歳差運動1-⑫

大鍋のお湯の中に浸した2本の2合徳利も底をつきかけていた。いつもより飲み過ぎているのは明らかだった。目を閉じると平衡感覚を失い、遠心分離機に攪拌されて生じると思われる不快感が襲ってくる。原子のモデル図の電子の動きのように頭のすぐ上を何かが回っている。想像だが… 回っているのは教育事典(目の前の本棚に見えるよ)に載っているような言葉、単語のような気がする。めまいがするのはアルコールの毒性ばかりではないと感じた。俺は間違いなく中毒にはなっていないが、今は仕事という薬物に侵されているのだろうよ。おお、凄い、と思ったほどだった。

母が俺によく言っていた。酒は飲んでも飲まれるな!

暮れの寒い夜、祖父が近所の酒盛りパーティーから帰った後床に就き、便所に起きたところ心筋梗塞を起こして亡くなった。今でいうヒートショックだったんだろう。それを引き合いに出し酒のコワさを刷り込んできた母だった。

何をどう教える、は別にして母親というのは全て教育者だろうと思う。どんな大人になろうと子ども時代には誰もが親の薫陶を受けてきたはずだ。教師よりも偉大な存在。それは常に心をもって教育をしているから。愛情…学歴なんて関係ない。くそ食らえだ!

すると頭上の回転運動が一瞬止まった。


何故か孟母を思い出した。賢母の代表選手…「孟母三遷」の生みの親。というより孟母が産んだのが孟子だから、孟子の生みの親が孟母である…馬鹿かおまえは!

完全に酔ってきたことを自覚した。兎にも角にも学級通信に着手しなければならない。

孟母三遷はナイスなテーマに思えた。


続く~