見出し画像

遠野郷の五芒星☆〜遠野七観音と直列現象〜

遠野郷八幡宮の宮司さんが長年コツコツと研究を重ねて2021年に発行された本「不思議の郷 遠野」、

『道の駅 遠野風の丘』で購入させて頂きました。遠野郷の「直列現象」や「五芒星」について記載があり、非常に興味深い研究内容です。

そして実際に今日(2023年9月16日)、行ってみました。車で全部周るのに4時間弱、走行距離90km弱のドライブになりました。車を止めてからちょっと山を歩くので、熊鈴は必須です。


◆直列現象って何?

早池峰山を開山した始閣藤蔵しかくとうぞうの居住地にある伊豆神社と、早池峰山の山頂を線で結ぶと、そのライン上に複数の神社や山の頂きがあることで、40年以上前から知られていたようです。1200年も前に、どうやって測量したのでしょうか?あるいは偶然か、または違う何かか?

青が直列現象
オレンジが五芒星

◆五芒星って何?

『遠野七観音』のうち、五つを結ぶと星型になります。それを五芒星と呼んでいます。残り二つは?と疑問が湧きますが、これにもなるほど!と合点がいく考察が添えられており、後述したいと思います。

五芒星の北側の先端は、早池峰山の山頂を指しています。

◆遠野七観音とは?

850年代に、慈覚大師が早池峰山の麓の物見山から切り出した一本の桂の木から、七体の仏像を彫り遠野郷の七箇所に安置したものといわれています。

◆七観音を巡る前に

観音様には一番から七番まで順番があり、それぞれに御詠歌が添えられており、一連の物語になっていると言われています。巡礼地を思いながら、秋の夜長に考察するのが楽しみです。

御詠歌も慈覚大師の作とされていますが、最も古い記録は1700年代のものです。観音様の巡礼が流行してきた時代です。

◆七観音の一番:山谷観音

(起点)
《遠野遺産第一号》
山    号:大慈山長福寺
読み方:やまやかんのん
本    尊:十一面観音様
地    区:小友町
住田方面からの街道沿いに建つ。

おく山や はちすが沢の 観世音
仏の誓い 新たなるらん

山奥の、蓮がなる沢の観音様。
仏様の誓いは民の救済であり、
願いでもあります。

蓮は沢ではなく通常は沼地になりますね。
汚れ無き清らかな花を咲かせる蓮。
これが流れる川は、下流の里に暮らす人々のもとに仏の願いが蓮の清らかな花となって届くイメージ。

仏様目線の詩です。
「苦しいときでも耐え忍べば必ず報われる、その基本を改めて大事にする」宣言です。

鳥居をくぐって、
杉林の中を歩きます。
心地よい境内です。

早池峰の神、瀬織津姫の仏の姿が十一面観音様です。十一面観音様は水の神様でもあります。写真のように、金毘羅さんの石碑がたくさんあります。金毘羅さんも、水の神様です。田畑に恵みをもたらし、循環し、潤い、ときには暴れて自然を荒らしたり人を飲みこんだり。

こんな山奥に水の神様を祀るお寺さん。広大で壮大な遠野郷を形成した出発点と捉えれば、遠野遺産第一号たる理由も納得できますね。

◆七観音の二番:松崎観音 

(起点から20km、車で30分)  
《遠野遺産第二号》
山    号:麦沢山松﨑寺
読み方:まつざきかんのん
本    尊:十一面観音
地    区:松崎町
達曽部、忍峠からの街道に建つ。

川つらや 末まつ崎の 観世音
余にはもらさじ 六つの誓い

川のほとりの松崎村の観音様
我には漏らさない六つの誓い

川のほとりとありますが、松崎観音様は猿ヶ石川の近くにあります。ちなみに猿ヶ石川は鞍迫観音様のあたりも流れていて、観音様の位置と川の流れが表鬼門、裏鬼門になります。

