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クラフトビールを飲みに行こう③ #魚金醸造

有名海鮮居酒屋「魚金」が、自家醸造クラフトビールを提供するブルーパブ居酒屋業態をオープン!...なんてニュースから早2年、ようやく訪れることができました、という話。

どうやら新橋あたりに、魚金なる海鮮居酒屋があるらしい。決して格安ではないがコスパが非常に良くて、こないだ一個上の先輩が営業部の人に連れていってもらったらしい...

いまから10年近く前の新入社員時代、自分が魚金の名前に始めて触れた頃の認識は、そんな感じだった。ホームページによると開業は'95年、自分が名前を知った当時は既に20店舗くらいあり、複数業態でチェーン展開していたようだ。したがって世間的には結構規模のあるチェーンだったはずだが、今のようにベイエリア~23区西部の主要駅で簡単に見つけられるほどの存在感はなかったように思う。知る人ぞ知る存在から、大衆的な知名度に移行していた最中だったのかもしれない。いや、あるいは単に貧乏学生時代(バイトをロクにしなかったせいだ)、自分に縁がなかったせいかもしれない。

新鮮な海鮮料理を、豪華な盛り付けでリーズナブルに、量もしっかり食べられる...というのが同系列の特色。自分も社会人になってからは時折お世話になっていて、特に、定期的に開いている会社の同期数名での飲み会は、たいてい一次会か二次会を魚金系列で過ごす慣例だ。多分、誰かが不運にして痛風でも発症するまでは、毎回その流れになるだろう。名物の豪勢な刺盛りは勿論、クリームコロッケ等の揚げ物も美味しく、自分としてはビールに合って嬉しい。接客も良いし、以前は取りづらかった予約も店舗の拡大と共に緩和された。これからもお世話になります。

そんな魚金が自家醸造ビールを提供する「魚金醸造」をオープンしたのは '19年6月(自家製ビール提供開始は7月)。場所はなんと渋谷の京王井の頭線近く、渋谷マークシティの施設内だ。ビル施設内に設けられたクラフトビール醸造所は、西新宿野村ビル地下の「ビール工房 新宿」等都内にも複数あり、比較的限られたスペースでも醸造できるビールというお酒ならではの可能性といえる。また、神田スクエアには系列の「魚金醸造スタンド」が営業中のようだ。ビルのビール。

渋谷店のオープン時にニュースを聞いて、関心を持った記憶はある。しかし残念ながら '19年、そして何かとバタバタした '20年は伺うことができなかった。今回、とうとう訪問のタイミングが掴めたのは、前述の同期会がきっかけで、しかも発端は自分ではなく別のメンバーの希望だ。寮住まいの頃はクラフトビールに見向きもしなかった同期が、同店に行きたい旨を言い出した。このこと自体、クラフトビール・ムーヴメントの定着を感じて少し嬉しかったりする。(と言いつつ、その案が出る前の当初、自分は最近できたミヤ●タパークの方に行きたがってました。なんかすいません)

かくて、漸くにして訪れることができた魚金醸造。マークシティ1階の脇、セブンイレブンや焼き鳥店があり、もうちょっと奥にいくと何だか非日常感のある通り(つまりクラフトビール的には、ホフゴブリンや Abot Choice のある通り)の途中から、専用階段を登って店内に入る。そう、専用階段。建物の構造上の問題かとは思うが、否応にもテンションが上がるものだ。

店内は渋谷の居酒屋らしく広めのスペースをとっており、ウッディで明るい色調。コロナ対策もあってか、席数の間隔から更に広々と感じる。普通との大きな違いは、入って右手、ガラス越しに見える醸造スペースだ。数基のタンクとケグが並んでおり、訪れたときも若いスタッフの方が作業をされていた。ビアカウンター、コンクリート調の壁に並んだタップは8本。その前にいる店員さんはデニム地のエプロンをつけていて、クラフト醸造所の感を醸し出している。オープンは11:30。ランチ利用は勿論、昼から酒を飲める日には最高だ。


Ran & Ran (ヘイジーペールエール)

魚金醸造最初のオリジナルビール。Hazy IPAではなくHazy Pale Ale. シルキーな黄金色が眩しい。

ホップの南国フルーツっぽさをしっかり感じられる一本。甘味、アルコール感は抑制的なレベルで、炭酸は軽い。Hazy らしく苦味も穏やかだが、ボディ全体が軽めなので相対的な存在感は明確。ホップ感を楽しみながらスムースに飲み進めることができ、フレッシュさが魅力であり生命線という感じのビールで、自家醸造での提供にうってつけの設計になっていると感じる。

