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【Inverted Angel】魂が渇望していた推理ゲームがここにあった

◆ Inverted Angelを知っているか?

 【Inverted Angel】…今年7月に発売されたアドベンチャーゲームだ。突如自分の家に来訪した「恋人」を名乗る知らない女性と、インターホンのモニター越しに会話をするアドベンチャーゲームだ。

 ゲーム名・キャラクタービジュアル・設定や すこしゲームを触った感覚はかの【NEEDY GIRL OVERDOSE】を彷彿とさせる。実際自分は完全に「ニディガのフォローゲーム」と思っており、恋愛をメインに添えたゲームがあまり得意でないゆえ見送っていた。

 しかし実際プレイしてみたこのゲームは、そもそも作りからして恋愛ゲームとはかけ離れたものだった。

 であれば どういうつくりのゲームなのか?それはズバリ、推理ゲームだ。それも ただの推理ゲームではない。筆者がこのところずっと飢えていた、適度な難易度があって、緊張感と驚きのある、すごい推理ゲームだ。見た目からは予想だにしなかったその作りにすっかり魅了され、1周し、また1周し……気づけばすべてのエンディングを見ていた。プレイ時間は6時間程度。そんな【Inverted Angel】の魅力をアピールしたい。



◆ 渇望していた推理ゲームがここにあった

基本画面はこんな感じ オーソドックスなビジュアルノベル

 なにがどう推理ゲームなのか?その鍵は目の前の女が「恋人を名乗る謎の女性」という舞台設定にある。

 プレイヤーは 恋人を自称する正体の分からない女性について、

  • 彼女は何者なのか?

  • 知り合いか?

  • ならばなぜ自分は彼女を覚えていないのか?

  • 知らない人間か?

  • ならばなぜこの女は恋人を名乗るのか?

…などを推測しながら接していく。面白いのが、推察にあたって選択肢から選ぶのではなく、自由な入力ができるところ。

こんな無茶な入力をしても

 入力の内容は自然言語処理により解析され、類似の回答を提示してくれる。これは必ずしも「自分の考えを反映したゲームプレイ」を保証するものではないが、それでも提示された候補から選ぶよりは、意に沿っている。

ちゃんと流れに沿った解釈に至る

 この奇妙な状況をどのように捉えたかによって、主人公の応対に差が出て…物語が組み立てられ…結末が決定されていく。

 やがて違和感を手繰り正体を探ろうとする行為は 彼女の神経を逆なでし…ドア一枚隔てた「自分」と「女」の間には緊迫感が走る。最終的に「彼女が何者か」推論を重ねたところで物語が決定する。そこから先は分岐した物語の結末を目指す追求フェーズに突入する。指摘や推理を相変わらず自由入力で行う、ライフ制の、真剣勝負のフェーズだ。

 このフェーズでは、こちらを丸め込もうとする彼女の言葉を潜り抜けて発言することになる。今までと違い 入力から類推される選択肢が提示されるのではなく、「入力がどれだけ真実に近いか」が判定され、類似度が一定値を超えると正解となり先へ進む。

ギリギリ突破した例

 この回答は、追求フェーズで出てきた疑問点を叩くこともあれば、ルート確定前の共通情報が決め手となることもある。とにかく 彼女の話を注意深く聞くのが重要だ。
 スパッと正解が分かることも、入力の判定の機嫌に翻弄されることも、まったくピンと来ず空打ち入力を繰り返すこともあった。難易度はなかなか骨がある。

 左上に表示される 最大3のハートがライフの表示だ。これは「NGワードを入力すること」または「ヒントを得るためのコスト」として1ずつ減少する。NGワードを踏む機会はあまりなかったが、ライフ制が適度な緊張感を提供してくれる。
 また、ライフの残量に関係なく 誤答回数により問答無用でゲームオーバーとなる局面もある。

 そして見事物語の結末まで辿り着けば、さわやかなエピローグが……大体の場合は待っている。




◆ 複数回やれ

 このゲームを1周だけして満足する人はいないと思うが、いるかもしれないので一応書く。全エンドは見なくてもいい。既読スキップを活用するとけっこう捗る。つまり複数回やれ。

 筆者は1周目では徹底して「知らない人間によるイタズラ」を疑い、読んでいて普通に引っかかった疑問点に飛びついた。2周目は一転して徹底的に「自分は何らかの理由で記憶を失っており、彼女は本当に恋人」という認識で駆け抜けた。結果もたらされた異なるプレイ体験に感動し…全ルートやっていた。

 これから遊ぶ人々の楽しみを奪わないように、詳細への言及は避けるが、彼女が何者で、自分が何者で、どうしてこんな事態になっているか?この分岐のバリエーションは凄まじい

 とにかくまずは最初の1周を全力で楽しんで欲しい。筆者は最初に、自由入力に弾かれながら諦めず到達したエンディングがすごかったため「いきなり真相ルートに到達してしまった」と自分の天才ゲーマーっぷりに酔っていたが、そうではなかった。真相と見まがうようなルートがいくつも用意されおり…つまりこのゲームがすごいのだ

