やさしいメカ解説・ターボ・ブースト
エンジンのポテンシャルを比較するもっとも容易な尺度が排気量です。4気筒エンジンなら4本のシリンダーが各一回づつ爆発したあとに排気される総量だから排気量。軽なら660cc未満、原付バイクなら50ccに満たないものですが、アメリカ製V型8気筒ともなるとひとつのシリンダーで1リッター近くの大ボリューム。算定方法はシリンダーの半径の二乗×円周率=つまり断面積×クランク軸の上下動=ピストンの移動距離で求められ、カタログにはボア(内径)とストローク(行程)として表記されています。一般的な2リッターの4気筒エンジンだとボア・ストローク86×86ミリといった具合です。
アメ車の7リッターエンジンならエンジンが2回転(一行程)する間に7リッター分の空気を吸い込もうとするわけで毎分6千回転、つまり毎秒百回転の間に最大で50×7リットル=350リットルもの空気をガソリンとともに吸い込もうとするわけです。そのためには当然パワーを食われるし、空気の通り道に抵抗があると空気を吸いにくくなる、望んだパワーが出せない(=回転を上げられない)となるわけです。
エアクリーナーからエンジンに繋がるインテーク=吸入管の中は負圧、つまり圧力が下がった状態になります。だからなるべく抵抗にならないよう吸入管を出来るだけ真っすぐにしたり、職人が手作業で内面をスムースに磨き上げたり(ホンダ・タイプR)もします。レース用エンジンではエア•クリーナーは省略,F1マシンのドライバー後ろ頭上に吸入口を開けているのはあそこが高い圧力で空気を吸い込める場所だからです。
ところでこの吸気管が負圧になることを利用してブレーキペダルの踏力を軽くする仕組みが考案されました。真空倍力装置、マスターバッグという一種の平べったいシリンダーです。ここと吸入管をパイプで結ぶと大きなフライパン型の容器内は圧力が下がり、中にあるピストンを引っ張り込もうとする力が働きます。この方向にブレーキペダルを繋げば、ブレーキを踏む時にヘルプしてくれる(ペダルを裏から引っ張る)力が働きます。エンジンが回っていないと負圧は発生しないのでブレーキペダルは岩のように重くなります。まるでレーシングカー並みです。
ブレーキだけでなく、エンジンの吸気を後押ししてやれば沢山空気が吸い込めるだろう・・・・・過給器というアイデアは早くからありました。古いメルセデスには数字のあとにKの文字が付いている車種があります。コンプレッサーの略です。これがエンジンをいきなり元気にさせるアドレナリンのような存在でした。エンジンの力で回る回転ポンプ=ブロワーという装置で空気を強制的に吸入管に押し込んでやります。すると自力でエンジンが吸うよりも遙かに多くの空気とガソリンをエンジンに送り込むことが出来、数十パーセント出力を向上させることが出来ました。スーパーチャージャーと呼ぶこの機構は近年でも幾つか採用例が見られます。
時代が流れて1970年代のスーパーカー・ブーム、その中の主役の一台がポルシェにターボ・チャージャーを搭載した930ターボでした。70年代はこのターボ過給の黎明期で、サーブやBMWもおとなしい小型のセダンに高出力のターボ・チャージャーを装着し市販化しました。日本では日産セドリック(グロリア)がいち早く、ターボ化。80年代には軽自動車からラリー競技車にまで幅広く浸透することになります。
ターボもやはりコンプレッサーの一種ですが最大10万回転という超高速でタービン羽根を回します。その回転エネルギーを生むのは排気ガスで、排気管に置かれたタービンを排ガスが高速で回し、同軸上の吸気側タービンが空気を取り込みます。この理屈は旅客機のターボジェット・エンジンとも似ています。吸気側と書きましたが二通りの置き場所があって、ガソリンを噴射した後の混合気を加圧するやり方ともう一つが加圧した後の空気にガソリンを噴射する方法。
実は空気をただ圧縮するだけだと断熱変化で温度が上昇してしまい、体積あたりの酸素分子の量が少なくなってしまいます。高校の物理で習う理屈です。まあ、そういうものだと理解してください。圧縮・加圧された空気を何とか冷まして密度を上げ、酸素分子が多く含まれるようにしたい、酸素が増えれば化学反応するガソリンの分子もそれだけ多くなる理屈です。では、どうやって加圧された空気を冷ますのか?
ここでインター・クーラーの出番です。ニューマン・スカイラインことR30系スカイラインに追加されたRSターボにインタークーラー・ターボが追加されて出力が15馬力アップしました。吸い込む空気の体積は同じに見えても含まれる酸素の分子量が増やせたからにほかなりません。当時若者に人気のホンダ・シティターボにもインター・クーラーが追加されてターボⅡとなり10馬力アップを果たしています。
一見すると夢の飛び道具のようなターボ・チャージャーですが10万回転もするタービンを瞬時に加速したり減速したりするのは難しく、その加減は困難を極めました。減速時は速やかに大量の空気を無駄に捨てねばなりません。60年代にレース用エンジン開発が進められる中で若きテスト・ドライバーたちの命を奪った元凶もこのターボだったとされています。高回転では絶大な効果を発揮するものの、低回転ではまるで意気地が無くなった弱虫でしかない、そんな扱いにくさも使い手を選ぶ一因でした。
近頃のターボは高性能ではなく、より高い効率を求めて効き目も弱めにして、扱いやすさを優先したマイルドなターボが主流です。とりわけ欧州車、それも高級車でこの志向は顕著で、2リッター・ターボエンジンが名だたる大型高級車の牽引役だったりします。小さく軽いエンジンで必要なパワーを得られ、熱効率も燃費も排ガス性能も良くなるからというのが採用の理由です。
かつては高性能車の象徴だったターボの意義も時代と共にエコの象徴にと変化してゆくことでしょう・・・・