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ノンアル・ビアハンター #BEERY

最近関東甲信越で販売開始したアサヒの「微アル」飲料、ビアリーを飲んでみました、という話。

突然だが、大河ドラマ「青天を衝け」が面白い。元々半信半疑で見始めたが、すっかりハマりつつある。

主役は明治の大資本家・渋沢栄一だが、いまのところ草彅剛が演じる徳川慶喜とのダブル主人公といった具合。まだまだ農民身分の栄一パートは全体的にハートウォーミングな雰囲気で、大河というより朝ドラのような印象。吉沢涼、橋本愛、高良健吾らが青春模様を織り成す深谷の村が、一部インターネットで「美形だらけのユートピア農村」呼ばわりされているのは笑ってしまった。

必然、歴史ファンの注目が集まるのは既に権力闘争の渦中にいる慶喜パート。幕末の重要人物も続々登場してくる中で、特に先日、井伊直弼登場から桜田門外の変に至るまでの一連には感動した。本来文人として生きる筈だった井伊が家を継ぎ、偶然か天命か重職に就き、その平凡で繊細な感性ゆえに暴走し自他に悲劇的な末路を迎える...。特に時間をかけて生い立ち等を説明されるわけでもなく、場面場面の描写(慶喜に感服したかと思えば将軍に絆される井伊、チャカポン呼ばわりの夢にうなされる井伊、自分プロデュースの狂言に執心する井伊...など)だけでキャラクター造形が説得力をもって立ち上がり、演技演出の芸術たる「ドラマ」の凄味を味わえたと思う。まさか井伊直弼の生きざまで泣きそうになるとは

史劇って、事象や解釈の面白さが醍醐味だと思う(だからこそ話のわかりきった忠臣蔵は何度も放送できる)ので、そこを外さない本作は今後もかなり期待できそう。

大河ドラマの話は程々にして、大資本家・渋沢栄一は日本の大手ビール会社成立にも関わっている。キリン、サッポロ(ヱビス)、アサヒ三社のルーツにそれぞれ経営者・出資者として参画しており、特に札幌麦酒(サッポロ)では会長まで務めている。ちなみに元々特段ビールが好きというわけではなかったらしい。

ということで、今回は大手ビール会社の新作ノンアル系ビールです(強引)

BEERY / アサヒビール

アサヒビールが新たに発売したAlc.0.5%「微アルコール」ビールテイスト飲料。まずは先日 3/30 に関東甲信越で先行発売され、全国発売は今年の 6/29 からのようだ。ビールではない、かといってノンアルでもない新たなジャンルとしての「微アル」。既に私の近隣ではスーパー、コンビニ等で広く見かけるようになっていて、普及への本気度が伺える。

「微アル」提供の背景にはアサヒの提唱する「スマートドリンキング」概念があるようだ。詳細は同社の紹介ページに詳しいが、概要は以下。

「スマートドリンキング」とは、お酒を飲む人・飲まない人、飲める人・飲めない人、飲みたい時・飲めない時、あえて飲まない時など、さまざまな人々の状況や場面における“飲み方”の選択肢を拡大し、多様性を受容できる社会を実現するために商品やサービスの開発、環境づくりを推進していくことです。

具体的には、同社はアルコールのグラム総量表示に着手しており、さらにはビール系およびRTDにおける販売合計におけるAlc.3.5%以下商品(ノンアルを含む)の割合を、今後2025年までに20%とすることを目指している。

ソーバーキュリアス等の外来コンセプトが定着しつつある中で、敢えて類似する個社独自の造語ワードを提唱し始めるのは、飲料業界に限らない本邦の大手企業の悪癖かもしれない(モビリティカンパニーとか)...が、自分としては上記の取組みは応援したいものだと感じる。

第一に、いままで見えにくかった売り手による適正飲酒実現への働きかけが、商品や各種ビジネスとして具体化すること。第二に、飲酒が喫煙その他のように世間一般から敵視され始める前段階での「先手」的施策になっていること。酒類文化の持続可能性という点において、むしろ酒好きからも評価される動きではないかと思う。

