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僕だけの秘密の君。

君とはまだ、喋ったことがあまりない。それでも、分かる。僕は君のことが好きなのである。
そんなことを思ったのは、予備校に通いながらの事である。僕は受験に失敗し、浪人生となってしまった。そこで予備校に通い、第二の受験生の道を歩んでいるのである。
予備校のクラスは40人ほどで、大体の授業は同じ人で受ける。文系志望理系志望で多少変動するが、半年も通えば、顔馴染みになってくる。男が多く女子はあまり多くない。大体一緒にいる連中は決まってきて、高校の時のようにグループができる。

女子は少ないこともあり、一つのグループにまとまっていた。そんな中で1人だけ、グループに属さず1人で過ごす少女がいた。彼女は、いつも俯きがちだが、髪の毛には艶があり、毛が細く、とても綺麗な髪をしている。僕は授業中眺めるのが好きだ。まだ声すら聞いたことがないのに。
彼女は休み時間いつもイヤホンをつけている。音楽を聴いているのである。なんの音楽は知らない。彼女はコード付きのイヤホンをしている。今時ワイヤレスが主流で、コード付きイヤホンをしている人は珍しいだろう。しかしそのイヤホンはiPhone純正ではなく、赤色のイヤホンである。好んでコード付きにしているのだろうか?と思いながら、また眺める。

ある日の予備校の帰り、母に買い出しを頼まれていたことを思い出した。予備校に通わせてもらってるし、母の言うことを基本的に聞くようにしていたため、その日もいつもの帰り道から逸れて、業務スーパーへと行く。そこで彼女を見かける。
彼女はカートにカゴを乗せ、買い物をしている。カゴは割とぎっしり詰まっていて、生活感を匂わせた。
風の噂で、片親だと聞いた気がする。
なぜだか分からないが、同い年の子が、スーパーで買い物を、しているのをみて、心が躍った。なぜだが明確には分からない。自分と歳が変わらないのに、こうも自立しているのか驚いたことだけは覚えている。僕は、なぜ隠れるのか分からないが、彼女にの視界に入らないように、追った。彼女は、慣れた手つきで、生鮮食品のコーナーから、野菜やら肉やら、魚やらを書い、ヨーグルトや、野菜ジュースも買っていた。まるで主婦ではないかと思った。自分で料理もするのかなとも考えた。理由はわからないが、彼女が視界から離れなった。

それ以来、授業には集中できず、彼女ばかり気にしてしまう。まだ声も聞いたことがないし、顔すらしっかりみたことが無い。

また、ある日、予備校が休みで、図書館で勉強しようと考えたときである。日が暮れ始めた。帰ろうと図書館を出ると、彼女が道の先に見えた。なぜだかよく分からないが、僕は彼女を追いかけた。これはもしや、ストーカーでは?と思いながら、まだ19だし許させるのかな、と少ない知恵を絞って、結論づけた。とはいいつつ、バレてはいけないと思い、距離をとって後をつけた。

すると彼女は、河川敷に降りた。
誰もいない、1人だけである。

彼女は橋の下をくぐり、手入れの行き届いていないところへ進む。僕はバレないように追いかける。彼女は、コンクリートのブロックにカバンを置くと、川に向かって、背伸びし立った。

当然のことだ。

彼女は歌い始めた。

世界で一番綺麗な歌声だ。

大袈裟ではなく、本当にそう思ったのである。まだ19歳の未熟な僕の中では、本当に世界一綺麗な歌声に感じた。

落ち着いたトーンで、透明感がある。
透き通った声は僕の心臓をも貫く。

初めて聞いた声であった。
が、僕はもう夢中であった。川の波の音と、電車が通る音でかき消される彼女にの声は、僕にギリギリ届くか届かないかである。

この街で、彼女の魅力を知るのは僕だけだと思った。


この街で僕以外、君の可愛さを知らない。

今のところ僕以外、君の可愛さを知らない。


スピッツ 草野正宗

大宮サンセット

この街で俺以外
君のかわいさを知らない
今のところ俺以外
君のかわいさを
知らないはず

大宮サンセット
君は何故
悲しい目で微笑む
大宮サンセット 手をつないで
歩く土曜日

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