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【登山】門馬コースで早池峰山



①早池峰山と北側斜面


ジュラ紀後期から白亜紀前期をピークに、早池峰山塊は複雑な地殻変動を繰り返して現在の形となる。

それから一億年の間に、大陸になったり海に浮かぶ島になったりしたが、早池峰山は常に陸地であったという。

特色ある植物達は今でも根付いて花を咲かせる、氷河期の遺存種として残った。さらに、今では見られないような花や動物たちも、いたのだろう。(宮沢賢治、『花鳥図譜、八月』他)

太古の息吹を感じる早池峰に立ち入るときには、いつも特別の感情に包まれる。 


今回は南側斜面ではなく北側斜面から初めて登ってみる。

おさらいとして、南側斜面は、蛇紋岩が凍結と融解により破壊され崩落を繰り返し、森林限界を1300m付近まで押し下げた状態。その様子は御門口からみわたせる開放的な風景を見ると、良く分かる。

今回訪れる北側斜面は、南斜面に比べて緩斜面で且つ風衝による影響も少ないため、山腹に表土の体積が多いとされ、1600から1700m付近まで森林が発達しているとのこと。

おおよそ100年前、牧野富太郎さんら5人が盛岡から馬車で訪れた時は、門馬地域には郵便局と民家が1軒ずつしかなく、旅人ら頼み込んで泊めさせてもらったと記録がある。

そこから登り山頂で一泊して、さまざまな花を採取された。そのあたりの物語はこちら。

昭和初期には森林鉄道も敷設されヒノキアスナロ(ヒバ)の伐採が盛んに行われたが、昭和23年のアイオン台風により大部分が被害を受け、廃業に至る。

奇跡的な自然環境のもとで育まれた信仰や産業は、今は見る影も薄くなった北側斜面。

火山などの降灰(深いところは2m)の影響を受けながらも、力強く生き抜いてきた森のなかで、往年の盛衰を感じさせるのは、タウシュベツ川橋梁のそれに通じる部分がある。(寂しくも暖かい)

自然の美しさや厳しさ、逞しさから、先人は何を得て、あるいは何を失って、どんなことを感じ取ってきたのだろう。組織や団体レベルではなくて、個人のストレートな思いを聞いてみたい。

叶わない想いは感性を研ぎ澄ましてくれる。宇宙を彷徨うような感情が、ここに立った瞬間からやってくる。


②登山の記録


盛岡南ICまで高速を使って、そこから高規格化された106号に接続、門馬地区に入る。狭い道はやがて未舗装路となり、10分位ガタガタ走らせると登山口に到着。家から1時間半。

駐車場にキレイなトイレもあって、大事にされている感が伝わってくる。

しかしまだ朝の四時過ぎだ☺気温12℃。暗くて静か。ちょっと怖いぞ。荷造りやストレッチしている間に、もう一人到着。門馬から小田越に降りて、薬師岳を越えて遠野側へ下るという!

当の私は、標高差1300mに対応できるか。心配だったので、先週は酷暑の岩手山で標高差1500mを試してみた。歩くペースや歩き方、必要な装備品の気づきを得られたので、それをこの門馬コースで発揮したい。


5合目までは、握沢という渓流に沿って歩く。爽やかな音が森に響いている。涼しい。歩き始めてすぐ、その沢音よりも森の圧倒感に心を奪われる。木が力強く生きている。太いとか高いとか見た目の迫力もそうだが、なにより手を触れたときの感覚が凄かった。

サクラダファミリアみたいだ
存在感、
気圧される圧倒感

なだらかなトレールは、かつての森林鉄道の軌道跡。道ばたに、サビも腐食もせずレールが残置されている。急峻な谷間には、鉄橋が掛けられている。鉄橋から下を覗くと、その高低差と急勾配さに震え上がる。もし上から崩落があったら、橋が崩落したら、足早にそっと通過する。