ともあれ、そのような中で、いわば今後展開されるスマートドリンキング商品の切込み隊長的に登場したのが「ビアリー」というわけだ。

実飲した感想だが、確かに広告に偽りなく、大手ノンアル系特有の軽さは抑制され、特に最初の何口かは飲み応えをしっかりと感じる。口に含むと先ず爽やかなホップ感、続いてじんわりと麦の風味が浮き上がり、だんだん飲み進めるにつれて甘味が前面に出てくる。飲み進めるに連れて喉ごしは段々軽さが増してくるが、嫌な感じはしない。ライトだが繊細で、刻々と表情を変える複雑な味わいというのが、全般的な印象か。

製法に関して述べると、これまで日系大手のノンアルコールビールの殆どがビールとしての発酵工程を経ないか極弱い発酵で製造されているのに対して、ビアリーは一度ビールとして発酵を含む製造工程を経てからアルコールを除く方式をとっている。これはヴェリタスブロイ等、評判高い欧州のノンアルコールビールと同様の方式だ。そのあたりが、上述のしっかりした美味しさを裏打ちしてるのだろう。出荷時にAlc.1%以下のため酒税の課税対象にならないそうです。

どうしてもアサヒビールといえば超主力銘柄・スーパードライのイメージがあるが、ビアリーが攻めている方向性は違うところにあると思える。味について言えば、むしろ敢えて無理やり近いビールを挙げるなら「一番搾り」っぽさを感じた。パッケージや名称にスーパードライを感じさせないのも、同ブランドにスマートドリンキングの定番として独立した地位を確立させるための判断かもしれない。

個人的には、スーパードライといえば居酒屋以外だとスポーツ観戦やBBQでの飲用にうってつけのイメージがある。もっと言うと、国内シェアトップということもあって社会・文化のメインストリームを体現した銘柄、乱暴な表現ならば「陽キャ」的世界観のビールだと思っている。事実、上述のシチュエーションで飲むと大変美味しい(クラフトビールファンには悪の大手ビール帝国の体現のように毛嫌いする人もいるが、私は同意しない)。

一方でビアリーの印象はもっと「文化系」だ。上述のとおり味は繊細かつ複雑。そこには「ビールではないがビールを目指す」背伸び感もなく、ビアリーそのものとして完結して楽しむことができる。当然アルコールの低さもあいまって、飲むシチュエーションは従来以上に自由になるだろう。広告でも女優でゲーマーの本田翼やミュージシャンのハマオカモトを起用し、映画やファッションと合わせるシチュエーションを提起する等、世代の若さ、文化志向が目立つ。社会全体が旧弊からの脱皮を真剣に考えねばならなくなった今こういう商品が出てきたのは、単なるマーケティング屋さん的流行の「多様性推し」には収まらない、本質的な部分での意義を感じる。勝手に。

いや、おそらくそういう「陽キャ」「文化系」のとっても雑な括り方すら、スマートドリンキングな世代には敬遠されるものだろう。いずれにしろ飲んで、酔って、時には騒ぐ...以外のビールの在り方が、クラフトとはまた違う切り口で大手から提示されている、と思えた一本だった。今までの大手ビールがそうではなかった、ということではないが、改めてコンセプチュアルな次元のメッセージとして力強く提示されていると思う。予想だが、こういうローアルコール / ノンアルコールでは酩酊や大量消費よりも「味」そのものが前景化されていく以上、今後ビアリーのバリエーションとして「ホッピーなビアリー」「モルトが香ばしいビアリー」「ベルジャン酵母クセ強ビアリー」なんかも続々登場し得るんじゃないか(願望)。プイプイモルカーならぬ多種多様なグビグビビアリーが店頭に並ぶのを待っている。また飲みます。

あんまり関係ない話。

日米会談ではハンバーガーが出たらしい。前任大統領は執務室に「コーラを持ってこさせるボタン」があったそうだが、今回、一緒に供された飲み物は何だったのだろう。

本場の米式IPAだったらば、某首相の会見での弁舌だって、多少なりとも滑らかだったかもしれない。

以上


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