アンフィニなミッション
クラッチ不要なモーターと違い、エンジンには変速機が必要です。意外に女子が好きなあのシフトレバーで操るギアの組み合わせです。
バイクの変速機構はクルマより一歩先んじていて、遠心クラッチの後ろに一組の糸巻き(スピンドル)のような形のプーリーを並べ、ゴムのベルトでチェーンの様に回転を伝えていました。ただしこの糸巻き(プーリー)は回転しながら幅を変えられる特殊なもので、ゴムの平たいベルトが巻きつく半径を可変式としていました。プーリーの幅を広げるとベルトは回転軸の近くを通り、狭めると軸から遠ざかる=回転半径も大きくなる、ということは二つのプーリーを組み合わせることで、無段階の変速機になるわけです。早速原付スクーターに採用され始め、今や街中のスクーターの大部分をベルトドライブが占めるまでになりました。シフトは不要、変速したかどうかも判らないくらい機械任せです。
このゴムベルトを自動車用にもっと頑丈な幅広い鉄のコマをドミノのように沢山並べたスチール製のベルトに置き換えた機構が開発されました。オランダから特許を取得して日本で最初に商品化したのは80年代の富士重工=今のスバルで、ジャスティという最小クラスの5ナンバー・ハッチバック車でした。様々に改良が積み重なり、今やガソリン車の主流といってもいいくらいの普及率となっています。レンタカーで借り出す乗用車はかなりの確率で、このCVT=無段変速機だと言えるでしょう。(最近はハイブリッド車も増えましたが)
二つのプーリーの開き具合=つまり変速比は電子制御に頼れば簡単です。車速、エンジン回転数、アクセルの開度、様々なデータを演算して減速比を決めれば燃費もベストなセッティングが得られる・・・・・これが乗用車に広く普及する原動力ともなっています。
さて、AT限定免許が制定されるまでは皆、マニュアルシフトの試験車で試験に合格したはずです。40年ほど前の試験車はコラムシフト3速ギアのセドリックやクラウンでした。サイズは5ナンバー枠一杯(これで4トン車までの中型トラックも運転できたのです)3速ギアでも実用上は必要充分。発進にはギア比が3.0を上回る1速ギアで加速し、ギア比が1.7前後のセカンドギアにシフトアップ、さらに40kmくらいまで加速してトップ(直結)にシフトします。バックする時は、間に一枚余計なギアを介在させて反対方向にギアを回します。
変速機の中身は二つの平行したシャフトに直径の違うギアが何組も並び、そのどれかがシャフトに噛み合うことで(ほかのギアは空回り)随時減速比を変える仕組みです。空回りしているギアをシャフトにしっかりはめ込むのがシンクロ・リングで、シフトレバーはこのギアのはめ込みの抜き差しを行っています。この時代のトップギアは街中の巡航速度から100km走行まで受け持たされました。
すぐさま、これでは高速走行が苦しい、とオーバートップギアが追加されます。直結のトップギアよりも速い、ギア比0.8やそれ以下=つまり増速するギアで高速走行を守備範囲としました。スバル360にオーバートップギアが追加された頃、日本では各地で高速道建設も本格化し、名神、東名、首都高速などが相次ぎ完成しました。4速のギアでもまだ充分とはいえません。トヨタ2000GTのような超高速車でなくとも5速スピードを求める声が高まりました。最高速度は相変わらず100kmまでしか認められていないのに、です。
標準的な4速ギアだと3.3~2.0~1.4~1.0とほぼ4割づつシフトアップの度にエンジン回転が変化します。3段変速と比べて、シフトアップ時のエンジン回転差が小さく、この方がエンジンの有効な回転域を上手く使える道理です。ここにオーバートップを加えたのが大半の5速ミッションでした。これとは別に、4つに分割していた速度域を5つに分割した5速ギアを持つ車が現れました。日産サニー・クーペ1200GXに追加された(5段目が1.0の直結となる)5速ミッションです。1速が3.7~2.37~1.65~1.25~5速が直結で1.0と段差が小さく設定されています。かなりマニアックな設定でしたが、ツーリングカーレースで人気だったサニークーペは、この頃のカローラを圧倒していました。
面倒なギアシフトを自動化しようという考えは古くからありました。アメリカでは半世紀も前にAT車が9割を占めるまでになりましたが今の日本もこれに近い状況です。
一対のギアが向かい合わせになるマニュアルとは全く違い、デフレンシャル・ギアのような一種の差動ギアで構成されているのがプラネタリー・ギアという自動変速機の中核です。サンギアと呼ばれる中心のギアの周りをプラネトット(衛星)の様に周回するギアがあって、外周にはこのプラネットと内側で接するリングギアが組まれています。ちょっとボールベアリングの内部にも似た構成です。リングギアの動きを止めてやると、サンギアが高回転してプラネットは回転数を遅くしてサンギアに追随します。サンギアの方が直径が小さいからで、行程の違いが減速比ということになります。サンギアとプラネタリー、リングギアを同じ速度、一体にして回せば直結(トップギア)状態になります。一段で二速ATが出来上がり。もう一段増やせば3速AT・・・さらに増やせば4,5,6速ATに・・・・・・
今新車で買えるマニュアル車は非常に少なくなり、いつか新車カタログから絶滅する日が来てもおかしくありません。高齢者の踏み間違え事故のもっとも手っ取り早い解決策は半クラッチ操作を必要とするマニュアルミッション車の購入だと思うんですが・・・・・