2019年あの頃「韓国映画概論」
人生の中で、「好きな映画なに?」と聞かれて困ることは多い。私は、この手の「好きな○○はなに?」系の質問が来ると心の中をキョロキョロとするのみで、うまく答えられた試しがない。しかし、私は映画に関してだけは「聞かれたらとりあえずこれを答えよう」を決めている。
その映画とは、韓国映画の『サニー 永遠の仲間たち』(原題:『써니』)という映画だ。この映画と出会ったのは、確か2019年のことだった。その年の夏、私は韓国に1か月程度の短期留学(サマースクールみたいなやつ)に行くことになっていた。正直に話せば、その時TWICEにハマっていたという理由でほぼ行くことを決めたため、韓国語は話せないし、韓国の文化もろくに知らなかった。そこで私は、韓国について学ぶため、一緒に韓国へ留学する学生を誘って、韓国映画を観る会、題して「韓国映画概論」を催すことに決めたのだった。幸い、学内には複数人で映画を観ることのできるスペースがあったので、そこを借りて毎週水曜日に1本ずつ映画を観ることにした。
私は、LINEグループで「韓国映画概論」の開催と概要を伝え、一緒に観てくれる人を募った。それと同時に、韓国映画を紹介するサイトなどを色々と巡り、どの映画がこの「韓国映画概論」に適任かを熟慮した。
結局開催されたのは全5回。私は結構楽しみにしていたのだが、結論を言えば、全5回中映画を観に来てくれる人は誰1人としていなかった。すなわち、私は1人で空いている時間にただ映画を観ただけだった。悲しい。
しかし、もちろん映画を観たことは無駄ではなかった。映画を通じて韓国の社会や文化を知ることができたし、その入り口に歩き出すことができた。
誰も来てくれなかったので、これから韓国映画を観ようという人には参考にならないかもしれないが、「韓国映画概論」で観た映画を紹介しておこう。
下手くそなので紹介は手短にする。もし、観た方がいれば感想を教えてほしい。
~韓国映画概論~
第1回 『ビューティー・インサイド』(原題:뷰티 인사이드)
間違いなく第1回にふさわしい、とても話に入りこみやすい映画だった。主演のハン・ヒョジュさんがとにかく綺麗で可愛い。テレビドラマ『トンイ』にも主演で出演されていたので、もしかしたら顔を観たことのある人がいるかもしれない。韓国の有名な俳優さんがたくさん出演していて見ていて楽しい。日本からはなぜか知らないが上野樹里さんもご出演されている。映画冒頭に、主人公の使うたくさんのアクセサリーや眼鏡、靴や洋服が映されるシーンがあるのだが、このシーンが私はひどく好きだ。私が眼鏡をいくつも揃えたくなってしまうのは、このシーンに明らかに影響を受けている。
第2回 『息もできない』(原題:똥파리)
誰か来ていたら危なかったかもしれない、と感じたのを思い出した。関係性のあまりない人と「韓国映画概論」として観るにはふさわしくない映画だったかもしれない。でも、それはあくまでその場合の話。結局1人で観たので関係はない。観たあと、もの凄いものを観たと感じた。考えれば、韓国の「罵倒語」を初めて多量に浴びたのはこの映画が初めてで、その後ことあるごとに真似したくなったものだった。監督も脚本も制作も、そして主演までもがヤン・イクチュン。『あゝ、荒野』という日本の映画に菅田将暉さんと出ていたので、それで知っている人もいるかもしれない。
第3回 『トンマッコルへようこそ』(原題:웰컴 투 동막골)
公式的なYouTubeの予告動画がないのでhuluの紹介ページを載せておく。
この頃には、もう薄々だれも来ないということがわかり始めていた。原題の「웰컴 투」というハングルの連なりは、カタカナで「ウェルカム トゥ」と書いているように、英語の「Welcome to」と書いてある。「トンマッコル」とは予告にもある通り、「子供のように、純粋な村」という意味だそうだ。「あまりに楽観的な設定すぎる」や「親北反米」と批判が多いそうだが、思い出せる限りでは、(戦争のシーン以外)私はずっと平和な気持ちで鑑賞していたような気がする。リング状のものを見つけては、天真爛漫なヨイルの「가락지!(カラッチ!:指輪!)」を1人でふざけて真似していたのを思い出した。音楽はジブリ映画でよく知られている久石譲さんが手がけている。
