【短編】 眠りながら光る
「ねぇ、ショーウインドーの灯りってなんなの?
夜だーれも通らないのに」
人通りの途絶えた店先、電気が煌々とついてディスプレイを照らしている。
誰のためにこの電気はついているのかな?
「世界中で電気が無い所もたくさんあるんだよ」
なんて話したって、なんの説得力もない。
夜通し電気をつけて、日本中のストリートに佇む自販機。いつか通る誰かのために、通電している淋しんぼうの機械たち。
もし自販機同士、交信ができたら彼らは何を話しているのだろうね?
あったかい飲み物入れた自販機は、
「夜道危ないよ、早くおかえりね」
炭酸ソーダがたくさん並んでる奴は、
「今日の嫌なこともスカッと吹き飛ばしてさ。
すぐに朝がまた来るさ」
なんて話しているのかもねぇ。
月も見えない真っ暗けの夜ってね、本当になんにも見えないだよ、足元さえもね。
それにさ、夜に無性にレモンスカッシュとか、カルピスが飲みたくなる時ってあるよね、ときどきはオニオンスープとかさ。
「でもさ、そんな突拍子もない注文にいつも応える必要ないよ」
「誰も見ないショウウィンドーは消したらいいし、自販機もこんなに並んでなくたっていい」
電気の無駄使いだよね、やっぱり。
何が無駄で、何が必要か一度考えて見ないとね。
灯りって、あって当たり前になったら際限がなくなるのかね。
暗いのは不便だからって、もっともっと明るくして、キラキラ綺麗にって。
でも誰にも見てもらえない灯りは淋しいね。
そんな明かりに惹かれて、寄ってくるモノもあるしね。
「それって、蛾とか虫みたいなの?」
うーん、もっと妖しいものもね。眠っていた方がいいものが近寄ってくることもあるんだよ。
「暗闇の中の明かりって、目立つものね」
そうそう、暗がりの中でスポットライトが当たるとさ、夢を見ちゃうのかもね。
儚くてでも輝いて見えるのね。
それが欲しくなっちゃうんだろうね、人間って。
「足元が見えないほど暗いって怖いね」
そう、どこ歩いてるかも分からなくなるんだよ。
だから灯りは有難いもの。
自分の中に灯りを点せたらいいね。
「自分が光るの、自家発電みたいに?」
フッと視線を感じることあるでしょ?
アレは目から光が出てて、だから人はそれに気がつくんだよ。
あったかいご飯食べた後だったり、胸熱くなるものね、映画とか音楽とか本とか....
そういうものに触れるとね熱量が増すの。
そういう人はさ、暗闇のスポットライトに引き寄せられたりもしないんだよ。
「そんな人ばかりが住む国は、ギラギラ明るいショーウインドーも、淋しんぼうの自販機もいらないのかな」
人の明かりは電線なしでもね、伝染するの。
優しくされたら胸が温かくなるでしょう?
それが溜まっていくと、いつか灯りになるんだよ。
キミ達が住む世界が、今より温かいものになるように。淋しい住人が減りますように。
心の灯りは、目を瞑っても消えないから。
キミを明日に連れてってくれるから。
ゆっくり眠るんだよ。
おやすみ
(1193文字)
微熱さんの記事で知りました。
初挑戦ですが、これが“小説”と呼べるものなのかどうか・・・。
書きながら話が纏まっていきました。
昔、リベリアのミッションからパリに戻って来た時に、夜のショーウインドーの明かりが眩しくて、
夜が明る過ぎて胸がざわつき、怖くなったことがあります。
半年以上、夜はほとんど明かりがない生活をしてきた身には、もったいなくてこの明かりを届けたい...
と切実に思いました。
世界は不平等なんだなぁ....と実感したことです。
エッセイとは全く違う気持ちで書けて、新鮮な喜びがありました。
初の企画参加ですが、とても楽しかったです!
ピリカ様、ありがとうございました。