Chapter 6 「学園の先で...」
あれは確か、二年前の夏。
いや、明確には2017年の6月。梅雨の時期だった。
俺は当時高2で、自分の進路について先の見えない恐怖から焦りだし、また帰宅部故に、この退屈な学校生活に耐えがたい孤独を感じていた。
梅雨の時期特有のあの腐ったような雨傘の臭いと、濡れた制服から少し透けて見える女子の下着。その幻想的かつ汚らしい空気を纏った校内の空気は、まるで白昼夢のようだった。
その理性を失わせる梅雨の陰鬱とした空気と、7月の中間試験に対する途方もない不安。当時の俺は、正直言って冷静に物事を考えられるような状態じゃなかった。もう、学園生活が何なのかすら分からないような状態にまでなっていた。自分の居場所も、自分の抱える何かの指名も目標も、あの頃は何も無かったんだ。
悩むだけで俺は結局何もせず、ただただ時間だけが過ぎ去った。
こんな地獄においてもキャピキャピしている同級生を廊下で見るたび、俺は途方もない絶望感と、激しい嫉妬心を抱いた。はっきり言って、あの頃の俺には、自分以外の全てが敵に見えたし、他人を信用することも、自分を信用することもできない状態だった。もうどうにでもなれと、自暴自棄になった俺は、もはやヤケクソになっていた。
そんなある日の放課後。俺は寝癖を整えてもいないボサボサ髪で、ヨロヨロとふらつきながら、何も考えずに、ふと学校の図書室へと足を運んだ。
そこには、キモ顔のオタクが4、5人ほど居座っていた。
それを観た俺は、
はぁん、群れることしかコイツらには能が無ぇのか... と思い、
すぐさま視線を逸らした。
しかしながら、心の奥底では、その中に入りたい、仲間になりたいという思いが、俺の中では芽生えていた。だが、俺は自分の中のその感情を認めることなどできなかった。認めれば、俺は敗者になってしまう... そういう意識が俺の中にはあったのだ。
でも、俺のそんな気持ちはあっさりと、アイツらには読まれていた。
「君、今日は暇かい?」
と、アイツらの中ではリーダー格のような眼鏡野郎が、俺に向かって話しかけてきた。
正直最初は混乱して、本当は俺じゃない奴に向かって話しているのかもしれないと思って、おもわず後ろを振り向いたが誰もいなかった。
「いや、君だよ、君。そこの眼つきの悪そうな君だ。」
「お、お、お、俺のことかい?」
「あぁ、そうだ。なぁ、君。暇かい?」
「ん。まぁ、まぁ、そうだな。うん、そうだ。」
「君、なんだか言っちゃ悪いんだけど、なんだか寂しそうな眼をしてるね。」
「そ、そんなことねぇよ!! 何言ってんだよ!!」
図星を突かれた俺は、少しムキになって声を張り上げた。
「あ、すまんすまん。不快にさせちまって、すまないね。とりあえず、俺はユウキ って言うんだ。別に仲良くしなくてもいいから、とりあえず。よろしくな。」
「あぁ、おん。」
「ちなみに君の名前は?」
「んあ、あっ、モトヤ。 モトヤだ」
「うん、モトヤ君。 じゃあ、よろしくな!」
そう言って、ユウキは俺に向かって手を差し出した。
「仲良くするための握手だ。なっ、モトヤ君。」
「あ、握手。握手か! うん、とりあえず、握手な。」
そう言って、俺はユウキと握手を交わした。
ユウキは高校に入って、初めて出来た友達だった。
いや、もっと言えば、生涯唯一の友でもあったかもしれない。
なんたって、俺はもうここで死ぬんだからな。
あぁ、今思えば、ここから俺はこの闇社会に足を踏み入れる事となるなんて、当時の俺には想像も付かなかった。まさか、この後あんな目に合うなんて、本当に考えもしなかったな。全ての始まりは、あの日、あの時の、あの一言からだ。
そう、あの日、ユウキは俺に向かって、こう言った。
「お前も、ド・ブーズに入らないか?」 ってな...
つづく→