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【Until Then】は君に寄り添ったか?【ゲーム感想】
Until Then とは
大災害の被害から復興している最中のフィリピンに生きる普通の高校生が、課題に追われながら高校生活を送り、友人と遊び、運命的な出会いをし…そして奇妙な失踪事件と立ち向かっていく姿をピクセルアートで描いたアドベンチャーゲームだ。
筆者はストーリーに引き込まれ一気にプレイし 一応の終わりまで到達した。もともと評価の高い作品で非常に面白く、あとに書く通り心に残った作品ではあるのだが、終盤の展開を理解しきれておらず、変なゲームでもあると感じたので、そういう思いを込めて感想を書いた。
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本論は性質上ネタバレを多分に含むが、未プレイの方へのアプローチとして一点だけ 本作の魅力を書きたい。それはズバリ「リアルなSNS描写」だ。
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よく主人公が見ているSNSでは、投稿に「いいね」をしたりコメントをすることが出来る。コメントやコメントへの返信まで見ることも出来るし、そこに更に「いいね」を付けることも出来る。
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またネットニュースもかなりの文量があり 世界観の構築というか、主人公らを取り巻く情勢を描くことに一役買っている。
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学内で人気のある人物がマイノリティの権利を応援する運動に肩入れした時に中傷するコメントが付くとか、「震災は実際には起こっていない」と主張する匿名人物との喧嘩とか、リアルという言葉であらわすことに抵抗を感じるほどの質感を担っている。
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これらは読まなくてもゲームが進行する(見逃すと二度と見るチャンスは無い)ところが良く、興味がなければ一切無視しても良いというのがありがたいところだろう。読まないことで困ることはまずない。
もう一つ登場するのがLINEのようなアプリケーション。こういったメッセージアプリがゲームに登場するのは珍しくないが、この作品において特徴的なのは主人公が一字一字入力していくところ。
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時に送信を躊躇い、時に文章は訂正されていく。また「既読」が付くまでの時間や、返信が来るまでの時間もまちまちで、各登場人物の心の動きを垣間見ることが出来る。
本心を仕舞い込んでしまう主人公の脳内を描いてしまうと ともすればくどくなってしまうものだが、指の迷いという形でうまく表現し切っている。
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ここから下の内容はネタバレ感想になる。未プレイの方はぜひ遊んで、生きていくことにやや無気力で、やっつけ癖のある主人公が ある出来事をきっかけにピアノに打ち込んでいく。そして……その行き着く先を見守って欲しい。
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もしかしたら「(作品名)を好きな人にオススメ!」というアプローチの方が受け入れやすい人もいるかもしれないので敢えてそれも書く。作品の面白みを損ねないよう書いたつもりだが 少しのネタバレも目にしたくない人は読まずに上のストアから購入しこのページを閉じ、記事のことは一旦忘れてほしい。
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よく言われているのが「シュタインズゲート」で、取り組んでいる事象や登場人物の配置は確かに似ている。個人的に手触りは「ライフイズストレンジ」や「ナイト・イン・ザ・ウッズ」に近いと思った。要するに若者のいろいろな葛藤を非常に繊細に描いた作品だ。
特に後ろ2作を好きな人には強くオススメしたい(シュタゲは科学考証を求めるとややズレるかも)。具体的には
ライフイズストレンジ
リアリティのある学生たちの人間模様
デジャヴュと超能力
ナイト・イン・ザ・ウッズ
痛みを伴うあけすけな人間模様
行方不明事件がベースにある
雑然としたミニゲーム
という部分についてだ。これらの作品に愛おしさを感じたゲーマーなら間違いなく楽しめるだろう。というわけですべての人が【Until Then】をプレイしたところで感想記事に移っていきたい。
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※ 以下の内容は【Until Then】と【ナイト・イン・ザ・ウッズ】および【シュタインズゲート】のネタバレを含みます。
Until Then に心撃たれて
この作品に仕込まれたトリックとして、海外でそれぞれ働いているとされるマークの両親のうち、母親は飛行機事故で行方不明になっており、父もマークもそれを認めきれずに母親が生きているかのように振る舞っている というものがある。
母親に宛てた未送信のメッセージの数々、赤裸々な言葉。必死に母親の行方を追い続けるマークと父。その後に より大きな厄災がフィリピンを襲い……関心度の低い飛行機事故の情報は埋もれていってしまう。全ての描写が生々しく、痛々しかった。
この「埋もれる」という部分が当然のことでありながらも特に無慈悲で息苦しい描写だった。
1周目においてニコールは「ピアノに打ち込むことで全てが解決すると思い込もうとしていたがそれは誤りだった」とピアノクラブの試験を受けることを止めてしまうが、奇しくもマークも同様の想いをピアノに乗せていた。
