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トイレットペーパーの買い占め
コロナ関連の問題の中でも,身近で大きな問題としてトイレットペーパー不足がありました。今はだいぶ落ち着きましたが,一時期はどのドラッグストアからも関連商品がなくなっていました。うちのストックが1ロールになったときは絶望ものでした。
トイレットペーパーの買い占めに関して,ニュースサイトでは『デマに流される愚かな人たち』のような論調の賢い人たちの意見をよく見ました。確かに,デマに流されやすい人たちの存在というのは,一つのきっかけにはなったと思います。ただ,個人的にはそれよりも大きな要因があったのではないかなと思います。
閾値モデル
社会心理学(だけではないと思いますが)の理論の中に,閾値モデルというものがあります。たとえば,100頭のシマウマの群れがいたとします。彼らは捕食者から逃げるために,危険を感じたら自ら逃げ始めます。それと同時に,自分は危険を感じていないけど,周りのシマウマが逃げ始めたら「なんか危ないっぽい」と思って逃げ始めることもあります。後者のように,周囲を観察して逃げ始める傾向には個体差があります。つまり,自分の周りの3頭でも動いたら逃げるやつ(A)もいれば,10頭が動いたら逃げるやつ(B),30頭が動いたら逃げるやつ(C)もいるとします。
ここで,何かのきっかけ(ライオンが近づいてきたとか)で逃げ始めたシマウマが10頭(X)いたとします。それを見たAやBのシマウマたちは,「なんか危ないっぽい」と思って逃げ始めます。すると,100頭中,逃げるシマウマが少しずつ多くなってきます。その結果,Cのシマウマたちも「なんかやっべぇ!」と逃げ始めます。最終的に,群れ全体が一斉に動くことになります。
重要なのは,周りの動きによって自分の行動を決めるという傾向のせいで,逃げるシマウマが累積的に増えていくということです。しかも,大多数のシマウマは,周りに合わせているだけで何が危険なのかわかっていません。
これをトイレットペーパーの件に合わせて考えると,①デマを信じた人がトイレットペーパーの買い占めに走る(X),②買い占めしている人(X)を見た人(A)が買い占めに走る,③買い占めに走る人(X+A)を見た人(B)が買い占めに走る…というプロセスで結果的に,皆が買い占めに走るという結果に至ってしまいます。
強調しておきたいのは,このプロセスにおいて大多数の人々は,デマを信じているわけではありません。あくまでも周りに合わせているだけです。したがって,結果として生じるトイレットペーパー不足という結果は大変馬鹿らしいのですが,あくまでも個人のレベルでは合理的な行動です。そのため,ニュースサイトでの『デマに流される愚かな人たち』のような論調は,(デマを信じる最初の人たちには当てはまりますが,)大多数の人たちには当てはまらないのではと感じるのです。
なお,シマウマの例では,最初に動き出すシマウマが一定数より多ければ群れは一斉に動きますが,一定数より少なければ群れは止まります。この一定数を閾値と呼んでいます。したがって,トイレットペーパーの場合も,デマを信じる人が一定数より少なければこんなことにはならなかったかもしれません。そうした意味では,デマを信じる人をなくすという論調も重要かもしれませんね。あともう一つ思うのは,メディアが大々的に報道しなければ,買い占めが起き始めている事実を知らなくて済むので,事態はもっと小さくなっていたかもしれません。どれだけ人の行動に影響されない人であったとしても,メディアの報道の熱が高まれば「さすがに動かないと」という気持ちになりますしね。
今回のトイレットペーパーの件でこんなことを考えました。当然ながら,閾値モデルはトイレットペーパーだけに当てはまるわけではありません。うちの近所のスーパーではパスタが少なくなっている気がします。まだ閾値を超えていないことを祈るばかりです。