やきいも
お題「焼き芋」
それはもう冬も近い、秋の終わりのある日の出来事。
私は近くの公園で、落ち葉を踏み歩いていた。散歩中。辺りの人影はまばらな、午後4時である。
視界の端にちろちろとオレンジ色が舞い、私はそちらを見た。落ち葉?いや、炎である。
まるで烏の如き黒のコートを羽織った、背の高い男がたき火をしていた。落ち葉の山の中に、アルミホイルが見える。どうやら焼き芋らしい。
「焼き芋ですか。」
と、私は彼に訊いた。
「まあな。」
彼はしゃがれた声で、ぶっきらぼうに答えた。
私は彼の隣に腰を下ろした。彼の横顔を見る。歳は30~40歳ぐらいだろうか。肌は若干黒っぽく、鼻はやや高めだ。無表情。このあたりでは見かけない顔だ。
炎は赤々と燃え続けている。落ち葉の色の混ざりあっている。赤とオレンジ。頭上の、沈みそうな太陽と同じ色…。
「そろそろか。」
わたしは、彼の一声で睡魔のいざないから逃れた。彼は軍手をした手でアルミホイルのかたまりを一つつかみ取り、半分に割った。
「あんたも一つどうだ。」
「ありがとう。」
差し出された片割れの断面は、おいしそうな緑色にー
ー緑色?
先ほどまで芋に見えていた、緑のかたまりは、彼の手の中で少し蠢いた。芋虫だ。20㎝ほどの大きさの、半分になった焼き芋虫。
私は悲鳴を上げた。
気付くと、男もたき火も芋虫もどこにもおらず、
目の前で烏が、ケェ、と一声、しゃがれた声で喚きながらばさばさと飛んでいった。
あとがき
2010年、人生で最初に書いた小説です。正直見せられるような出来栄えではないのですが、初心忘れんために置いておきます。
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