連作20句「原級留置」

 恋猫もゐたね立体駐車場
 春の野や銅のコツプに水を汲み
 黒パンを引き切るナイフ春の土
 秒針が狂ふごとくに椿落つ
 エヂプトに死して蛙の目のくろぐろ
 行く春の片手に鍵を返しけり
 天球の半分夏蜜柑かるし
 五月雨やコンクリートのうへに夜
 明易や祈りのうちにパンを焼く
 毎朝を水打つて仮死したるなり
 ハンカチを振つて少年夏とする
 啄木鳥やピツチカートと綴るやう
 鈴虫のいつぴきに声ひとつとは
 朝顔のしをるる空の青きかな
 葡萄ひとつぶ抓むにキスのごとくする
 秋寒や吐物の乾きゆくマスク
 すれ違ふ葱と林檎を両の手に
 コンビニのおでんよ遮断機が開くよ
 法螺貝の音です冬のオリオンです
 学校をやめて蜜柑が甘くつて

第14回石田波郷新人賞・落選作です。

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