橋の写真①
鉄橋は14。うち1つは通行不可。
橋の写真②
迂回路も丁寧で歩きやすい。
握沢の流れが美しい。

1時間歩くと、握沢を渡る木製の橋が見えた。鳥居口。ここから神域なんだな。お辞儀して鐘を鳴らして入る。

早池峰山の裾野にやっと取り付いた。勾配をグッと増して尾根沿いの登りが始まる。予定、3時間。

頭上高く覆う木々(名前を勉強しなきゃ)が指してきた日差しを遮ってくれるが、風のない森の中では、暑さが体に蓄積されていく。

鳥居口。昭和十二年の建築。
6時。森にようやく日が指してきた。
苔むした森。
岩石を掴むように育つ。力強い。

切り出した倒木がベンチや椅子に成り代わっていて、適度に休ませてもらった。ありがたい。熊鈴の音が止んだときの森の静寂に浸る。

野趣の溢れ具合で見れば、ここは南側斜面の比ではなく、何か居そうな気配はやっぱりある。野生動物なのか何なのか。しかし不思議に恐怖心が無く、気持ちはとても落ち着いている。

元々、川井村(現宮古市)には巨大熊伝説や巨大鹿伝説があって、15年も前のローカルTVで真面目に特集されていた。ガイドが指差す先の熊の足跡はヒグマ並、1日数十キロ移動するという。

『何かいる』と思えどそれを悪いものと断定するのではなく、『何かは居るんだ』という畏怖と共生の気持ちが、私の行動の前提にある。

さて登るか。

ヒノキアスナロが鳥居口から八号目付近までたくさん見られた。いわゆるヒバ。かつてはヒノキより安価だったことから、『ヒノキに明日成ろう』=『檜明日檜』=『檜翌檜』という名をつけられ、成長や発展を願ったものと思われる。

六合目から八合目まで広がるヒノキアスナロの森。
葉の形も独特。
森のお手入れ。
岩の上に腰掛ける杉、
と思ったらこうやって生きている。
森の再生

標高を変えると植生が変わるからか、森の香りも変わっていく。こんなにも豊かな森。倒れたばかりで輪切りにされたコメツガ。鼻を近づけて深呼吸した。甘くいい香りがした。

八号目からはハイマツ帯となり、景色も開ける。これから目指す山頂は、ゴツゴツした岩で固められた要塞みたいだ。一方で背面の北側には、母なる北上山地が豊かな緑を湛えている。同じ空の下に相反する景色、人生みたいだね。

空が開けた
お不動様にご挨拶
北側の山並み
南側のハイマツと岩石

山頂の前に、門馬コースで出会ったお花は、別ノートで。

足元は蛇紋岩。ポンポンと跳ねながら、小田越コースに合流した。多くの登山客が行き交う。私道から国道に出たような交通量の多さに、これまで一人の時間を楽しんでいた気持ちが追いつかない。

早池峰山は花の最盛期を迎えている。みんなそれぞれに、花を前にして何か会話したり、カメラに収めたり、そんな賑わいが山頂を潤している。やはりこのお山は、美しい。

もうすぐ山頂。
ついた☺
福田パンをコーヒーで。至福。

平野部の最高気温32℃予報、お山は20℃くらいか。日差しもあって暑く感じる。登りはちょうど4時間で来た。小休憩して、花の撮影もそこそこにして足早に山頂をあとにする。

門馬コースの静かな下りでは、何人かのソロの方とスライドした。コースによって、登山者の特徴出るなぁと、主観的に思う。

八号目で門馬コースの管理人の方とお会いした。また、5合目付近でももう一人の管理人の方とお話ができた。幸運だなと感じた。その方達とのお話は③節で。

これから通るハイマツの斜面。
再生
注意喚起。雨風で枝や本体が倒壊する危険。
快適な森の中。

鳥居口で一礼して、神域を出る。背後で爽やかに音を立てる握沢に降りて、冷たい水に手ぬぐいを浸す。軽く絞って首に巻いて、火照った体が冷えていく感覚を楽しんだ。

橋の支柱。案外頑丈。
握沢の渓流
いつまでも見ていられる。
涼しい。
崩れたら下まで転落、、、ここ一番怖かった。

握沢の流れを見ながら、歩きやすいトレールを闊歩して駐車場まで戻った。大きな充実感と、岩手山とは別の疲労感(いい感じの)を得て、身支度をして帰路に。

林道ではホンシュウジカが車の目の前に飛び出してきて、そのまま反対の山の斜面を一気に駆け上がっていった。ぶつかったら、おめさんも生ぎでらんねべし、おらの車も廃車だど!と思いながら白いお尻を追いかけた。