嬉しいのは飲み疲れのしなさだ。海鮮を中心に楽しむ同店では、ビールと料理のペアリングも大きな魅力。ビアバーの場合、自分は往々にして軽いビール、色の淡いビールから順番に、徐々にボディが強く濃厚なビールを飲んでいく。しかし海鮮居酒屋のフードはそうはいかない。濃厚でボリュームのある煮付けを食べたあとに、茶碗蒸しなんかをサッと楽しむこともあるだろう。そういうときに、この軽快ながら軽薄ではない選択肢があるのは、非常にナイスだと思う。実際、今回も最初の一杯だけでなく、追加のメニューに合わせて「戻ってきて」再飲することができた。

ところで、Ran and Ran ってどういう意味なんだろう。


覚醒(ダブルアイピーエー)

鮮やかな赤銅色が美しいW-IPA.

Alc.7.5% だが決してヘヴィすぎない。アロマの方向は柑橘っぽい。風味もホップの個性が強めに出つつも、カラメルモルトっぽい香ばしさを伴う甘みが、味覚を楽しませる。「ホップもモルトも」という個性のビールは印象がボヤけるパターンがあるが、このビールの味の輪郭がはっきりしている。醸造所付設の鮮度ゆえだろうか。

度数に比して飲み口はむしろマイルド寄りで、あくまで全体にバランスは美しく仕上がっている。魚主体の料理とのペアリングはW-IPAでも考慮されていると感じた。

同店ではベーシックなIPAとして、「麦雨」レッドIPAもラインナップしている。覚醒・麦雨の2種類を比べてみるのも中々乙だ。麦雨のほうが全体のバランスからモルトの香味がより印象強く、覚醒のほうがホッピーな印象を受けた。悩ましいところがあるとすれば、ちょっとづつ比べてみるのも良いが、両スタイルともレギュラーサイズでゴクゴクいくのが楽しい、という点だろう。

再三触れているが、この店の大きな魅力は、他の魚金店舗と同様、市場直送の新鮮な海鮮料理をクラフトビールと一緒に楽しめること。魚金といえばプレモルのイメージがあったが、名物・刺盛りをヴァイツェンやIPAと一緒に試せるのは正に麦酒の黄金体験だ。皆さんも食べログや各種レポで、同店の豪華なフードメニューの写真をみてほしい(つまり、この記事用にはフードのメニューを撮り損ねたということだ...同期会の楽しさにかまけて、つい)。

クラフトビール界はその出自からして「クラフトビールの定義」には敏感だ。Twitterを眺めていても、時折「クラフトビール置いてます、と書いてある店に入ったらタッ●マルシェだった」という旨の書き込みを見かける。個人的には本物のクラフトブルワリーのビールを広範囲に提供する良い施策だと思うが、巨大企業の管理下の販路・統制されたラインナップに、何となく違和感を感じる感覚もわかる。

しかし、もしも逆があるとどうだろう。想像してほしい。「お馴染みの海鮮居酒屋を見かけて入ったら、クラフトブルワリーだった」。滅茶苦茶、夢のある話ではないか。ある意味それが実現しているのが魚金醸造だ。吟味して一杯を味わうのも良し、旨い飯・旨いビールといった具合で好き勝手なペースで楽しむのも、ビールの本義という感じで素敵に思う。明日からは感染対策措置として再度の時短要請が始まるが、それぞれが楽しめるタイミングで、未体験の方は是非行ってみてほしい。マンボウって、食べられるのだろうか。

ここに書いても仕方ないが、来店機会を与えてくれた会社の同期には感謝したい。また行こう。痛風、なるなよ。

あんまり関係ない話。

スーパードライの「生ジョッキ缶」が大ヒット。自分も飲みました。これ、缶のコストが普通のと大差なくなれば、他の大手、更にはクラフトビール会社も同様の形態で出すんだろうか...。

美味しく楽しく飲める工夫が重なっていくのは素晴らしいこと。ただし、缶からグラスに注いで色味と泡立ちを楽しむ、これもまた素晴らしいことで、失ってはならないビールの楽しみ方。TPOに合わせた提供形態を楽しめる令和の酒飲みは、ある意味ラッキーなのかも。

ともあれ来年の今頃は、ジョッキ缶片手に花見ができていることを願います。

以上

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