 例に挙げると、以下のような話に発展することもあるし(本当に内容のネタバレを少しでも避けたい人は 下の画像の右側を見ずに読み飛ばして欲しい)、

たぶんこの流れは最初のゲームの手触りからは読めない

例えば分岐に全く影響を及ぼさない以下のようなおふざけを拾ってくれたりもする。

残念ながらどの結末にも結びつかない因果だが すこし会話を広げてくれる

 ルートが確定するまでの彼女はいろいろな話題を散漫に語る。曰く「自然主義的誤謬」だの「ストックホルム症候群」だの「チューリングテスト」だの。あるいは認識の錯誤に関する例えか、とにかくちょっと認知の領域に踏み込んだ話をしてくれる。それら散漫なワードが、それぞれ別のルートにて掘り下げられることで、各ルートの説得力が上がっていく。

 ルートを開拓するのが難しい日もあるだろう。これについては、ルート突入までの条件を調べて、その先の追求パートの情報を遮断するという方法でも遜色なく楽しめるので、攻略情報の力を頼るのもいい。ちなみに自力でルートの分岐条件を見極めるのはけっこう限界があると個人的に思う。

 さて、ここまで読んでくれた人はもう【Inverted Angel】を遊びたくてたまらなくなっているだろう。立ち絵のバリエーションはないし、Live2Dにはチープな印象を受けてしまうかもしれない。だが そんなものはゲームの評価を左右しない。とても面白いゲームだった。

 彼女は何者か、見つけてあげて欲しい。




 以下はネタバレを含むのでクリアした人と、ネタバレを気にしない人だけ読んで欲しい。

◆ (既クリア者向け)言いたいことを少しだけ








◆ 一番好きなルート=最初に分岐したルート

 筆者が一番最初に分岐したのは緑ルートだった。何を入力しても弾かれ、「恋人」か「ストーカー」か妥協して選べという局面において、「彼女が別の時間軸から来たから」という回答が通った時はあまりに気持ちが良く、彼女の言っていた「違う地図を見ていることに気付かず会話をしている」例えにスパッとハマっていた。
 その後にまた「タイムマシンなんてあるわけないでしょ?」というどんでん返しが仕込まれているのも好きだ。ちなみにここの回答ははじめ全くピンときていなかったが、よく記憶を辿って「そういえば家族と挨拶したことないと言っていた!」と閃いた時がまた気持ちよかった。この時は完全に推理ゲームに求める快楽物質が脳からドバドバ出ていた

 緑ルートはエンディングが奇妙な温度で、それがまたいい。というわけで本当に「最初から真エンドにたどり着いてしまった」と思い込んでいた。エンディングリストを見た時、これがただの1ルートでしかないと知った時の驚きたるや。

交換殺人の指摘をスパッと切り出せたので桃色ルートも好き。エピローグが自分と恋人のやりとりで、パッケージの彼女が一切登場しないところにこのゲームの表現の思い切りの良さを感じた。バッドだとここの分岐である「どうしてその知り得ない情報を知ってるの?」という流れが好き。
 好きとはちょっと違うが、黒に分岐したとみせかけてからの黄色ルートは改めて「自分が何者かも定義できる」ゲームの凄さを感じた。一人称が女性によるものとは思えないと言う納得できなさもあったが。

 雑事だけど、デカルト座標系はちょっと違くない?と思った(鶯色は支離滅裂にそれっぽいことを言っていく会話に発展するのでわざとなのかもしれない)。チューリングテストの解釈というか目的もなんか違うが、AIの発展した昨今においてはそういう捉え方でも良いのかもしれない。



◆ 最後のアレをどうしたか?

 白ルートが真エンドであり そのルートへの入り方自体は、彼女の正体を類推するお遊びの中で気付けていた。いつかこの先の結末へ辿り着く権利を得るのだろうと。

 しかし最後の「我々はどうしてこの夜を繰り返しているのか」という質問でめちゃくちゃ苦戦する。調べたら攻略情報は載せてはならないということで、結果通った回答に筆者はやや唖然としたのだが、これが真実かどうか確証が持てない。

 攻略情報は載せてはダメだが「この質問に対して一番最初にどう回答したか」は載せてもいいだろう(外したため/ガイドラインを見るに感想では許されてる気もする)。この問いへの回答は、このゲームをどう捉えたかであるためちょっと語りたい。

俺たちに明日はない

 共に朝焼けを迎える未来があり得ないのは、こんなにも楽しい彼女との定義し合いが、しょせんゲームの範囲でのやりとりでしかないから。このプログラムの中に明日が用意されていないから…というメタフィクション性を突いた回答のつもりだ。

 基本の画面デザインからも分かる通り、この作品はかなりメタというか、彼女にプレイヤーを見据えさせるのに都合のいいつくりをしているが、あまりそれに振り切らなかったのはまた面白い。そういうのを突いたエンディングもあったが、基本はゲーム画面を貫通してプレイヤーに語りかけることはなく、画面の中のプレイヤーに定義されたロールの範囲で解決される。

 この局面でも、あくまでこの作品の範囲で、彼女と自分はなぜこの夜を繰り返しているかを考えさせていた。

 そんな感じ。久々に「やりたい感じの推理ゲーム」が遊べて最高でした。不意打ちだったのがまた嬉しかった。


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