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ポリハレビーチまで 4)凪の視線

カウアイ島へ一緒に旅することになったのは、不思議な関わり合いを続ける年下の友人「凪」だった。

そもそもは職場の上司と部下として出会った。

当時私は自然雑貨の店の店長で、凪は新人アルバイトだった。

ヨガの勉強を深めている最中だった凪は、入社して3ヶ月ほど経ったころ、

「そのうち1ヶ月ぐらい休みをください。アメリカにヨガのトレーニングに行きたいんです」

と願い出た。

「だったら次のシフトで行けば? 店のことはなんとかするし」

私がそう答えて実際その算段を始めると、凪は少したじろいだようだった。

確かに規模の小さい小売りの店で、入ったばかりのアルバイトが1ヶ月間休むというのは、あまり聞かない話ではあった。


のちに凪は何度もこの時の話をして、「どうせOKはもらえないだろうし、ダメなら辞めるつもりでした」と白状した。

そして「なのにまさかすぐ行っていいよなんて言われると思わなかった」と笑った。


そもそも私は、「夢のある人」に憧れていたのだ。

自分の人生でこれをやると決めている人が羨ましかった。

自分はやりたいことがあれもこれもあると言いつつ、何にもモノにできていなかったから。

夢らしきものを口にするのに行動に移さない自分、夢らしきものを持っているだけで何かを免除されているような気になっている自分、その夢がころころと変わる自分。

そんな自分の軽薄さ浅薄さに自己嫌悪があった。


凪には、最初からどこか独特のムードがあった。

ふんわりとどこにでも溶け込んで、いつでも穏やかな波動のようなものを発していた。

誰とも壁を作らず、初めての客であれ同僚であれ昔からの知り合いのように穏やかに接していたが、私には凪の心の半分はいつも違う場所にいるように見えた。

きっとここは凪が本来いるべき場所ではないのだな、と当時私は感じていた。


私にはいつか自分を解放したときの凪がどこにたどり着くのかわからないけれど、進んでいく様子を見ていたい気持ちでいた。

実際、お互いがその職場を離れても付き合いは続き、私は凪がどんどん自分を開花させていくのをリアルタイムで見続けた。

広い花畑で季節ごとに違う花が咲いていくみたいに、凪はいろいろな興味や好奇心を形にして進んでいった。

今では凪は、世界中をフィールドにヨガのみならず歌ったり踊ったり花を編んだりして自分を表現していた。


凪はずいぶん遠くまで羽ばたいた。

相変わらずもぞもぞと地面を這うように生きていた私は、なぜ凪がこんな自分と今も繋がっているのかと訝りながらも付き合いを続けていた。

凪が見ている世界は、自分の見ているものとはまるで違うのだろうと思っていたし、自分はきっと一生、凪と同じものを見ることはないだろうと感じながら、凪の目に映る世界に憧れていた。

だから凪とカウアイ島を旅すれば、自分も少しは凪と同じ世界が見られるのではないかという淡い期待も心の片隅にあったのだ。



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