ラジオの敵はやはりラジオ?政治も利用したラジオのちから
政権が自分たちの都合の良い様にメディアを操作していたのは、 旧くは日本帝国陸・海軍のお家芸でした。戦況を最大限日本に有利なように改ざんして発表し、報道の自由などという文言が出ようはずもありませんでした。
同様に南北軍事境界線のむこう側の国でも自分たちの首領様のことは決して悪く言ったりしません。
民放連の2021年度ラジオ・グランプリ賞受賞作品、文化放送制作の「軍属ラジオ」では、ラジオが戦争中に果たした武器としての側面とプロパガンダについて掘り下げられています。
太平洋戦争中、アメリカはまず短波放送VOA=ヴォイス_オブ_アメリカで日本向けに放送を開始しました。波長の短い短波(SW)放送は電離層で跳ね返り、国境のみならず、海も軽々と越えたので、当時の日本では聴取が禁じられていました。
そこで、サイパン島を手中に収めたアメリカは日本に電波が届くようにサイパン内に放送塔を設け、日本向けに受信機の多い中波(AM)ラジオの放送を始めます。スタッフにはアメリカ側で捕虜になったり収容所に捉われた日本人も加わり、日本で放送が禁止されていた流行歌なども織り交ぜた内容だったとか。
そして、放送には直近の爆撃予定などの軍事機密さえも含まれれたということでした。勿論その放送を聞くのはご法度、でも命に係わる情報なのでこっそり聞いて役立てた日本人がいたことも否めません。大本営の発表するオフィシャルな情報が事実を歪曲したフェイクなニュースであるのに対し、ホワイトラジオと称される、敵側の事実に基づく放送はある意味真実を伝えるメディアだったというのは皮肉です。
これを不都合と考えた日本はどうしたか?敵と同じ周波数の電波を流して混信を起こさせ、相手の放送を聞けなくするジャミングという手法を使いました。昔、夜になると海外の電波で文化放送が聞こえづらくなったのとよく似た現象です。
また、アメリカ兵に向けてプロパガンダ的な放送のレィディオ・トーキョーを送出する軍属ラジオを放送することも考案します。東京ローズと呼ばれた人気DJが敵方でも後年話題となったことで有名です。
さて、現代に戻ってみると世界最大の人口を抱える政権が最も恐れているのは民主化の火が燃え広がる事態です。今ではSNSという強敵がありますが、そもそも放送だけでなくプロバイダーをも政権そのものが支配下に置いているので、プーさんもロクヨンも不都合なワードは片っ端から削除されます。
では、政権の手の及ばない地区ではどうするか?ネットの遮断ではなく人の行動を遮断すればいい訳です・・・・香港に残っていたメディアから自由な物言いを奪うにはどうしたらよいか?
・・・・・・その答えが相次ぐ香港メディアの休止、停止宣言でした。香港の民主派メディアとして知られたネット・サイト=衆新聞がその歴史に自らピリオドを打ちました。
これ以上は記者の安全を保てないから、というのがその理由。やはり民主派メディアとして知られた「立場新聞」も2021年末に関係者が摘発され活動を停止せざるを得ない状況に追い込まれています。
これで香港の民主派メディアは軒並み姿を消すことになってしまい、中央政権の息のかかった情報のみがもたらされる事態となってしまいました。
2月24日に突如始まったウクライナへのロシア侵略、ここでも様々なメディアを通して戦況が伝えられています。お互いに自国に不利な情報は、なかなか陽の目を見ませんが、ネット時代がこれまでと最も違う点は戦火をくぐって果敢に取材を続けるフリーの戦場カメラマンだけでなく、一般市民の誰もが情報の発信源になりうることです。そしてこうした1次情報が編集、検閲されることなく誰もが閲覧できることこそが報道の自由、知ることの権利への回答です。芸能人を取り囲んだレポーターが軽々しく口にする言葉ではありえません。
真実を自由に伝えようとする善意と、それをいかなる手段を用いても公衆の手の及ばぬ闇に葬り去ろうとする意志。赤い国旗の国だけでなく、かつては赤い国旗にハンマーと鎌のシンボルを据えていた国でも今まさに行われている愚行です。
世界のうちで1000000000(10億人)近い人々は,旧ソ連製を改良したT-62タイプ戦車の前に丸腰の一般市民が立ちはだかり、行く手を遮ったあの晩のことを知ろうにも知る手立てを奪われている、と気づくことが出来ません。本当のことを知るのはその国の外の自由な言論空間に出てからでなければ不可能なのです。