仕事に誇りを持てるとき
ふと思いだしたのでキーボードを叩いています。
僕の息子が小さい頃、3~4歳ぐらいだったのかなぁ…
はたらく車が大好きだったんです。
ね、男の子ってそうじゃん!
「はたらくくるま」大好きな時期ってありますよね。
ゴミ収集車、ブルドーザー、クレーン車、ユンボ、パトカー、消防車・・・
家の前をパトカーが走ったとき、息子は
「あー!パトカー!」
と興奮して大絶叫し、通り過ぎたパトカーが急停止し、おまわりさんが血相変えて駆け下りてきて
「なんかありましたか?大丈夫ですか?」
「いえ、ただのパトカー好きなだけです」
という一幕もありました。
そんな中、ある日バキュームカーが我が家にやってきたんです。
そう、排泄物汲み取りカーです。
そりゃもう息子は大興奮!
「ばきゅーむかー!」
と絶叫して飛び出していきました。
もう興味津々でバキュームカーを眺めています。
なのでバキュームカーの強面のおっちゃんに言いました。
「息子とバキュームカーとおっちゃんいれて写真撮っても構わんですか?」
その時のバキュームカーのおっちゃんの顔
なんとも柔和なうれしそうな顔
「おっちゃん、もうひとつお願いがあんねんけど…」
「バキュームカーの運転席に息子座らせてやってもええかな?」
「おーおー、ほらかまわんよ」
おっちゃんはそう言って、その後なんと息子を助手席に乗せて、近所を一周してきてくれたんです。
息子のテンションはMAX絶頂だったのは言うまでもありません。
子どもの喜ぶ顔が見えるほど親にとって幸せな瞬間はないものです。
数日後、またバキュームカーがやってきました。
ピンポーン
玄関にはおっちゃんが立っていました。
おっちゃんの手には、箱詰めのシュークリームが。
「これ、食べて」
不器用なおっちゃんはうまく伝えられないのだけれど、バキュームカーにこんなに喜んでくれたのがよっぽどうれしかったんだろうなぁ…というのが分かりました。
それからというもの、僕の家に汲み取りに来るたびに、息子におもちゃを買ってきてくれたり、ケーキやお菓子などのおみやげを持ってきてくれるんです。
町でバキュームカーがすれ違うと、運転席から笑顔で手を振ってくれるんです。
見ず知らずだったおっちゃん…
おっちゃんはおそらく今まで、自分の仕事に誇りが持てなかったんだと思うんです。
汚物を処理して汚いものを扱ってるってだけで、人は寄り付かなかった。
もちろん誰も悪気はないでしょう。
でも、無意識にバキュームカーの運転手と敢えてかかわりを持とうとするのは避けているかもしれません。臭いかも、汚いかも…
いや、そう思っているのはおっちゃんの方で、誰も「わしなんかと関わりたくないだろうな」という猜疑心で、自己肯定感が下がっていたんだろうと想像します。
そんな時、バキュームカー大好きで、写真撮ってくれだの運転席に座らせろだの、人生初の大歓迎を受けたもんですから、おっちゃんも初めて「認められた感」が持てて、とてつもなくうれしくて、仕方なかったんでしょうね。
だって、あの強面の不愛想なオヤジの顔が、息子の顔を見た時にとてつもなく優しい顔に変わった瞬間の映像が僕にはまだ忘れられないんですもの。