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思い出せないのは、

好きだった人がいた。とても好きだった。上手く行っているつもりだった。突然である。まぁ人生の全ては突然であり、大半は不幸であり、その半分より少ないくらいが幸せなのかなと高校2年生の僕は悟る。

よく悲劇のヒロインを気取るなと失礼した人は言われるが、今はよく分かる。この世で一番自分が不幸なのではと考えざるを得ない。2つ隣の勉強ができるクラスにいた君は、真っ赤なリュックを背負っていた。なかなか他に類を見ないから印象に残る。靴もスタンスミスの白を基調とたものに赤のラインが入っているものを履いていた。赤が好きなのかな、とか考えたりもした。

とにかく気になって仕方なかった。彼女の事が。そして人間は何故だか、そこからさらに付き合いたいという欲が生まれる。付き合わなければ友達になれて、そのまま良い関係を築けるという展開もあるのだろうが。なぜ付き合いたいと思うのであろう。なぞである。欲塗れじゃないか、と自分のことを卑しく思う。

彼女は横顔がとても素敵で、大人しめである。僕は彼女のシャツの姿が好きである。もちろんのことブレザー姿もとても好きなのだが、彼女の黒い艶々の髪の毛に相反する真っ白なシャツと、白い肌がとても魅力的であった。横を通り過ぎる時に香る匂いも堪らなく好きであった。そして俯きながら歩く姿に、黒いものを感じていたが、それも他の女子とは違っていて、とても魅力的であった。僕の中では彼女が一番であり、彼女がずば抜けていた。

それから僕は同じクラスの、彼女と同じ部活の子のSNSアカウントから、彼女を探し出すことに成功した。思い切ってなのか、あの当時は青かったのか、いきなり連絡をした。相手が自分のことを認知していたことはとても胸が高なった。

今思えば、順調過ぎるようにも聞こえるが、連絡先を交換し、ラインを送った。彼女は15分から30分くらい置きにラインを返してくれた。なんとも言えない焦らされる時間が心地よかった。これが駆け引きというやつか、と、考えるほどだ。今思えばなんだそれと思うが。恋話を当然するわけであるが、なんと中学2年から4年間も付き合っている彼氏がいた。僕は心が縮こまって、氷のように硬くなるのが分かった。でも、その後に、「もう全然会ってないし、ひどいんだ。」とラインが来た。順調じゃないか!と思った。今思い返すと順調過ぎるのだ、この世には不幸がある。いや、ないと行けないのだ。落ち着かないのである。

別れてもらい付き合うことになった。21になった今でも、その時の画面をスクショしているとは、これがひきづり過ぎた恋の結末であろう。

付き合うと彼女は素っ気なくなっていく。僕は彼女と付き合えたことが嬉しいあまり、我慢をしていたが、3ヶ月が経たない頃、ついに口に出して喧嘩をした。というよりか、喧嘩にさせようとした。一度も喧嘩をした事がなく、喧嘩をすると続くとか聞いた事があったからだ。また、彼女は塩顔のイケメンとやらが好きだし、ジャニオタであったから、いろいろな噂があった。塩顔の新任の先生に恋をしてるだの、年下の男子ハンドボールの坂口健太郎似のイケメンに似ているだの。その子と一緒に帰ったところを見ただの。僕の不安が募る。

彼女は母子家庭である。また父の不倫で離婚したらしい。ということから僕の偏見に偏見が募り、浮気がちなのか?とまで思った。

恋はちょっとした憂鬱と愛があれば成立する

と、感じた。これだけ冷たくされても、僕は恋をしているのだから。

結果として、その喧嘩の言い出した口が元で、別れを告げられた。僕はひどく悲しみに溺れて、孤独に泳ぎ出した。

新任の先生か??年下の男子ハンドボールのやつか??誰だろう。怒りよりも、疑問が勝っていた。

結局最後まで交換してくれなかった他のsnsを見ると、
前カレが好きだったのである。
彼女の中では彼が特別であったようだ。
月に1度会えるか会えないかという彼らしい。
顔も知らない。
隣にいるだけで、微妙に距離が空いていても、
それが心地いいらしい。

僕は絶望し、そこから価値観が大きく変わった。

彼女に未だに好かれようとしているのか、僕もよく分からないが、恋愛には冷め、連絡も用事の時だけ、会うのも1ヶ月に1度もなくて良い、なんて言うようになってしまった。

染まってしまったのだ。彼女に。
染められてしまったのだ。

それから色々恋愛もしたし、身体を重ねる人も増えたが、未だに忘れられずにいる。
SNSはブロックされ、その子は今どこで何をしているのかも知らない。
もう一生会えないのであろう。

あれだけ好きだったのに。

思い出せなくなったのだ。
君だけ。
君の声。目の感じ。君の匂い。

あれほど愛しいのに、思い出せないのである。

再び思い出す事が出来るときは、きっと泣いてしまうだろう。

嗚呼会いたいな。
輪廻転生して君に会いたい。

・恋のはじまり
スピッツ 草野マサムネ 

思い出せないのは君だけ 君の声 目の感じ
思い出したいのは君だけ ぼやけた優しい光

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