呪いの館へようこそ
「お疲れっしたぁ」
金曜日、23時37分。
バイト先の同僚たちに軽く挨拶をすると、急いで帰り支度をする。
早くしないと、あの店が閉まってしまう。
生粋のゲーム好きである俺は、週末になると新しいゲームを買っては、休日はひたすら家にこもり、ゲームをやり込むというのがルーティンになっていた。
だが、有名どころはもちろんのこと、あらゆるゲームをやり尽くした俺は、どんなゲームも大体2〜3日でクリアしてしまう。
そんな俺の最近のブームは、中古ゲーム屋で昔のインディーズゲームを見つけることだった。
昔のインディーズゲームは、攻略サイトもなければチート技も使えない。説明書が入っていないものだってザラにある。
しかし、だからこそ面白いのだ。これはどういうゲームで、何をすればクリアになるのかなど、探りながらやっていって全面クリアしたときの達成感は、有名タイトルとは比較にならなかった。
今日も必ず面白いゲームを見つけるぞ!とワクワクした気持ちを抑えられずに小走りでゲーム屋に急ぐと、23時50分を回ったところだった。
ふう、なんとか間に合った。
こんな夜遅くにやっているゲーム屋などそうそうあるものではないが、数ヶ月ほど前に見つけたこのゲーム屋は、なんと金曜日の21時から深夜0時までの3時間しか営業していないというから驚きだ。
21時より前に行っても、どういうわけだか店を見つけることができない。そして、深夜0時を1分でも過ぎると、シャッターが閉じられてしまうのだ。
なんとも風変わりな店だったが、ゲーム好きの俺でも見たこともない面白いゲームを大量に取り扱っていることから、店主は俺以上のゲーム好きと見た。
「こんちは〜。今日もなんかオススメありますか?」
「やぁ、一週間ぶりだね。先週のゲームはもうクリアしてしまったのかい?」
「はい! 今回もめちゃくちゃ面白かったっす! 早速売りにきました」
俺はクリアしたゲームはどんどん売る派だ。例え金にならなくても、市場に流通していないマニアックなゲームこそ売りに出して、多くの人にプレイしてもらいたいという想いがあるのだ。
「君は本当にゲームが大好きなんだね。そしたら、ちょっと待っていたまえ」
店主はカウンターの奥に引っ込み、暫くゴソゴソとあちこちの引き出しを漁ると、古びたパッケージのゲームを一本、手渡してきた。
「これなんてどうかな?」
「『呪いの館』……? ホラーゲームですか?」
「まぁまぁ、内容はプレイしてみてのお楽しみだよ。そのゲームならきっと君を何日も楽しませることができるだろう」
何日も楽しむことができる、という店主の言葉に釣られて、俺はそのゲームを購入することにした。
『呪いの館』ねぇ……。
タイトルはシンプルだけど、聞いたこともないし、どういうゲームなんだろう。
家に帰るなり早速中身を開けてみた。古すぎてちゃんと動くか心配だったが、ゲーム機に挿入してみると問題なくスタート画面が表示された。
「なになに? 『呪いの館』へようこそ。貴方はこの館に迷い込んだ旅人です……と。なるほど、この呪いの館から脱出できたらゲームクリアってことか」
チュートリアルの文面が流れると、ザッと目を通す。まぁ脱出ゲーは何回もやったことがあるから、大体のコツはわかる。
スタートボタンを押すと、次の瞬間、
ガンッ!!!
いきなり後頭部に、誰かに殴られたような鈍痛が走った。
思わずコントローラーを離し前に倒れ込む。
「ッ……いってーー!! 何だ!?」
頭をさすりながら後ろを振り返るが、そこにはいつもの自分の部屋が広がるばかりだった。
何がなんだかわからないままゲーム画面に目を移すと、砂嵐が流れている。
「はぁ!? 何だよ! 壊れたのか!?」
コントローラーを押しても何も起こらない。カセットを抜き挿ししたりゲーム機をリセットしたりしてみたが、その後何度やっても二度と起動することはなかった。
「ふざっけんなよ! こんなのただのがらくたじゃねーか!!」
楽しみにしていたゲームができなくなったことへの憤りと、先ほどからズキズキと痛む頭部の痛みでイライラがピークに達した俺は、気分転換に近くのコンビニで酒とタバコを買いに行くことにした。
だが、立ち上がって数歩あるいたところで何かがおかしいことに気づいた。
お世辞にも広いとは言えない俺の家では、自分の部屋から外に出るまでに1分もかからないはずなのに。リビングを出て短い廊下を歩き、玄関にたどり着いたと思いきや、扉を開けるとまたリビングに戻っているのだ。
頭を打ったせいで、おかしくなっているのだろうか。
そんなまさか。いや、でも、だとしたら余計に早く家を出て病院に行かなければ。
先ほどから立て続けに起こる奇妙な出来事に、心臓はバクバクと脈打っている。
焦るな。簡単なことだ。とにかく家を出ればいいんだ。この家から脱出することだけ考えれば……。
脱出、と自分で言葉にした途端、店主の言葉と先程のチュートリアルの文面がフラッシュバックする。
"貴方は『呪いの館』に迷い込んだ旅人です"
"このゲームは何日も君を楽しませられるだろう"
まさか、あのゲームは、現実世界とリンクしてるとかいう展開じゃ……
イヤな予感がしてテレビ画面を見ると、先ほどまで砂嵐だったはずのそこには、謎の数字がカウントダウンを始めていた。
あの数字が0になったら、俺は、どうなってしまうんだ―――。
驚きと絶望感に包まれながら、俺は数字がどんどん減っていくのを呆然と眺めることしかできなかった。
お題「がらくた」「館」「暫く」
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