グッバイ,ベイベー
「ロックンロールで世界を変える」とか言う奴は、大抵みんなしょうもない。
涼太もその一人だった。
あいつは本当に純粋に死ぬほど音楽が好きで、何よりもロックを愛していて、本気で世界を変えられると思っていたし、俺はそんなあいつのことが好きだった。
俺が高3の時、当時のバンドメンバーから
「隣の高校にめちゃくちゃギターが上手い奴がいるらしい」
と聞き、初めは気に入らなかった。
多くの同級生が有名なアーティストのコピーばかりをやっている中で、俺らは唯一オリジナル楽曲でやっていたし、文化祭では俺らのバンド目当てに外部からファンが訪れるほど人気があったので、俺らには、いや俺には、音楽の才能があると信じていた。
だが、実際に涼太の音楽を聞いた時、俺は自分の慢心を恥じた。
涼太は間違いなく天才だった。
それからというもの、俺は涼太に追いつきたくて、涼太の背中ばかり追いかけていた。
音楽で食っていくことは出来ないかもしれないと思った俺は、それでも涼太のそばにいたくて、涼太のバイト先の近くの大学に進学を決めた。
家近いし、終電なくなったら俺んち泊まってけよ、と言いたいがために一人暮らしを始めると、程なくして涼太は俺ん家の居候と化した。
たまに申し訳程度のお金を渡してくれたが、俺は涼太と音楽の話をして、一緒に曲を作ったり好きなアーティストのライブに行ったり出来るだけで十分だった。
だが、俺が毎日ヘラヘラと過ごしている間にも、あいつは死ぬ気で音楽に向き合っていたらしい。
ある日、大物プロデューサーとかいう奴から連絡がきて、あっという間に涼太のプロデビューが決まった。
東京に行く、と行った時の涼太の嬉しそうな顔が忘れられない。
喜ばしいことなのに。
何よりもめでたいことなのに。
誰よりも祝ってあげたいはずなのに。
悔しくて悲しくて寂しくて、俺は酷いことを言ってしまった。
そうか、と呟くとそのまま涼太は部屋を出ていき、それっきり、お互いに一度も連絡を取ることはなかった。
ずっと居候させてやったのに、礼も無しかよ。
本当にあいつはしょうもない奴だ。
あいつがこの部屋を出て行った時から、俺の世界は止まってしまったというのに。
あいつがよく着てた深緑色のアウターはまだ俺の部屋のクローゼットにかかっているし、一緒に使っていたシャンプーはまだ中身が残っているし、喧嘩して殴り合いになったときの壁の傷だってまだ治していないのだ。
テレビからは聞き慣れたあいつの歌声が流れてくる。
あいつの目には今、何が映っているんだろう。
俺と過ごした日々は、あいつの音楽に少しは影響してるんだろうか。
またいつか、あいつと音楽について夜通し語り合いたい。
そんなことを考えながら、今日も一人、あいつが置いてったギターを抱えて眠る。
お題:「またいつか」「シャンプー」「背中」
※歌詞一部出典:ズーカラデル「恋と退屈」
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