【超ss】tie.flower story-記憶の中
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今回はエピローグの前のお話です。
「本当に私たち日本に帰るの?」
丘の上。
ジャバラ状に地面から起立する墓石の群れは、葬式の会場にあった巨大なパイプオルガンを彷彿とさせた。
同時に母を思い出して、少し涙ぐむ。
その母の墓前でサンドウィッチを頬張る名古屋。
私は飲み物を飲むフリして涙を拭うが、本当は涙なんて出てなかった。
「イヴのお墓はどうするの?」
数日前に日本へ帰ると言い出した名古屋に、私は問いかけた。
その時は驚いたが、よくかんがえてみると、たしかイヴの葬式でこの国に来てから名古屋は日本に帰っていなかった。
愚痴のひとつも言わなかったが、日本に残した数々のものがあるだろう。
私だって、イヴと2人で暮らした日本の家がある。
「イヴのお墓はここのままで。」
「......」
「ベガちゃんがここに残りたいなら、わたしも残るよ。」と、名古屋はぐずる私をなだめるように背中を支えてくれた。
それは何も今だけでは無い、イヴがいなくなったあの日から、この人はずっと私を支えていた。
「ベガちゃん、この話にお母さんは関係ないんだ。私たち二人がこれからどこで過ごすかって話だ。」
「でも...イヴが」
「イヴはここにいる」と、名古屋は私の頭を小突いた。
記憶の中のイヴが、何だか微笑んだ気がする。
生前イヴは働きながら学業もこなして、実家との因縁もあって。
疲れきった笑顔しかしてなかったのに。
不思議と私の中の母はこんなに心から笑っている。
「ベガがお墓から離れようと、お母さんはどこにも行かないよ。ずっとベガの過去から動かない」
「私たちがどこに行こうと、イヴは変わらず笑ってるよ」
名古屋の中で、イヴとの記憶はいつだって鮮明だ。
母のことを語る時、その空気や音が丸ごと伝わってくる。
彼女の中にイヴはいるのだ。
彼女といれば、イヴのことを本当の意味で失うことは無い気さえしてくる。
きっと私の中にも。新しい表情を見せてくれるくらいには、母がいてくれてるんだろうけど。
それを覚えてるには私は幼すぎる。
風が強く吹き、思わず下を向いた。
それが合図かのように、母の声がした。
「がんばれ、ベガ!」
顔を上げると、いつだって同じ空が丘の向こうまで続いていた。
風はどこに向かうのだろう。
いきたい。
『tie.flowerstory』記憶の中 fin.
ベガの誕生日に捧げます(* 'ᵕ' )☆
2023,6,12
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