書評#8「写真小史」


1930年に書かれた「写真」についてのベンヤミンによる考察。

20世紀は、間違いなく写真の世紀だと思う。しかし、写真は今やあまりにも当たり前の存在になったので、逆にその本質を見失いがちになっている。本書は、20世紀の前半、まだ写真がその誕生の余韻を残している時代に記されたことで、写真の本質をしっかりと伝えている。

著者は、写真の本質は「複製技術」であると同時に「縮小技術」であると指摘する。写真にすることで、大きな被写体を「手中に収めることができる」。たとえば、建築などの芸術作品は「実際に見るよりも写真で見たほうが理解しやすい」。確かに、現物を見た時には気づかなかった細部を写真の中に発見することがある。(「縮小技術」は現在、「デジタル技術」「ネットワーク技術」とつながって、個人が持ち運べる量も無限に拡大した)

一方で著者は、現物にあって写真に無いものは「アウラ(オーラ)」であると述べる。

「写真は現実からアウラを掻い出す。そもそもアウラとは何か。空間と時間の織りなす不可思議な織物である」

「夏の昼間、静かに憩いながら、地平に連なる山なみを、あるいは眺めている者の上に影を投げかけている木の枝を、瞬間あるいは時間がそれらの現れ方にかかわってくるまで、目で追うこと…これがこの山々のアウラを、この木々のアウラを呼吸することである」

今ここにしかない再現不可能な「一回性」が「アウラ」だとしたら、写真はそれを永久に所有したいという人間の欲求を満たす手段である。皮肉なことに、写真にした瞬間に、そのアウラは消えるのだが。

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