あの子に会いに森へゆく
⭐︎登場人物⭐︎
「マオ」
社会人。子供の頃好きだった番組はポンキッキーズと電脳コイル。
『魔王』
マオのイマジナリーフレンド。テレビはあまり観たくないけど日曜美術館は好き。
幼い頃。
祖父母の家でEテレをぼーっと見ていたら、偶然はじまった人形劇の再放送。
銀色の髪に煌びやかなドレス。
鈴を転がしたような美しい声。
なんて素敵なお人形さんなんだろう!と、幼心に感動したのを覚えている。
それがプリンプリン物語の主人公、プリンセスプリンプリン。
そして現在。
インスタのリールをぼーっと眺めていたら、プリンプリンをはじめ劇中全ての人形たちが展示されている施設を知った。造形作家の友永詔三氏の美術館であきる野の山奥にあるらしい。
ちょうど気分が急下降していて自然の中を歩きたい気分だったので、リフレッシュがてら会いにいくことにした。
最寄駅は武蔵五日市駅。
中央線の果ての駅。
近づくにつれどんどん山が近くなる。
「新卒の頃、半年間よくここまで通ったよね。」
『通勤に往復約4時間かけていたなんて今じゃ信じられないよな。』
「まぁね・・・・・あ。」
『何?』
「事務員時代にミスを指摘されて「もういいよ」と呆れられたり悲しかったこと一気に思い出しちゃった・・・しんどい。」
『気分が落ちている時ってそういうのが湧き上がってくるよなぁやっぱり。我らは大小色んなことを乗り越えて今日まで来たんだ。まずは誇りを持て。・・・事務だって悪いことばかりじゃないし、現場仕事になってからは楽しかったろ?』
「うん。いづれにせよ、人には恵まれていたから毎日ここまで通えたんだよね。」
『我らって割と幸せ者だな。』
思い出に浸っていたらあっという間に到着。
『クマ出没注意だって。鈴持ってきた?』
「忘れた。」
『山に行くのに?!』
「秋川渓谷とかそっち側じゃないの?きっと大丈夫っしょ。」
9月とはいえ気温は30度を余裕で超えている。
この中を3キロほど歩いて向かう。
水分しっかり摂ろうね。
左を向くとのっぽのノームみたいなオブジェがある。友永氏の作品でジィージィーというらしい。彼らを辿っていくと美術館へ辿り着くという。
メルヘンチック!
坂を登って住宅街を通り過ぎる。
山がズンズン迫ってくる。
日差しは強いし風もあまりないけれど緑がたくさんあるってだけで涼しく感じる。
『なんか箱根みたいな道だな。登山バスで見たことあるぞこういう道。』
「匂いも箱根の朝と同じ気がする。窓開けた時の。気持ちいいね。」
山の中とはいえ車道なので舗装されている。
歩きやすくていいわ〜と、るんるん気分で歩いていると一枚の看板が目に入った。
目撃されてんの!?終わったわ。
『きっと汗だくのお前の元に旨そうな人間の脂の匂いがするってやってくるぞ。』
「なんでクマ目線なんだよ。」
『我も日頃からそう思っているから。』
「きっっっしょ。もう置いてこさいなら。」
『ヤダヤダ置いてかないで!てか普通にここら辺人の家あるんだね。』
「....人の気配は全然しないけどね。」
40分ほど歩いてやっとこさ到着。
深沢小さな美術館。
館内には家族連れ1組と外国人2名がいた。
『平日の山奥なのに意外と人がいるんだなぁ。』
撮影OKとのことでいろいろ撮って見て回った。
あの日見たプリンプリンが目の前に!
「画質がガビガビでも美しく見えたけど、実物も作りが細くてすごいわぁ。髪ツヤッツヤ、まつ毛なっが!」
『お会いできて光栄です、プリンセス・プリンプリン』
「魔王って跪けるんだ。足ほとんどないのに。」
『地に足つかずともプリンセスに敬意を表するのは当然だろう。』
「じゃあ私にも跪いてよ。」
『お前はプリンセスではない。脳筋な戦士だ。』
「え〜?」
『新渡戸稲造の武士道でも読んでもっと精神を鍛えな。』
隣の喫茶室へも行く。
どちらかというとインスタにはこっちがメインで載っていた。
テーブルや椅子も友永氏の手作りらしい。
すごいなぁ!
テラス席で風に吹かれてゆったりとした時間を過ごすことができた。
『普段いろいろとごちゃごちゃ考えちゃうけどさ、こんな豊かなひとときを増やしていきたいね。』
「私たち、もっとちゃんと自分の人生を歩んでいきたいね。」
帰りももちろんせっせと歩いて山を降った。
無事に駅まで着いて、NewDaysで奥多摩土産を家族や知り合いへいろいろ買った。
いろんな思い出に浸った良い休日だった。
【おしまい】
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