スバル最強・Sの系譜
旧・中島飛行機の血統を受け継ぐ以前の富士重工、現在のスバルですが歴史上のスバル車の中には常にスポーツ血中濃度の高そうなモデルが存在しています。
最初の5ナンバー乗用車、スバル1000にもスポーツを意味するSが追加されました。ツインキャブで武装し、計器盤にはタコメーター追加。そして他に例を見なかったのがラジアル・タイヤの標準装備化でした。当時の国産車は商用車も含めてクロス・プライタイプが標準。タイヤの骨格ともいえる硬い繊維でできた構造材をラジアル(放射状)タイプにして変形が抑えられた結果、接地面が地面に食いつきやすくなります。が、反面乗り心地との両立は難しくなり、サスペンションセッティングもバイアスタイヤとは違ったものになってきます。
まだまだ砂利道や未舗装道路も少なくなかった当時、ラジアル・タイヤに踏み切れないメーカーは、バイアス・タイヤながらホイール径の大きな扁平タイヤを装着する例が多かった時期です。今で言う、45とか55プロフィールほどではありませんが、82とか70でも十分に扁平だったものです。パーセントで表示される数字の分母はタイヤ幅で分子は地面からホイール下端までの地上高、自転車タイヤならほぼ100です。そんな時代にラジアル・タイヤを大衆車で最初に標準装備したのがスバル1000Sでした。こうした付加価値の高いスポーティー・バージョンはブルーバードならSSS、べレットなら1600GTといった具合。当時の軽自動車にもスポーツタイプが大流行し、スバル360にもヤングSSと銘打ったツインキャブの最強版が加えられています。
実質的なスバル1000の後継車、スバル・レオーネは、クーペ・ボディを先行発表するなどイメージ戦略も強化。そして最強版のRXには、当時まだ日本で1例しかなかった4輪ディスクブレーキが奢られていました。当時はスポーティーなフロント・ディスクブレーキ装着車でもリア・ブレーキはドラム式が通例、リアにもディスクを装着するとより強い力で踏みつけなければならないため、ブースター装備は必須。サイドブレーキを掛ける機構も別個に用意しなければならないので、おいそれと手を出すメーカーはありませんでした。
レオーネも二代目となるとターボで武装した他2ドア・ハードトップRXには最強版のオンロード4輪駆動が誕生します。それまでの四駆といったら、未舗装の道をスリップすることなく走り抜けることが主目的。まだセンターデフはもちませんが、舗装路での高速安定性を求めた各社のフルタイム4駆オンロードスポーツに先鞭をつけた恰好です。
レオーネの系譜は平成になるとレガシィやインプレッサに受け継がれ,200馬力を軽く上まわった出力は自主規制という日本独自の枠に縛られる結果にもなりました。RXの名跡はターボ、フルタイム4駆で武装したWRXに引き継がれることになり,WRCのタイトルを連続して獲得するまでに至っています。
スバルの先取り精神はこれに留まらず、レガシィ・ワゴンの最強版=GT-Bにビルシュタイン製ダンパーを標準装備したことでも評判となりました。高価な海外製パーツを限定車ではなくカタログモデルの標準装備に加えるには、発注先にも安定供給を求めることが必要で、このプロセスも当時としては破格の扱いでした。
そもそも、量産車向けに水平対抗エンジンを半世紀以上も作り続けるメーカーはスバルのほかにはポルシェくらいのもの。今や当たり前の自動ブレーキと呼ばれるアイサイトだって、スバルジャスティが初採用した、金属ベルト製CVT(無断階自動変速機)だって、各社に先駆けて先行採用した会社です。コアなファンが多いスバルという企業はいい意味でいろいろと予測を裏切ってくれるメーカーでもあるようです。
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