ニコール越しに 母の死を認めることが出来ず停滞する自身を見つめなおし、現実を受け止め、前へと進む決心をする。
こういう場であまり個人情報を出すべきではないと考えているが、レビューに必要なので敢えて書く。筆者も学生時代に母を失くしている。病死だったため、死を死として受け止めてはいるが、精神的に未熟だった時期に受けたショックから未だに抜け出せていない。母が今でも病身ながら生き続けているという夢をたまに見て、夢から覚めた直後はそれを現実と混同する。ゲームを一心不乱に遊んでいるのも、その反動かもしれない。
マークを取り巻くショッキングな描写は、自身に内在する弱みや問題を掻き出すようだった。この作品は、取り返しのつかない過去の事態にこだわるマークやニコールをただ愚かだと断罪するのではなく、「過去を受け入れる」「誤ったアプローチを見直す」「今そばにいる人を尊重する」など具体的なアドバイスを示す。
過去を受けとめ前へと進んでいく…それだけが絶対的な正解だとは思わない。しかしこの作品が筆者の内面に入り込み、心に残る一作となったことは間違いない。
◆
このメッセージが響いたがゆえに2周目以降に蛇足感を覚えてしまった部分がある。大切な人の死を死として受け入れる勇気を与える一方、2周目に進むプレイヤーの多くは「キャスの死を受け入れることが出来ず 過去に可能性を見出している」ためだ(もしくは「ゲーマーは出来ることはやる」か)。
最後までプレイすればこの歪みが解消されるかと期待したが、最後までこの点はスッキリしなかった。この物語の芯にある問題の解明にこだわらないのであれば1周目で終わらせるのも一つの物語だと思う。
Until Then の細かな感想
親の愛情に飢えた大きな子供が、自分と同じ「親の目が行き届いていない子供」を目にし、その子供がきちんと親から愛され寂しい思いをしていないと発覚した時に「安堵する」か「裏切られたと感じる」か二つの反応があると思うが、マークが前者であることに非常に好感を持った。
プレイヤーの誘導もなかなか巧妙。ニコールに生家に連れられるシーン、直前にルイーズの警告を聞いており「もしかしたらニコールを失うかもしれない」という焦燥感を煽られ、ニコールの話に耳を傾ける余裕がなくなる作劇はすごかった。(それはそうとニコールの怒りは理不尽だとは思う)
また1周目のクリスマス、指を迷わせてようやく送信したメッセージに対するレスポンスの悪さに不安を覚えた直後、サプライズをもって家族で迎えにくるニコールには完全にやられた。
1周目の好きな点が ルイーズの「雨が降っていた時に誰からも観測されていなかった人物が行方不明になる」という仮定で、(結果としてこれは間違いだったのだが)ニコールが、キャスがいなくなってしまうかもしれない…という不安をありありと描いていた。
この構造がナイト・イン・ザ・ウッズで何度もリフレインされる「いなくなるまで誰も彼を知らない」「いなくなって初めて彼がどういう人物か知る」というテーマと一致しており、クリスマスにジェシカが行方不明になるが、誰も彼女と親しくない。同級生が突然消えたのにクラスの全員が特に気にする様子もなく学園生活が続いていく恐ろしさにマッチしていた。まあ、間違った仮定だったが。
「ニコールが作曲しコンクールで披露した曲」を中心とした構成が良かった。その曲の演奏を通じて、マークとニコールが互いの中にジェイクと母親を見出しているのも(あまり良くない意味で)良い。
個人的にマークとニコールがあれだけの関係を経て、最終的に他人で終わる作風が好きなのだが、これは完全に筆者の趣味なので 大多数は納得できないのではないか。
キャスにもっと脚光が当たるものかと期待していたがそうでもなかった。MCRトリオが好きなのでもっと彼らを見たかった。(ジュンジュンがピアノクラスに入った背景とかどこかの周で描かれていくものだと思い込んでいたけど最後まで謎の人物だった)
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Until Then とはどんな話だったのか(予想編)
この作品の類似作品として「シュタインズゲート」が挙げられており、物語を辿って行った果てにキャスを失い、またループの初めに戻ることを繰り返すプレイヤーの挙動は、シュタインズゲートにて主人公である岡部が巻き込まれた騒動に似ているように感じる。また、量子もつれを解消していく過程で協力するニコールの存在も牧瀬を思い出させるものになっている。
しかしこの作品はシュタインズゲートではない。Until Thenにおけるマークとニコールはタイムマシンの研究者でもなければ、物理学を専門としているわけでもない、普通の高校生だ。なので根拠のある仮設を元に能動的に行動を起こすわけでもなく、事態に対して理論付けた解説パートがあるわけでもない。
量子もつれがもたらす問題に唯一取り組むルイーズは記憶の共有が出来ておらず、ループによって存在しないことも多い。
つまり 筆者は「何が起こったか」分からなかった。ただしこういう話だったのか?という自分なりの解釈はあるので、まずはまっさらな状態でそれを書きたい。この解釈にはまったく自信がないのでその後他に考察をされている方の記事を読み、改めてUntil Thenを理解したい(別に章立てをした)。
先に書くと、この試みは失敗した(2025年1月現在)。
(Until Thenはたぶんこんな話)
マークに対しては母が、ニコールに対してはジェイクがそれぞれ「自分の死による傷を乗り越えられるよう」はたらきかけていたため、二者についてパラレルワールドが発生した
二者のパラレルワールドの衝突の余波で「裁定」が発生する(ゲーム開始地点よりも前)
「裁定」の影響でニコールが避難、マークと接触することで両者が初めて母親とジェイクの死を乗り越えることが出来た(ゲーム1周目・裁定による避難が発生しニコールと出会ってから数周目)
その影響でキャスが死亡しマークが今度はその死を引きずるようになったのでループの頭に戻る(2周目への転換・プレイヤーの意志と母の意志の融合?)