安堵してたら、次はモコモコしたニホンカモシカ。まだ若い個体、足が短いので鹿みたいに跳躍できないけど、そのモッタリ感に癒された。

行動食はカロリーメイトの類似品一箱、水分は1.5L消費(山頂でのコーヒー含む)。山頂で菓子パン。予備1L。カップラのおにぎりは持ち帰り。

たいてい滑ったりして苦手な登りも下りも、いい感じで対応できた。(前日にYouTubeで勉強した😁)これも岩手山で、登山者の方のスムーズな歩き方を見られたから。感謝です。

振り返ると、ラジオも携帯の電波も入らない森の奥には、歴史と自然が贅沢に感じられるオアシスが有った。香るこの森は、深く暖かい。36回目の早池峰山でした。


③森の守り人

『ヤッホー』
八号目、下からあがってくる方の第一声。
『良い〜鈴だね〜、凄く響いてる』
南部鉄器の熊鈴かな?自分では分からない部分だったので、響き具合を聞けて良かった。

胸ポケットに無線を挿しておられたので、管理人の方と聞かずとも分かった。

興味深い話が尽きなかった。森の素晴らしさ、鹿の問題、やがてそれが及ぼす影響、行政の対応等々。全部は書かないが、柔和ながら、地に足のついた言葉には重みがあった。ぜひまたお会いしたい。

『あっち(南側)は来れば来るたんびに変わる山。お花がね、次々にね』
『こっち(北側)は変わらない山なんだ。』
たしかに、南側は毎年生まれ変わるような感じ、北側は百年単位の森。同じ山なのに不思議だ。

下草がない登山道は見晴らしが良く歩きやすかったが、それは鹿が下草をみんな食べてしまったたからだと言う。

九合目付近のコバイケイソウもやはり、食われていた。これは山頂直下や剣ヶ峰の縦走路でも同じ。コバイケイソウには毒があるが、鹿が耐性を得てしまって、しかも最近では団体で行動をしている。

わざわざ毒を持った葉を食べるのは、もうそれぐらいしか食べるものがない、という事。それを聞いて震撼した。

下草がないので、水を蓄えられずに、雨が降ると水は滝のようになって禿げた登山道を削る。その行く先は言わずもがな。山が弱くなり崩れれば、アイオン沢の水のように濁って飲めなくなる。大規模な崩落があれば下流域に及ぼす被害は容易に想定できる。

土が流れないように、水切りの丸太を置いたりしている。これが階段状になっていて、歩きやすかった。15年ほど前まではこれが無くて、みんな下りでは尻もちをついてきたそうだ。

国有林は厳正に保護される区域とされているが、それ故に鹿の個体数調整などはできないという。これが美しい森が直面している現実。

〜私の考えとして〜
鹿の食害は農地でも深刻だ。電気柵は補助金が出るとは言え、全世帯がお金を出せるわけではない。『来年また会えたら、会いましょう』と、お世話になっているぶどう農家さんは言う。

早池峰山は、取り巻く団体が携帯トイレの普及で先進的な取り組みをされてきた。同じように、民間の声で健全なる早池峰の自然保護ができないか。

入山規制でも良い。

〜私の考え、以上〜

握沢沿いに降りていると、5合目あたりでもう一人の管理人さんにお会いした。コース脇の落ち葉を整理されていた。

長年このお山に携わっているのが、すぐ分かる。それを押し出すこともなく、八合目でお会いした方のような柔和さをお持ちなのは、このお山に育まれたからだろうか?なんて思いながら、談笑。

小田越コースに比べれば入山者のとても少ない門馬コースだが、登山届をチェックして、おおよその下山時間を想定、ご自分たちの帰る時間までは、森の手入れをしながら無事な下山を見届ける。

登山者と積極的に会話するのは、倒木や迷いやすい箇所は無かったか、登山道に異常がないかを確認する目的でもあるという。ありがたい。

お二方とも共通して教えてくださった事は、秋になると桂の木から葉が落ちて、地面を黄色に染めてとても綺麗だよ、ということ☺秋の楽しみが増えました。

小田越コースでは、あまり管理人さん(監視員さん)とお話をする機会が無かったが、門馬コースではゆったりした森のような『守り人』がいる、このコースの一番の魅力かもしれない。


後記
この森に合うのは、Deep Forestかなと思って何曲か合わせてみましたが、姫神さん(花巻市在住なんですね)の千年の祈りがしっくりきました。


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