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社屋からフィルム現像室が消えた80年代 ENGがTVニュース取材に革命を起こした日のこと

1980年代初めはテレビの世界にも大きな技術革新が起こった。ヴィデオ・テープレコーダーの出現だった。
ラジオ・カセットのようにボタン一つで録画開始、その場で再生・消去迄できるという、フィルムを使わない録画再生装置が出来たのだった。

70年代までは予算のある夜のテレビラマなどの例外を除けば重く大きな1インチ幅のビデオテープを番組取材・収録に使うことなどまずなかった。

高価なビデオ・テープはその都度上書きして利用するために、名作と呼ばれたドラマを別にして最終回くらいしか現存していないのはこれが理由の一つ。大抵のドラマやニュースは16ミリフィルムという、小型のカメラで録音もできる装置で収録されていたのでした。ブラウン管しかなかった70年代だからトリニトロンといえども走査線512本の解像度を満たすには16ミリフィルムで充分、な時代でした。フィルムには録音できる磁性体=サウンド・トラックが流布されていて、音も同時に録音できる。これを現場ではマグネティック、と呼んでいました。撮影が済むと普通なら現像所に送られるわけですが、ニュース映像の場合はそんな悠長なことは言ってられません。そこで古参のTV放送局舎内には自前の現像設備があって、帰社するなり即座に現像開始できたのです。

現像の終わったポジ・フィルムは、即座に編集マン(大抵は放送記者が兼務します)の手に。磁性体に影響を与えない特殊な鋏でカットして、フィルム・セメントと呼ばれる接着剤でつなぎ合わせます。音声やノイズも同時に切り刻まれるわけですが、元々1秒違いで映像とシンクロしているので、つまり音声もほぼ同時に編集できてしまう、という訳です。

その現像室が使命を終えたのは80年代初頭の事。あっという間にENG=エレクトリックニュース・ギャザリング・システムにとってかわられたからです。
これと期を一にして地方都市にUHFという波長の短い電波を使ったテレビ局が相次ぎ開局しています。テレビ〇〇とかU〇〇と銘打った放送局の多くはこうした時期の開局かもしれません。その多くは最初からENG取材が前提で、フィルム取材も現像室も最初から存在しなかったかもしれません。ニュースフィルムの編集経験がある、と豪語できるだけで、もう貴重な(希少な)存在なのかもしれないですね。

取材現場に現れた初期のENGはポルシェが一台買えるくらいの池上通信機製の重たいカメラ(type77)と、ケーブルでつながれたレコーダーをセットで持ち歩く必要がありました。だから人員の少ない放送局では記者兼カメラマンが大きなカメラを肩に乗せ、女性レポーターがかなり重量のあるレコーダーを肩から担いで移動したものです。女子アナの肩には相当な負担・・・・当然撮影時にはレコーダーを置いて収録です。

収録、即再生ができるのでニュース映像の速報性が格段に向上しました。現場で撮ったテープを待機させたバイク急便で局舎に運び、撮って出しのような芸当もフィルム時代には叶わなかったことです。編集作業も簡単。テープを再生時間分だけダビングする手間はかかりますが、これが唯一フィルムを直接刻めるフィルムとの差でしょうか?

やがて家庭用ベータマックスのテープを使う、(フォーマットは別物)ワンボディで肩に担げる一体型カメラが登場して機動性はさらに向上します。それまでは撮像管という大きな真空管で画像を信号化していたものがCCDの撮像素子により、うんと小型化が図れます。ベータ・カムと呼ばれたこの機種はいざという時、街中で売っているベータのテープを使えるので何かと重宝。カメラを担いで駆け足だってやってできない相談ではなく、逃げるように走り去る芸能人をカメラまわしながら追いかけられるようになったのも80年代中頃の事でした。

撮影機材のコストダウンが進むと、小所帯の制作プロダクションがいくつも誕生。撮影から編集、音入れと、番組の素材を放送局の機材に頼ることなく自前で完成できてしまうのでとりわけワイドショーの地方取材ではお世話になったはず。東京からカメラクルーを移動させるよりも、現地にあるプロダクションに撮影を依頼して、撮影済みテープだけを持って帰社すれば、あとは普段通り。こうして昨日の出来事も今朝のワイドショーでは大々的に取り上げ、編集済みの取材風景を放映することが可能となったわけです。フィルムを持ち帰り現像を待って‥‥の時代には叶わなかった取材方法の一つです。

思えば撮影機材が随分と取材の幅を広げた時代でした。
カメラの方はソニーの民生用デジタルが開発され、世界の放送マーケットを席巻したかと思えばパナソニックも放送機材のマーケットに参入。
でも、今では民生用のデジタルムービーでハイビジョン程度の画質がキレイに撮れてしまうので、カメラを携行し忘れて取材現場に向かったとしても、地方の家電量販店でデジタル・ビデオカメラを買えば、それで間に合ってしまう程です。まあ忘れ物しなければ局の所有するお手軽なビデオカメラでも十分役に立ちますが・・・・・

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