私をヨンク(4×4)の映画に連れてって
ヨンク(=四輪駆動、4×4,AWD)、という用語は50年前にはまだまだ特殊なカテゴリーに分けられていました、それまでジープなどの軍用や特殊用途のクルマが非舗装路や雪道で使うものと考えられていたものです。
初代レオーネが発売された頃、スバルは前輪駆動の変速機の後ろにプロペラシャフトを伸ばして後輪にも繋ぎ、FF乗用車のレオーネ・バンに四輪駆動車を追加しました。やがて、アウディもクワトロというスポーツ・クーペでオンロード・フルタイム四駆という新しい世界を切り開きます。
一見同じセダン型の四駆に見えますが、中身は大違い。レオーネのプロペラ・シャフトは手動操作で断続できるようになっていて、主に舗装路では前輪だけを駆動します。こうしないとカーブで前後のタイヤに回転半径の差が出来た時、タイヤが滑るか車軸に無理な力が加わり、メカを傷めることにもつながります(タイトコーナーブレーキングという不快な現象が起きます)それまでの大抵の四輪駆動車も同様に手動でプロペラシャフトの断続をコントロールするものが大半でした。操縦性への影響のほか、燃費向上を目論むためです。
アウディ・クワトロは舗装路前提で四輪を駆動するため、前後のドライブ・シャフトそれぞれが差動できるよう第三のデフレンシャル・ギアをもっていました。最初のデフは前後の回転力の分配、そして前輪タイヤの差動と後輪タイヤの差動を操る前後の各自デフ・ギア・・・・・・・・でも、このうち一輪でもぬかるみに嵌まると、そればかりが空転して脱出できません。そこでセンターとリアのデフギアを任意でロックできるスイッチがありました。ぬかるみ以外にも使い道はありますがセンターのデフをロックして前後直結にするとちょうどレオーネの4駆状態と同じになります。アウディもそしてスバルも世界ラリーでは華々しい成績を残す結果となります。
4つのタイヤにデフが3つとは・・・・・・、もっと簡単な方法でセンターデフを代用する方法が考えられました。一種の流体継ぎ手、ビスカス・カプリングという差動装置です。ギアでかみ合っているのではなく多少のすべりには寛容な流体クラッチです。水あめのようなシリコン系のネバネバの液体で満たされており、前後のシャフトで大きな回転差が生じると、ネバネバの硬度が増して速度差をなくそうとする=動力を伝える仕組みです。舗装路ではほとんどFF状態、ぬかるみなどで前輪か後輪が滑り出すと、反対側は最初止まったままで動きません。そうなると前後で回転差が生じ、結果として止まっているシャフトにも動力が伝わる・・・・・これを瞬時に行うわけです。
一番扱いやすく、簡単な方法として各メーカーもこぞって採用し、90年代の日本車カタログには大半の乗用車で4輪駆動が選べるまでになっていました。雪国での生活者には大きな福音で、難儀する上り坂では勿論のことですが、4輪にエンジンブレーキが効く下り坂での安心感が飛躍的に増えるからです。逆に、四駆だからと無謀な運転をする猛者もいて、保険料の高騰を誘発する事態にもなりましたが・・・・・・・(スキーシーズン、上越国境の三国峠国道沿いに見られた転落車両はほとんどが夏タイヤの4×4でした・・・)
センターにもデフを持つフルタイム4WDは、日本でもセリカGT-FOURを始めファミリアフルタイム4WDやスカイラインGT-Rなど続々登場。ホイチョイプロダクション製作の大ヒット映画「私をスキーに連れてって」もGT-FOURの登場が無ければ違った結末になっていたのかも・・・・・。続く「彼女が水着に着替えたら」でも発売前のトヨタ・ハイラックス・サーフ4WDが撮影に使われ、ストーリーを彩っています。