【超ss】tie.flowerstory-grind
『grind』は日本語で”すり潰す”を意味します。
エノワルトがヨーテと決別し、1人になったあとのお話です。
次第にヨーテとの記憶が消えていきます。
家の中にあるものの中でも特別目立つのは、積まれた本。
誰かが玄関まで持ってきてくれたような気がするが、誰だったか。どんな経緯だったかも彼はもう思い出せなかった。
もう椅子から立ち上がる理由もなく、足にはツル草が絡まっていて、ビクともしなかった。
半分開いた唇の乾きを感じるだけの思考さえも鈍っていた。
視線の先にある腐敗したシナモンロールが、なぜそこにあるのか、それだけが彼に彼女の存在を思い出させる。
思い出せるのは、君の名前でも顔でもない。
思い出せるのは、不思議と...君にしてきた数々の酷いことではなくて、あの雨の日のこと...
診療室から追い出された私にセピア色の傘をさしてくれた君の、影。
僕はもう、君なしでも君を好きでいられるよ。
***
何年ぶりだろう。
床から這い上がってきたツル草が体を覆い尽くして、長い時間が経った。
もう長いこと機能を果たしていない鼓膜と鼻腔に、刺激が伝わった。
神様が、気まぐれに雨を降らせてくれたのだろう。
これは救いでは無い。もう私に救いが来ることは無い。
今になって世界がこんなに優しいと...私は恵まれていたと気づく。
何事も何とかなった。
それは全てヨーテやイヴのおかげで、隣にからなず君がいたからなのだろう。
明日のない世界で、証明してみせる。一生あなたを愛し続けることを。
tie.flowerstory-grind Fin.
ちょっとだけエノワルトとヨーテの出会いに触れつつ、エノワルトの”刑罰”を書かせて頂きました。
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