六つの誓いとは六波羅蜜のことでしょう。いわゆる修行、自己研鑽。

民衆の有るべき姿を詠います。
「仏様は常に民の救済を願っている。叶えるには民衆自身も努力しなければいけない」

車をちょっと遠くにとめて止めて、静かな集落を歩きます。雰囲気のある階段の参道を登り、参拝します。
御詠歌

◆七観音の三番:平倉観音 

(二番から13km、車で20分)
《遠野遺産第三号》
山    号:谷行山細山寺
読み方:ひらくらかんのん
本    尊:十一面観音
地    区:上郷町
気仙からの街道沿いに建つ。

細山や 野も平倉の 観世音
かけてぞ頼む 法の此の道

細山は、辛く長い道のりを示します。
法の此の道として、仏様の教えを意識して行動するという強い意志を見せながら、一方ではかけてぞ頼むと、神様お願いしますという神頼みをする本音の弱さ、その両面の葛藤が詠われます。

御堂にニホンカモシカが居ました。
こじんまりした愛らしい狛犬
湿潤。水分をたっぷり含んだ苔は、足を踏み入れるのが憚られます。

◆七観音の四番:鞍迫観音

(三番から22km、車で25分)
《遠野遺産第四号》
山    号:鞍迫山福滝寺
読み方:くらはさまかんのん
本    尊:十一面観音様 
地   区:鱒沢村
花巻からの街道沿いに建つ。

深山路や いずくなるらん くらま寺
仏の誓い たのまぬはなし

深い山とは、長い労苦を果てにたどり着いた山深い高いところを示します。転じて「境地」。そのなかで、くらま寺はどこであろうか?と自問します。

くらまと言えば天狗伝説ですが、こちらの鞍迫観音様には200を越える絵馬が奉納されています。遠野は馬の里、馬の力を借りてたくさんの恵みを与えてもらいました。

辛苦を乗り越えてきたこの境地に至って、馬の力を借りて(かけてぞ頼む)までも、絵馬の数からも、仏様に近づきたい切実な思いが感じられます。

綺麗に手入れされています。
樹齢300年の六部欅(けやき)
このような句がそれぞれの神社さんにあります。
少し歩くと『うがい浄水』という水場があります。

◆七観音の五番:宮守観音

(四番から13km、車で16分)
《遠野遺産第五号》
山    号:月見山平沢寺
読み方:みやもりかんのん
本    尊:千手観音
地    区:上宮守
盛岡日詰からの遠野街道沿いに建つ。

平沢や 月見ん里の 観世音
法の蓮は いつも絶えせじ

この場所は、月見山平沢寺として創建されました。『月見観音』とも呼ばれています。

お月さまの見える観音様。穏やかな情景です。自分は報われないと思っていないか?極楽浄土の蓮華はこんなにも豊かなのだと、気が付きます。

また、改めて第一句に戻ってみると、はちすが沢とあるように、仏様の願いは常に我々の直ぐ側にあったのだと言うことにも気が付きます。

月見観音。ロマンだなあ。
樹齢150年とされるイロハモミジ。紅葉しても綺麗でしょうね。

◆七観音の六番:栃内観音(山崎観音)

(五番から24km、車で30分)
《遠野遺産第六号》
山    号:大月山栃内寺
読み方:とちないかんのん
本    尊:馬頭観音
地    区:土淵町
大槌からの街道沿いに建つ。

民家の裏手。人がほとんど入っていないような参道です。
絵馬たくさん祀れれています。
上の絵馬、ちゃんと撮っておくべきだった。

おほつきや いま辺の川の 流れにも
極楽へ行く 誓いなるらん

「おほつき」は「大槻」と記載する文献もあります。

七観音の中で馬頭観音菩薩はこちらだけ。遠野古事記によれば、『本尊は何時、何方へ紛失したか知らず、御堂も跡形もなく破壊し棟札も無いので由緒は一向に分からない。御堂の旧跡はここと伝える所に、元禄14年(1701)百姓どもが寄り合って御堂を再建、享保5年(1720)廻国の仏師が来村して村の長へ本堂造立を勧め、志ある者どもが寄り合い、馬頭観音の尊像を安置した』とあります。

遠野の人々が大切にしてきた馬。馬の力を借りて、馬の力なしでは、馬とともに乗り換えてきたたくさんの苦楽。この観音様が一番、賑やかな感じがしました。

御詠歌を考察します。

おほつき、いわゆる大月、お月さまが大きく見えるような穏やかさの中で、いま辺の川、いわゆる今際の際(いまわのきわ、死にぎわ)、に至り、それを川の流れのように自然のことと捉える描写です。

