馬駆ける。
馬が好きである。
悠然と立つその姿。
さっそうと走るその躍動感。
そしていつも何かを見越したように見えるその眼。
馬を見かけたとき、その時々の感情で見え方も変わってくる。
悲しいことがあったときは表情が寂しそうに映り、幸せなことや楽しいことがあったときには優しく微笑んでくれているように映る。
ほんの少しだけ、乗馬クラブに通っていた頃がある。もう何年も前のことだ。
馬具をレンタルし、ヘルメットは自前のものを用意していた。
駅からバスで15分。
乗馬クラブの入り口横のバス停を降り、古い木のアーチをくぐると、柵の中に乗馬が人を載せて旋回している姿が見て取れた。
近くにはポニーの柵もある。
眩い朝の陽射しから見るあの光景がなんとも好きだった。
厩舎にはいつも担当のトレーナーさんが丁寧にこれから乗る馬の手入れをしていて、
日向に当たっていた馬たちこれから人を乗せる仕事をするとは思えないほど気持ちよさそうにしていた。
毎日蹄や馬装を確認し、
ブラッシングして毛並みを整える。
そして、いざ乗馬。
トレーナーから教えてもらった乗馬のコツを、熱心に実践していたのを思い出す。基本は焦らず、常に会話をするように呼吸を合わせること。
馬はとても繊細で頭のいい生き物で、乗り役がマイナスな感情を出すと馬もすぐに汲み取って足並みも元気がなくなる。
逆にいい気分だと常歩(なみあし)の歩様も跳ねるようになる。
常に声を出して明るくコミュニケーションを取っていた。日常生活では滅多に出さないハキハキした声で。
事情があり通うのを止めてしまったが、今も競馬中継や牧場で馬を見るとつい手を止めて見入ってしまう。
そろそろ馬が恋しい気分になっている。
来年には北海道と九州の牧場を、時間を忘れて悠々自適に巡ってみたい。
遥々出向いた先に、いつもと変わらず悠然と駆けていることだろう。