「談合」と「調整」の間で
昨日、五輪テスト大会おける談合の容疑で組織委や電通の元同僚が逮捕された。しかし私は一貫して、本件は違法行為としての「談合」ではなく、組織委の取引規定に則った業務としての「受注調整」であると考えている。(実際、昨日の公取委定例会見で小林渉事務総長が「談合が行われたならば、大変問題が大きい」と述べているように、まだ談合と確定されている段階ではない)。
「談合」ではないことの法的な根拠については、郷原信郎弁護士が「五輪談合事件、組織委元次長「談合関与」で独禁法の犯罪成立に重大な疑問、“どうする検察”」という小論で解説している。検察出身で公取委に出向した経験もあり、五輪に批判的な立場をとってきた郷原弁護士だけに、その主張の信頼性は高い。
郷原弁護士によれば、そもそも本件は「公の入札」ではなく「民間発注」であるため、「官製談合防止法違反」には該当せず、この点は検察や公取委も認めているとのこと。よく誤解されていることだが、組織委は民間団体であり、その運営は、スポンサー費やグッズ販売、IOCからの分配金など民間のお金で賄われている。
現状、検察や公取委は、本件は「民間発注」における「不当な取引制限」であり、独禁法違反だと主張しているが、この点について郷原弁護士は次のように「独禁法違反は成立しない」と述べている。
今回問題とされている「不正な取引制限」の実態は、入札参加企業と受注調整を繰り返したこと、テスト大会の計画立案業務を落札した企業と本大会の運営まで随意契約にしたことの2点だが、これらは組織委の取引規定の範囲内で開催都市契約を遵守するために最善の策として採用した方式だったと私は考えている。
開催都市契約とは、2013年9月7日、ブエノスアイレスで東京への招致が決まったその日に、東京都知事とJOC会長がサインした契約で、そこには大会をホストする東京都とJOCの義務等が規定されている。その中でテスト大会については次のような記述がある。
東京2020オリンピックは、33競技の国際大会を同時期に実施するという、スポーツイベントとしては断トツに規模の大きな事業で、これを一社で受注できるほどの企業は存在しない。仮に33競技それぞれを純粋な競争入札方式にしたならば、人気のある競技や将来のビジネスにつながりそうな競技に応札が集中し、いくつかの競技については応札が無いという事態も十分に想定できた。
開催都市契約にサインした以上入札が不調になることは許されず、東京都とJOCから大会運営を委託された立場の組織委は、内部の取引規定の範囲内で事前に受注を「調整」することが最善の方法だと判断したと私は認識している。
評論家の中には、今回の「談合」によって業者側が不当な利益を得たという指摘もあるが、具体的に損害額が算出された例はなく、その根拠は示されていない。仮に、入札で不調になった競技があった場合、再入札では予定価格を上げねばならず、総予算が400億円を超えてしまった可能性もある。また、これは組織委に在籍した経験上断言できるが、組織委の調達部や財務部の予算管理は相当に厳しく、随意契約だからといって水増しした見積りを見逃すほど甘くはない。
また、テスト大会を担当した企業が、本大会の運営業務まで随意契約で受注するという座組みにも合理性がある。同じ競技について、リハーサルを企画する会社、リハーサルを運営する会社、本番を運営する会社それぞれを別々に発注する方が、よほど効率が悪く、費用も大きくなる可能性が高い。
以上のように、今回問題になっている「談合疑惑」は、実際には合法的な「調整」であり、開催都市契約上の義務を果たすため、組織委および東京都とJOCの総意として最良の方法だと判断した結果だと私は理解している。捜査の結果が不起訴となった場合、個人の逮捕という事実の重さの責任を誰がどのように取るのだろうか。
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