心にもたらされた平穏は、きっと極楽へ招かれたものであろうと、死から生への輪廻する転換点です。

◆七観音の七番:笹谷観音(附馬牛観音)

(六番から16km、車で25分)
《遠野遺産第七号》
山    号:附馬牛山長洞寺
読み方:ささやかんのん
本    尊:勢至観音
地    区:附馬牛町つきもうしちょう
盛岡紫波方面からの街道沿いに建つ。

長洞や ささべの里の 松風に
萬の罪も 消え失せるかな

笹の咲く(ささべ、笹辺)長洞地区に、松を吹く風の音が、さらさら()しゅんしゅん(松風)と聞こえる様子が目に浮かびます。

松風は、水の沸騰音を例えた表現にも使われることから、水が沸騰し(現代ではグツグツと言いますが)しゅんしゅんとして泡が浮かんでは消えていく様子を、萬の罪も消え失せる描写に例えます。

萬の罪すなわち「どんなに罪深い人でも」と救済の手を差し伸べてくれます。

お隣の家のワンコさんに警戒されてしまいました。騒がせてごめんね。雰囲気のある鳥居、ちょっと撮らせてね。
もっともこじんまりした御堂です。

◆考察

巡礼順と、遠野遺産の番号が同じで、しかも遠野遺産第一号から始まる辺りも、この『遠野七観音』の重要性が伺えます。

また、遠野は交通の要衝でしたが、盆地である地形的な要因で「必ず山を超えて入る」という特殊性もありました。

五角形には『護る、防ぐ、封じ込める』力があるといいます。悪いものを呼び寄せないために、風水に習ってこの独特の配置で観音様を建立したのでしょう。

沿岸から1日の距離、内陸から1日の距離にあった遠野は宿場町としても栄えましたが、往来が激しくなる中でも、名産の馬や、金山などの宝を守る目的もあったといわれます。

五芒星として線で結んだ観音様は、山谷、平倉、鞍迫、栃内、笹谷の五つ。残り2つは、松崎、宮守(鱒沢村)。これらは「除かれて」います。

(ま)つざき、(ま)すさわ。
(ま)を除く=『魔除け』の意味かと推測されます。

松崎観音様は鬼門の方角に、宮守観音様は裏鬼門の方角にあることも、その裏付けと取れます。

七句を通して『水』がキーワードだと感じます。水の恵みだけではなく逆に水害もあったことは、山谷観音で明らかになりましたし、遠野盆地は水を起源に栄えた意味合いからも『遠野遺産第一号』たる由緒を感じます。

そしてこの水には仏様の願いが込められて我々の下へ流れてくる…そんな慈しみの想いがあるのです。

◆巡礼してみて

五芒星と直列現象。オレンジが七観音、青が神社、緑が山頂です。
GoogleMAPの軌跡。遠野を3周ぐらい回った疲労度でした。

まず感じたのは、境内は自然な状態ながらも、とても綺麗にしてあることでした。1200年経っても、いまも信仰は続いてることを強く感じられました。

七つの観音様はみな、森の中にあります。境内に入った瞬間のピリッとした空気を楽しみつつ、山の湧き水で喉を潤したり、お堂に上がっているニホンカモシカに驚かされたり。自然と共にある、共に生きる、密接な関連性を感じます。

小雨で静かな一日、なんとなく重々しい雰囲気かなぁと思ってましたが、終わってみると、気分がスッキリしてました。

直列現象のスタート地点、伊豆神社を訪れて真北を向いて早池峰山を確認したかったのですが、今回は巡礼だけで終わりとしました。その昔は、1日で歩いて回る巡礼があったようです。

五芒星や直列現象は、まだ片足を突っ込んだばかりなので、これからの調査が楽しみです。

ちょっと気になったのは、

遠野市の境界、やんわりと五角形。
その先端が、、
この直線。

門馬早池峰神社、瀬織津姫を祀る不動の滝、座敷童子の緑風荘、恐山がこの直線上にあるんです。

最も遠くは北極星。

これは偶然なの?


いいなと思ったら応援しよう!