郷愁の中の父
ふとした時に、
脳みその三層外側くらいのところに
薄いレースのカーテンが靡いて触れるような感覚で
浮かぶ映像がある。
私はまだ7.8歳くらいで
草原の中に、古い本がいっぱいある
図書室のような小屋があって
その建物の近くで
みんなに比べたらだいぶ年をとったお父さんと
自然観察しているシーンだ。
お父さんは穏やかで物静かで
ニコニコしていて
質問したことには全部答えてくれる。
その映像が頭によぎる度に
幸せとか嬉しいとか
そういう気持ちじゃなくって
「満足感」と「知的好奇心」と「安定」
みたいなものも一緒に脳みその外側に感じる。
実際にそれを体験しているわけでも
体験したことがあるわけでもないけど
知っている気がする、という感じだ。
ちなみに実際の私の父は
全然そんな感じじゃない。
ほとんど子供で、穏やかでも物静かでもない。
物知りではあるけれど。
だからあの思い出の中のお父さんは
実際には存在しない。
本のワンシーンかもしれないし
映画で見たのかもしれないし
ただの憧れかもしれない。
そのシーンが脳裏に霞むと、
本当に望んでいるものにこの手で触れられそうな、
初心を思い出すような、
そんな不思議な感じがする。