ると決めている。なぜなら、少しでも乗り過ごしてしまうと、次は満員電車と言う場合が多いからである。
しかし、想定しえない事態というものはやはり突然起こるものだ。
その日は人身事故により30分の遅延が起きていた。ホームにはいつもの五倍近くもの人が列を成していた。私はいつもより早めに家を出たのにも関わらず、この混雑に巻き込まれた。この時、私は40分近く立たされ、ストレスの限界に瀕していた。
35分遅れで駅に着いた電車には、案の定大勢の人がギチギチに詰め込められて乗っていた。幸いなことに最前列に立っていた私はなんとか電車に乗ることができたが、席に座ることはできなかった。
優先席には男子高校生が四人、仲睦まじく座っていた。立ち続けたせいで、疲れ切っていた私は、今すぐにでも席に座りたかった。そこで、私は何も言わずに、その高校生たちの膝に直接座り込んだ。
当たり前だが、彼らは激怒した。
そして、彼らは私に向かって
「このドブスおっさん、キモすぎぃ!」
「キモ人間は早く消えちまえ!」
と言った。
私は深く傷ついた。私はその場で泣いた。声を出すことはできなった。
周りからの白い目が、私にはとても冷酷に感じた。
死にたい。消えてしまいたい。
私は心の奥底で、このように思った。
このクズ共が。
私を笑いものにして楽しいか? なぜここまで私を虐めるのだ!