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ご主人様と私の愛玩関係

今のご主人様に仕えるようになってから、もうどれくらい経つだろうか。

前のご主人様には、人生の半分を捧げた。
丸眼鏡がよく似合う老紳士で、要領の悪い私にもいつも優しくしてくださったため、亡くなってしまった時はとても悲しかった。
と同時に、このような生き方しか知らない私は、これからどうやって生活していこうかと途方に暮れた。
そこに、たまたま前のご主人様の知り合いだという方が現れ、こうして今、働かせていただいているのだ。

ご主人様に仕える身とは言え、その方がどのような人かわからなければ、信頼関係を築くことはできない。そのため、最初のうちは暫く様子を伺っていた。
しかし、それは杞憂だった。

ご主人様はとても陽気で懐が広く、気が向いた際には前の主人との思い出話も聞かせてくれるし、私の臆病で不器用な性質を理解した上で接してくださるため、今ではとてもいい関係を築けていると感じる。 

そして、どうやら前の主人よりもだいぶ金銭的に余裕があるようだということも、薄々わかってきた。
贅沢なことは言えない立場だが、私自身の暮らしも、以前より豊かになったことは間違いない。

しかし、その代償というものもある。
この館はとにかく広すぎるのだ。

朝起きたらすべての部屋をチェックするのが私の仕事だが、それだけで午前中が終わってしまうのではないか、と思うほどである。
また、奥様はお散歩がとてもお好きな方で、雨が降らない限りはほぼ毎日お出かけしたがるため、それに付き合うとかなり体力を消耗してしまう。

今日も日課のお散歩から帰ってきて、私が一息つこうとした時だった。

「ねえ、このボロボロのおもちゃはなに?捨ててもよろしいのかしら?」
奥様が私の寝室の前に落ちていた木のおもちゃを拾い上げ、尋ねる。

刹那、沢山の記憶が蘇ってきた。
それは、私と前の主人を繋ぐ、唯一の証だった。

「いけません!それは前のご主人様から頂いた大切なもので…がらくたに見えるかもしれませんが、私の宝物なのです。どうか、捨てるのだけはご容赦ください!」
私は普段上げない大声で必死に訴える。

いつもと違う私の様子に、奥様はびっくりして私を見た。

「あらあら、そんなに吠えて。相当大切なものなのね。ごめんなさい。ほら、返すからもう吠えるのはやめてね」

私の想いが通じたのか、奥様は私におもちゃを返してくれた。感謝の意味を込めて奥様の右手をペロリと舐める。

「さて、コロちゃん。そろそろお夕食の時間よ。ケージに戻ってちょうだい」

夕食と聞き、疲労も一気に吹き飛んだ。
私は尻尾を左右にブンブン振ると、大切なおもちゃをしっかりくわえ、自分の寝床に向かったのだった。


お題:「がらくた」「館」「暫く」

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