連続短編小説「阿知波」
第五回 「アイドル」
言うまでもないことだが、私はドルオタだ。
おそらく、これは幼いころから変わらずしての性分であろう。
アイドルには夢がある。幻想がある。そう、彼女たちはフェアリーなのだ。
現実から剥離した夢物語。
私がアイドルに惹かれる一番のポイントはそこなのだ。
それを三次元の世界で提供してくれるのがアイドルと言う生き物なのだ。彼女たちの笑顔はいくら演技とはいえ、そこにはリアルがある。アイドルのいる空間には、幻想に命が宿り、そして動き出す。アイドルが織り成す魔法は、我々の心臓の鼓動をより高めてくれる。
先日、Twitterで、とあるアイドルをフォローした。勿論フォローは帰ってこなかったが、そんなことは気にせずに、私はそのアイドルのツイートにリプを毎日書き続けた。そうしていると、なぜだか私の言動を気に入らないとする連中が現れ始める。彼らはネチネチと私を追い回し、破滅させようとしてくる。その姿は、まるで悪魔だ。そんな奴らのストーキングに私は耐え、アイドルのライブに行くことでそのストレスを発散させていた。
しかし、しかしだ、世の中現実は中々哀しいものだ。
私が精霊だと思っていたそのアイドルの握手会に出向いた時のことだ。
会場では長蛇の列ができていた。その列は2時間待っても入れない程の列だった。
私は待つのを我慢することができず、列に割り込んで、半ば無理やりそのアイドルの手を握った。
動揺した顔の彼女は、私を見るなりこう言った。
「ドブス顔面の、キモ人間野郎が... その汚らしい手を退けろ!」
そのとき、その瞬間。
私の頭の中で、今まで信じてきた幻想が音を立てて崩れ去るのを感じた。