マークとニコールは量子もつれを解消しようと試みる(2周目以降)、一方で母とジェイクの狙い通りマークらを取り巻く人間関係は良くなるが裁定の規模が肥大してゆく
マークたちの行動と母たちの導きにより量子もつれが解消し、裁定が発生しない本来の世界に戻る
マークたちの中には互いから得た「前に進むため」の心構えが残り、本来の世界で互いに干渉せず人生を歩んでいくことになった
筆者は以上のようなというストーリーとして受け取った。この解釈の要点は
「騒動の原因は母とジェイク」
「ホットスポットでマークたちがしていた行動は量子もつれの解消」
「裁定は本来起こらない出来事であり 最終的に発生しない状態に戻った」
「マークとニコールの運命は今後交わらない」
となる。
マークとニコールが自らの内面に抱える問題を客観視し、過去から未来へ視野を切り替えるためには 互いに関わることが必要だったが、互いに関わるほどに世界の状態が不安定になっていくということだ。ニコールが作曲した曲を介し、マークは母の面影を感じ、ニコールはジェイクとの思い出を胸にする。
この解釈の問題点は、ジェイクは死んだのか?というところだ。彼の家族が直面したのは離婚による一家の解体であり、直接的な死ではない。しかしジェイクが死者ではないと成立しない筋書きになってしまう。
また、筆者は1周目をプレイし大切な人を失い傷ついた状態から立ち直るための強いメッセージに奮い立たされた。
繊細な傷に対して導きを示してくれる作品であったため、作中で起きている「裁定」は、現実の災害だったり、感染症の拡大だったり戦争だったり、強大な死を意識したもので、この作品はそういった現実に起きる厄災の被害者に向けたメッセージを含んでいると考えていた。国際的な混乱、リアリティのあるSNS描写、突然日常を失う恐怖を必然的な描写と誤解していたのだ。
ゆえに、裁定が本来発生していなかったという事態に直面して「良かった!苦しんでいる人はいなかったんだ!」とは思えなかった。
ある災害に対し、影響のない場所に暮らす人間がSNSで「実は災害は起こっていない!」と主張するというのは、作中でも登場し 現実世界でも見られる最悪の部類のコメントなのだが、結果的にそれがこのゲームの構造の真理を捉えたコメントなのだとしたら軽率だと感じる。
ストーリーの整理にあたって、途中まで考えていたが最終的に改めたのがキャスに関する考察だ。
筆者は当初「彼女もデジャヴュを感じているが隠している」と予想していた。また「本来家庭内暴力によりループの早い時点で亡くなっているためどの時間軸でも死を迎える」とも。シュタインズゲートでいう、まゆりの死への因果の収束のようなものが描かれていると考えていた。
これらについて具体的な言及がなかったため最終的には間違っていたのだと思う(可能な限り早くキャスの家庭内の問題を明らかにするのが、マークが幸福に生きるための条件だった?)。
Until Then とはどんな話だったのか(解体編)
他の考察を全部読んで、自己解釈を改めていくぞ!!!と意気込んだものの、物語で実際起こったことに対する日本語の考察記事があまり見つけられなかった(2025年1月現在)。そのため企画倒れなのだが、今後の日本での解釈・考察の発展を祈念したい。これからも調べて発見次第追記していきたい。
おすすめの海外/日本の考察記事や、プレイされた方による些細な解釈でも 何かあったらコメントで教えていただけると幸いです。
筆者が読んだ考察の紹介をしながら自分なりに要約をした。要約は要点をとらえていなかったり誤解があったりするため、ぜひリンク元の記事を読んでほしい。
リデルと一緒にキャスを探すところまでが現実で、ニコールとのあれこれはSF的な現象ではなく、ピアノのメロディを耳にしたことで引き起こされた脳内妄想のようなもの。母とジェイクはその幻覚を引き起こしているマーク/ニコールにとっての神様のような存在 というような解釈をしている。
ジェイクは死んでないのでは?と筆者も感じるので、実際にジェイクの意志が介在していると捉えるよりは、ニコールの意識が影響を及ぼしていると考えるのはいいのかもしれない。
◆
有料部分があるため詳細には書かないが、実際に作中で起こったこと/その日時をまとめ ゲームの構造を整頓した記録で参考になった。
自分はルイーズの考えに引っ張られていたが、上記記事はルイーズとも異なる記事筆者の考えをベースにしている。考察記事・まとめ記事はこれくらいの熱量をもってすべきかもしれない。ともあれ 考察の一助に是非読んで欲しい。
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