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241222 アルバムという媒体への回帰

今日のプレイ・リストから 064
アントン・バタゴフ
アルバム『輪廻の海』

写真をはっておくための、厚手の紙でできた帳面。また、その写真をはってあるもの。絵葉書などをはることもある。写真帳。アルバム帳。

日本国語大辞典

白を意味するラテン語「アルバス」の中性単数が「アルバム」であり、古代ローマの執政官の名前や議事録を記載する白い石板を指していたようです。それが写真帳となり、さらに複数の曲を集めた録音媒体となりました。

4年前にSpotifyを登録してから、CDを買うのをやめました。それでも当初はアルバムとして聴いていましたが、Spotifyというアプリがシングルを中心にして構成されていることに気付き、アルバムにこだわってはならないと自分に言い聞かせました。新しい媒体に合わせて、聴き方を変えたいと思ったからです。

しかし、Z世代のウィル・クラークが時代を超える音楽の集合体としてのアルバムを作りたいと言っているのを知って、なるほどそうだったと思いました。我々の世代は、主にアルバムで音楽を聴いてきました。アルバムには、その時々のプレイヤーの人格が投影されています。我々はその音楽を聴くことでその人格を受け止めていました。

アントン・バタゴフは若くして「グレン・グールド以来の才能」と絶賛されたモスクワのピアニストです。その名に恥じず、32歳から12年間、ライブ・パフォーマンスをせず、スタジオでの作曲と録音に費やしました。ミニマル・ミュージックのフィリップ・グラスが最も信頼を寄せるピアニストでもあります。

44歳で突然コンサート・ホールに帰ってきました。以来、毎年、何枚かのアルバムをリリースしてきました。多作の音楽家です。今年はないなと思っていたら、年末に本作が発表されました。一聴、音が丸い。オフ・マイク録音か?とうれしくなりましたが、そうでもないようです。

ニュージャージー州パラマスのフォルテピアノ・リサイタル・ホールで録音されました。検索して会場の写真を確認すると、正直言ってホールの音響は期待できません。しかし、セミ・コンサート・ピアノShigeruKawai SK-6が、特に中音から低音にかけて、柔らかく、深く、豊かに響いています。録音技師の腕がよいからなんですが、バタゴフ自身が録音機材をセットしているというから驚きます。

アルバムの曲目は、有名なクラシック曲と私の自作曲がいくつか含まれています。母が私を膝の上に座らせ、キーボードに向かって手を重ね、バッハのプレリュードを弾いてくれたとき(それが私が「音楽に夢中になった」きっかけでした)から現在までの私の人生のすべてを網羅しています。……

このアルバムの 11 曲は、輪廻の海の岸辺に捨てられ、誰かの手に渡った散らばったページのようなものです。それらのつながり、すべてがどのように、なぜ起こったのか、そしてこれから何が起こるのかを理解しようとする試みです。もし誰かがこの惑星で生き残ったとしても、音楽を聴きたいという欲求や機会があるかどうかはわかりません。しかし、念のため、このアルバムを存在させておきます。

https://www.batagov.com/albums/SAMSARA_OCEAN_en.htm

アルバム本来の意味を再認識しました。

P.S. 毎朝聴いていますが、ふと心配になりました。こんな全人生をまとめたようなアルバムを出すと、死んでしまうんじゃないか。ボクより4つも若いんですよ。くれぐれも、順番は守ってほしい。

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