第4回 『殺人の追憶』(原題:살인의 추억)
こちらも公式から出る予告動画がYouTube上になかったので、Apple TVの紹介ページで失礼させていただく。ここまで書いてきて、「韓国映画概論」は全4回で『殺人の追憶』はどこか別の場所で観たかもなという気がしてきたが、記憶が定かではない。「韓国映画概論」で観たという事にして話を進めさせてもらおう。主演は、日本でも大ヒットを記録した『パラサイト』にも出演しているソン・ガンホさんで、監督も同映画と同じくポン・ジュノ監督である。実際に起きた華城連続殺人事件をモデルにしており、犯行のシーンは恐怖を感じるとともに胸糞だ。年齢制限がついてしかるべき映画なのだが、(映画として)ものすごく面白いのでぜひ観てもらいたい。
第5回 『サニー 永遠の仲間たち』(原題:써니)
前置きが長くなってしまったが、私の一番好きな映画の登場だ。
聞かれたら「とりあえず」という風に書いてはいるが、もう何度も観たし、ものすごく好きな映画だ。しかし、なんで好きか聞かれるとわからない。理由はいくつかあるが、なんだか好きという感じがする。そして、気の落ちたときや元気になりたい時には、この映画を観ることにしている。それもなんでだかはわからない。とにかく私にとってはとても良い映画だ。
映画のストーリーを超簡単にいえば、「ずっと会ってなかった昔の友達と再会していく」というような感じだ。話は現在と主人公の高校生時代を交差しながら進んでいく。主人公イム・ナミを演じるのはユ・ホジョンさん。高校生時代のナミを演じるのは、日本のドラマや映画でも多く活躍されているシム・ウンギョンさん。本当にこの映画での演技は素晴らしかったと思う。
そして、Boney M.の「Sunny」やRichard Sandersonの「Reality」など主人公たちが高校生だった頃の、70年代~80年代の洋楽が物語を彩る。予告の冒頭にも使われている、Tuck & Pattiの歌う「Time After Time 」も最高だ。毎回この映画が始まるぞという感じがする。
「Reality」は映画「La boum」の主題歌として知られており、TWICEが好きな人は「What is Love」でミナがヘッドホンをかけられるシーンの元ネタとして、同映画の事を知っているかもしれない。『サニー 永遠の仲間たち』の作中においても同シーンがパロディとして登場する。
「韓国映画概論」的な見どころで言えば、フィクションではあるが韓国の高校生たちの学校生活や当時の社会の価値観を作品を通して知ることができる。また、主人公たちと敵対グループが「決闘」している最中、同じ場所で学生と機動隊が衝突しているシーンがあるなど、コミカルな描かれ方ではあるが、韓国現代史を知るとっかかりができる。
なぜ私がこの映画が好きなのか、あえて言葉にしてみようとすれば、1つは「主体」の復活というのがあると思う。妻として、母として、それが嫌なわけではないが、どこか縛られている気もすると感じていたナミが、友達との再会をきっかけに、従属的な立場ではない形で自分の人生を自由につかう。その様子がきっと好きなのだと思う。でも、そんなだけではない。言葉にするのは野暮で、時には言葉にできない感情が、この映画を通して湧き出てくる。そして、私はいつも同じところで決まって泣いてしまう。
現在の主人公がJKをボコボコにするというさすがにやりすぎなシーンはあるが、誰と観ても楽しめる映画だと思う。日本でのリメイク版もあるが、なんだかそれは怖くて観れていない。観た人がいたら面白かったか教えてほしい。
韓国映画概論を終えて
結局、1人でずっと映画を観ていただけの私だったが、韓国について様々なことを知る事ができた。一緒に留学に行く人にめちゃくちゃ嫌われている説というのが私の中でもちろん立ち上がっていたが、現地ではとても仲良くしてくれて、いくつもの良い思い出ができた。
「韓国映画概論」をおこなった2019年は、もう「あの頃」だ。
私たちはその年、反日感情が近年で最も盛り上がっていたと言っても過言ではない2019年の韓国で1か月を過ごした。その話はまたいつか書きたいと思う。
「好きな映画なに?」に対する回答を用意している人がいたら、ぜひ教えてほしい。ゆっくり聞きたい。