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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

万人に知られるべき良作「ファミレスを享受せよ」のお話

「なあ、君 ファミレスを享受せよ
月は満ちに満ちているし ドリンクバーだってあるんだ」

ガラスパン

何を享受するって?

ファミレス。そう、このゲームはファミレスを享受するゲームだ。前半はネタバレなし、後半はネタバレありで内容をおとどけするぞ。
全体的に質感のいい、落ち着いたノベルゲームになっている。

あらすじはこうだ。
深夜に勉強をしていた主人公は、ふと思い立って、近所のファミレス「ムーンパレス」へと赴く。
ドリンクバーとソフトクリームを頼み、しばらく待っていた…しかし、気づけばそこは永遠のファミレス「ムーンパレス」であった。
店員はいないし、店のレイアウトも変わった。窓の外は宇宙空間のように月が浮いているだけ。出口は閉まっている。
だが、そこには先客がいた。主人公はその先客たちに話しかけ、話題を手に入れ会話しながらムーンパレスの謎を知っていく…というゲーム。
そのキャラクター達が特に個性的で、会話の内容から性格や価値観が滲み出てくるのが面白い。物語を進めていれば、すぐに愛着が湧くだろう。

何がそんなにすごい?

まずコンセプトが素晴らしい。奇抜といえば奇抜なのかもしれないが。
永遠の時を過ごすことを、どこか肯定してくれるような人々や雰囲気がプレイヤーを包むというこの世界観が、時間という檻に囚われない場所の魅力を改めて感じさせてくれる。

そして、その不思議なファミレスに迷い込んだという感覚が、グラフィック・会話・音楽と三拍子揃って染み込んでくる。どこかグッとくるものがあるはずだ。

「話題を手に入れて、会話のネタにする」というのも、従来のノベルゲームでは見られなかった仕様で面白い。同じ話題でも、別の人に振れば当然違う答えが返ってくるので楽しいのである。

どことなくゆるい雰囲気が漂う本作では、まさに「チルタイム」を楽しむ事ができる。
ドリンクバーの飲み物片手に、登場人物たちの話を聞いていると、何故か落ち着く。
音楽も相まって眠りたくなるほどだ。
先客は4人。
どこか達観した物言いをする、ガラスパン。
自身が、ファミレスなんて存在しないはずの古い時代の国王だという、レイルロード・スパイク。
元は図書館にいた、ちょっと頭脳派な大学生のセロニカ。
一室に閉じこもって出てこない、かなりネガティブ思考なツェネズ。

この不思議なファミレスに集められた5人は、主人公が雑談好きだったことをきっかけに様々な変化を体験することになる。

…ネタバレなしはここまで!
気になったかい?
よかったな、このゲームはなんとItch.ioで無料プレイが可能だ!Steam版では新しい会話とアートギャラリーも追加されている。
物語の体験だけならWeb版で十分!早速プレイしてみよう:

では、いいゲームライフを!



















以降、ネタバレあり紹介

…もう初見さんはいないな?初見なら、絶対に戻ってプレイすることをオススメするぞ。無料なんだから!
それでも良いって方、もしくはプレイが終わった方、読んでって!

話題とストーリー展開のよさ

話題を振るとき、一部はその人への追求となることがある。
それはドリンクバーの好みを知るような些細なものから、過去を詮索するような深いものまで様々。
自分の行動で変化をもたらしたときにも新しい話題が手に入る。

これらの行動のテンポが非常に良いのだ。長すぎず短すぎず、ちょっと気になってしまうような話題を振ってキャラクターの性格を掴むのが楽しい。
それを実践しているうちに謎も解けていき、気づけばゴールまであっという間、ということが容易に起きる。

各所に含まれるフレーバーテキストも、世界観への理解を深める。ドリンクバーの味だとか、場面遷移でムーンパレスの設定と思わしきものが流れたりと、どうも見入ってしまうような文章がそこかしこに散りばめられている。

「永遠」であることを前提にした粋な演出 

劇中、王さまから13ケタのパスワードを入力する必要のある箱を渡されるシーンがあった。
主人公は、これを総当たりで解くことにしたのだ。
そのシーンはまさに悠久の時を過ごす彼女らの時間感覚を表している。
セロニカが「数十万年ほど経ったが、発狂のひとつもしていない」と発言するのだが、これもまたその感覚の現れだろう。

主人公が来る前から、先客たちは途方もない時間を過ごしてきていることも考えると、実によくできた演出だと言える。

突然デカくなるスケールの話

今までデカかったのは時間感覚だけなのだが、ツェネズがいなくなったあたりから物語そのもののスケールも大きくなっていく。
この段階で「月」が関係していることがわかってくるのだが、総当たりのあとに起こる展開で、新たな関係を知ることになる。

スパイクの過去は、意外にも物語の根幹にかっていた。
もともと彼女のみがおかしな時代背景を持っていたことも怪しかったが、その伏線がそこから回収されることになる。

回想では、クラインがスパイクをファミレスへ送り込む瞬間が描かれている。
この2人最終的に月で二人きりになったようでほんまよかったです。
あと転送タイミングでガラスパンが壊れかけてるのも面白かった。

初めから使えたドリンクバーがこんな形で謎解きに使えるようになるとは思わなかった。
どの飲み物がどんな反応になるかを試すのが楽しかった。
まるで小学生になった気分だったぞ… 

ゆるい雰囲気を保ちながら、話を進めればちゃんとアツい展開も待っている。
私の大好きなタイプのひとつだ。

個人的に好きなキャラの話

冒頭でもセリフを引用したが、私はガラスパンが大ヒットである。
どことなくクールでありながら、たまに感情的になったりする、めちゃナイーブでメランコリな少女…

色々と諦めたのであろうその態度は、まさにこのファミレスの住民といった様相で、個人的にかなり好みのキャラクターだった。
「これ、黒い酒に混ぜると けっこうおいしいんだよ」
そのミルクがどこから来たかって言わない方がいいよね。 

というわけで、このゲームをたくさんの人に知ってもらいたくて記事を書きました。
どうもこのゲーム知名度が低すぎる。こんなにクオリティが高いのに。
青と黄と黒だけで表現されたグラフィックとか、チップ調でありながら耳に優しいBGMとか、唯一無二。
特に難しい謎解きもないので、初見だけど読んじゃったって人でもぜひプレイしてほしい1品。
夜中に電気を消して、1人でじっくり遊ぶとGoodです。
だれか、読み上げやってくれないかなあ。

…ではでは。



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