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241230 交響曲がオワコンになるのはあまりにもったいない

今日のプレイ・リストから 072
ベートーヴェン
交響曲第4番 変ロ長調 作品60 第3楽章
指揮はアントネッロ・マナコルダ
演奏はカンマーアカデミー・ポツダム


年末だからベートヴェンでも聴くかと思って、Spotifyを検索して驚きました。今年、ベートーヴェンの曲を含んだアルバムは217枚リリースされていました。しかし、ほとんどは有名な楽章のアラカルトです。交響曲を通して録音したものはほとんどありません。この御時世、交響曲はオワコンなんでしょうか。

その中で、アントネッロ・マナコルダとカンマーアカデミー・ポツダムは、唯一、9つの交響曲を全曲フルで録音していました。さて、どれを聴くか。いや、迷いはありません。ベートーヴェンなら第4番一択です。

というのも、1982年にミュンヘン国立劇場で演奏された、カルロス・クライバーとバイエルン国立管弦楽団のライヴがもっとも耳になじんでいるからです。録音は決して良くありません。ダイナミック・レンジが狭く、劇場の奥行が見通せない埃っぽい録音です。しかし、第1楽章の途中から録音なんてどうでもよくなります。火花飛び散る、魂の名演奏です。

シューマンは第4番を「2人の北欧神話の巨人の間にはさまれたギリシアの乙女」と評しています。「北欧神話の巨人」とは第3番「英雄」と第5番「運命」を指します。なのに、クライバーはもう一人の屹立する巨人として第4番を解釈したかったのではないでしょうか。

それに対して、マナコルダ版は古典に回帰しています。まず一聴、録音がよい。収録場所はベルリンのピエール・ブーレーズ・ザール。会場の響きのまろやかさがわかります。設計を請け負ったフランク・ゲーリー(大好きな建築家です)が日本の永田音響設計に任せたホールです。

第1楽章はクライバーより2分もゆっくり演奏されていました。クライバーの迫力には及ぶべくもありませんが、より優しく和やかで豊かです。まろやかなホールの響きと相まって、穏やかな、たおやかな印象は徐々に高められていき、やがて第3楽章で結実します。まるで「ギリシアの乙女」たちが、広い谷間でダンスを踊っているかのようです。




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