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エッセイ「カンレイジェンシェン」

関東地方は朝から雨、夕方になって雲のすき間に青空が見えてきました。長男に、「夜まで雨かなあ」と聞かれたので、「降ると思うよ」と答えたのですが見事に予想を外しました。(2024/10/09)
東京で気温が下がったのは秋雨前線の寒冷側に位置しているからです。前線とは暖かい大気と冷たい大気の境目を言います。英語では”a front”で、気象用語であると同時に「ふたつの勢力がせめぎ合う最前列の陣地」を指す軍事用語ですが、その点は日本語と同じです。

表題は昭和の終わり頃、「お天気おじさん」として人気のあった気象解説者・福井敏夫さんの独特な言い回しフレーズから。福井さんの使う阿波弁、つまり徳島言葉では「サ行」が「シャ行」になるため、「寒冷前線が……」という解説が「カンレイジェンシェンが……」となるそうです。独特の発音イントネーションとやや上ずった発声と合わせて面白く感じられ、全国区で人気がありました。
気象予報士の資格が制定される以前にご活躍されていた方なので、同資格は持っていなかったそうです。それでも当時は視聴者が「お天気おじさん」の真似をすることによって気象用語に触れる機会が増え、お天気に関する知識も深まったと思います。

現代において気象予報士の資格を取るのは難しく、合格率は5パーセント程度ということです。難関試験のひとつに違いありません。気象予報士はエリートなのですね。
一方で気象予報に関しては、平成初年と比べて人工衛星や自動観測点から送られてくる気象データやAIによる解析・各種天気図の作成など環境は格段に整い、経験や勘に頼る部分も減ってきているように思います。予報の精度は上がり、変化予測の時間枠は短く(細かく)なっています。

でも福井さんがいた頃と比べて、気象予報は身近になったでしょうか。

ベテランから若手、美男美女の気象予報士が数多くいても、人気や著名性で福井さんを超える方がいらっしゃるとは思えません。公共放送に動画配信、SNSと活躍の場があり、気象予報を目にする機会は増えたものの、発信力そのものは「お天気おじさん」より劣る気がします。

このところ「昭和ブーム」だそうですが、ほんとうに昭和レトロが流行っているのでしょうか? テレビジョンを主に視聴している私たち世代の懐古趣味を煽って視聴率すうじを取ろうという、広告代理店やテレビ屋のたくらみかも知れません。公共放送は自分の見たいものだけを選べるYouTubeなどと違い「押し付け型」なので若い世代には人気がないと聞きますが、それもどこまで信じていいのやら。
懐かしいテレビ番組やレトロな事物が人気ならば、令和の世でも「押し付け型」のコンテンツが通用するのではないかと思えるのです。対象の人や物に魅力があるのならば。
突き詰めると、発信者の能力が最も大事ということになります。創作を趣味とする私は、刻苦勉励せよ、と自らに言い聞かせないといけないのですが、それがなかなかむずかしい。

寒冷前線に伴う寒気の影響で、今日の東京は11月半ばの陽気だったとか。お天気おじさんだったら、どんな風に表現していたのだろう、などと思いを馳せておりました。

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