連作20句「原級留置」
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/89743971/picture_pc_1ddc503b6d01eda81e3d0d28b814fd64.png?width=1200)
恋猫もゐたね立体駐車場
春の野や銅のコツプに水を汲み
黒パンを引き切るナイフ春の土
秒針が狂ふごとくに椿落つ
エヂプトに死して蛙の目のくろぐろ
行く春の片手に鍵を返しけり
天球の半分夏蜜柑かるし
五月雨やコンクリートのうへに夜
明易や祈りのうちにパンを焼く
毎朝を水打つて仮死したるなり
ハンカチを振つて少年夏とする
啄木鳥やピツチカートと綴るやう
鈴虫のいつぴきに声ひとつとは
朝顔のしをるる空の青きかな
葡萄ひとつぶ抓むにキスのごとくする
秋寒や吐物の乾きゆくマスク
すれ違ふ葱と林檎を両の手に
コンビニのおでんよ遮断機が開くよ
法螺貝の音です冬のオリオンです
学校をやめて蜜柑が甘くつて
第14回石田波郷新人賞・落選作です。